ブレイクファスト!-恋の速攻は決まらない-

 六月に入り、インターハイに向けた追い込みはさらに本格化した。
 冴島は目に見えて成長していた。まだ細かなミスは多いし、ドリブルもシュートも完璧なわけじゃない。それでも、元々の運動能力の高さに加えて、誰よりも練習を重ねたことで、技術を確実にものにしていた。
 部内の練習試合でもすでに頭角を表し始めていた。
 特に俺と同じチームになったときは強かった。俺が相手の癖を伝えればすぐに動き、その俊足できて欲しい場所に確実に飛び込んできてくれた。
 一方で、間宮との相性はいまだに最悪だった。同じチームに入れると連携がうまくいかず、その様子を見ていた長嶋先輩もやれやれと言った様子でため息をついていた。
「お前さぁ、何で俺にパス回さないんだよ」
 ある日の練習試合で、試合終了と同時に、間宮が冴島に食ってかかった。
「一人で抜いて行った方が早いと思ったんで」
 目も合わさずにしれっと答える冴島に間宮は顔をしかめると、
「おい、羽鳥」
 と、コートの外で見ていた俺を呼んだ。
「こいつマジでご主人様の言うことしか聞かないじゃん」
「だからそういう言い方するなよ」
 俺は間宮をたしなめながらも、言い返すことはできなかった。
 間宮の隣に立っている冴島をちらりと見ると、相変わらずの無表情で悪びれもしていない。
「あのなぁ、陸上と違って、バスケはチーム競技なんだよ」
 間宮は冴島ではなく俺に向かって言った。
「お前といるときだけこいつの技量が上がっても、そんなん使い物にならねぇだろ。なあ? 冴島専属コーチ様よォ」
 煽るようにそういうと、間宮はコートを出ていった。
 正直、間宮の言っていることは何も間違っていなかった。

『絶対チームの輪、乱すだけだって』

 冴島を初めて勧誘しに行ったとき、間宮が言っていた言葉だ。それが今、的中している。
 実際今日だけじゃない。冴島は俺と組んだときは俺の意図を汲んで動けるのに、他の部員とだと全然噛み合わなかった。
 自分で突破できると思えば冴島は一人で突っ走ってしまう。そのせいで連携が崩れる場面を、何回も見てきた。
(俺の教え方のせいだ)
 それくらい俺は冴島とバスケするのが気持ちよかった。
 俺の狙った場所へ冴島は迷わず来てくれる。俺が思い描いていたプレーに冴島なら手が届いてしまう。だから気がつけば、いつも冴島とばかり組んでいた。

『飼い犬に』

 間宮に言われてムカついてた言葉なのに。
 だけど周りからそう見えてしまっているのだとしたら、その原因を作ったのは俺だ。

──俺は、冴島をチームの一員にしてあげられていない。

 インターハイ予選まで残された時間は、あとわずかだった。