次の日から冴島を迎えたバスケ部の練習が始まった。
長嶋先輩が組んだメニューをもとに、俺はバスケの動きとルールを冴島に叩き込んでいった。
最初はドリブルしながら走ることすらままならなかったが、冴島はあっという間にコツを掴んでいった。
「デカいだけで大したことねーな」なんて、わざわざ見にきては嫌味を言っていた間宮も、一週間を過ぎるころには舌打ち混じりに通り過ぎるだけで、何も言わなくなった。
才能もあるだろうが、それ以上に練習量が人並み外れていた。俺と二人でいつまでも残って練習を続けるものだから、先生の方が「もう帰ってくれ」と懇願し出すほどだった。
冴島がバスケの基本動作を一通り身につけたころ、長嶋先輩が「1on1やってみるか」と提案した。
「とりあえず羽鳥。お前を相手に──」
「俺がやります」
先輩の言葉を遮ったのは間宮だった。
「おー……じゃあ、間宮」
長嶋先輩は面白そうに笑った。
スリーポイントラインの外側に冴島が立つ。
その正面に立つ間宮にボールが一度渡され、そのボールが冴島に返されて勝負が始まった。
背の高さを活かしてシュートが打てれば有利ではある。だが、二年でレギュラー入りできる実力を持つ間宮だ。そう簡単にシュートの体勢は取らせない。ゴール下に攻め込もうにも、身長の高さが仇となってドリブル位置が高くなり、ボールは何度も奪われてしまう。
「ナイスディフェンス!」
間宮に声援が飛ぶ。
「もう一回お願いします」
ボールが奪われるたび、冴島は頭を下げてポジションについた。
それでも何度挑戦したところで、冴島が間宮を抜けることはなかった。
「やっぱ大したことねーなー」
挑発するような間宮に、長嶋先輩は呆れたようにため息をついた。
「間宮は私情を挟みすぎだ。新人相手に大人気ないぞ」
先輩の隣で見ていた俺も苦笑しながら、試合を見かねて一度冴島をこちらに呼んだ。
「冴島」
「はい」
「自分がどう動くかだけ考えるんじゃなくて、ちゃんと間宮の動きも見ろよ」
「……見てます」
「見てないよ」
冴島はじっと俺の顔を見た。
「間宮は右を抜かれたくないんだ。だからわざと君を左へ行かせてる。バスケは頭も使うんだよ。言ってることわかる?」
冴島は黙り込むと、静かに頷いた。
「あと、ドリブルが高い。あれじゃ簡単に弾かれるよ」
「……はい」
試合が再開される。
間宮からのボールが冴島に返って、勝負が始まった瞬間、冴島は間宮の誘導通り左に踏み込んだ。間宮の重心が左に傾いたその直後、一瞬の隙をついて冴島はひらりと体を右に切り返した。そして姿勢を低くしたまま、間宮の右を抜き去ってゴール下まで俊足で駆けて行った。そして、右、左とステップを踏むと、ふわりと浮いてシュートを放った。ボールはネットを揺らして、見ていた部員たちからもどよめきが起きる。
「おー。羽鳥のアドバイスが効いたな」
長嶋先輩が感心したかのように手を叩く。
「いや……あんな簡単なアドバイスで動ける冴島がすごいんですよ」
正直、俺も驚いていた。
「お前はほんと謙虚だな」
先輩はくつくつと笑った。
「お前と冴島、良いコンビだと思うぞ。モンスター使いって感じで」
「なんですか、それ」
そう首を傾げていると、不機嫌な声が割って入る。
「余計なこと吹き込んでんじゃねーよ。飼い犬に」
そう間宮が吐き捨てて、肩をぶつけるように俺の横を通り過ぎていく。
その後ろから冴島がやってきて、頭を下げた。
「羽鳥先輩のおかげで一本取れました」
「いやいや。君の理解力が早いからだよ。さすがだね」
そう褒めると、冴島は目を見開いてこっちを見つめた。
少し紅潮した顔で向けられた眼差しに、なんだか胸がどきりとして俺は咄嗟に目を逸らした。
長嶋先輩が組んだメニューをもとに、俺はバスケの動きとルールを冴島に叩き込んでいった。
最初はドリブルしながら走ることすらままならなかったが、冴島はあっという間にコツを掴んでいった。
「デカいだけで大したことねーな」なんて、わざわざ見にきては嫌味を言っていた間宮も、一週間を過ぎるころには舌打ち混じりに通り過ぎるだけで、何も言わなくなった。
才能もあるだろうが、それ以上に練習量が人並み外れていた。俺と二人でいつまでも残って練習を続けるものだから、先生の方が「もう帰ってくれ」と懇願し出すほどだった。
冴島がバスケの基本動作を一通り身につけたころ、長嶋先輩が「1on1やってみるか」と提案した。
「とりあえず羽鳥。お前を相手に──」
「俺がやります」
先輩の言葉を遮ったのは間宮だった。
「おー……じゃあ、間宮」
長嶋先輩は面白そうに笑った。
スリーポイントラインの外側に冴島が立つ。
その正面に立つ間宮にボールが一度渡され、そのボールが冴島に返されて勝負が始まった。
背の高さを活かしてシュートが打てれば有利ではある。だが、二年でレギュラー入りできる実力を持つ間宮だ。そう簡単にシュートの体勢は取らせない。ゴール下に攻め込もうにも、身長の高さが仇となってドリブル位置が高くなり、ボールは何度も奪われてしまう。
「ナイスディフェンス!」
間宮に声援が飛ぶ。
「もう一回お願いします」
ボールが奪われるたび、冴島は頭を下げてポジションについた。
それでも何度挑戦したところで、冴島が間宮を抜けることはなかった。
「やっぱ大したことねーなー」
挑発するような間宮に、長嶋先輩は呆れたようにため息をついた。
「間宮は私情を挟みすぎだ。新人相手に大人気ないぞ」
先輩の隣で見ていた俺も苦笑しながら、試合を見かねて一度冴島をこちらに呼んだ。
「冴島」
「はい」
「自分がどう動くかだけ考えるんじゃなくて、ちゃんと間宮の動きも見ろよ」
「……見てます」
「見てないよ」
冴島はじっと俺の顔を見た。
「間宮は右を抜かれたくないんだ。だからわざと君を左へ行かせてる。バスケは頭も使うんだよ。言ってることわかる?」
冴島は黙り込むと、静かに頷いた。
「あと、ドリブルが高い。あれじゃ簡単に弾かれるよ」
「……はい」
試合が再開される。
間宮からのボールが冴島に返って、勝負が始まった瞬間、冴島は間宮の誘導通り左に踏み込んだ。間宮の重心が左に傾いたその直後、一瞬の隙をついて冴島はひらりと体を右に切り返した。そして姿勢を低くしたまま、間宮の右を抜き去ってゴール下まで俊足で駆けて行った。そして、右、左とステップを踏むと、ふわりと浮いてシュートを放った。ボールはネットを揺らして、見ていた部員たちからもどよめきが起きる。
「おー。羽鳥のアドバイスが効いたな」
長嶋先輩が感心したかのように手を叩く。
「いや……あんな簡単なアドバイスで動ける冴島がすごいんですよ」
正直、俺も驚いていた。
「お前はほんと謙虚だな」
先輩はくつくつと笑った。
「お前と冴島、良いコンビだと思うぞ。モンスター使いって感じで」
「なんですか、それ」
そう首を傾げていると、不機嫌な声が割って入る。
「余計なこと吹き込んでんじゃねーよ。飼い犬に」
そう間宮が吐き捨てて、肩をぶつけるように俺の横を通り過ぎていく。
その後ろから冴島がやってきて、頭を下げた。
「羽鳥先輩のおかげで一本取れました」
「いやいや。君の理解力が早いからだよ。さすがだね」
そう褒めると、冴島は目を見開いてこっちを見つめた。
少し紅潮した顔で向けられた眼差しに、なんだか胸がどきりとして俺は咄嗟に目を逸らした。
