○冷泉寺別邸・中・中央階段(昼)(※天禰視点)
率先して掃き掃除をしている双葉。
ほかの使用人と同じメイド服を着ている。
使用人たちともなじんでいる。
少し離れた場所で、天禰と桔梗が双葉に聞こえないよう、こそこそ話をしている。
天禰「……ねえ、桔梗。双葉嬢はどうしてメイドの格好をしてるの? 僕は客として迎えたつもりなんだけど」
桔梗「輪禰様が『新しい使用人?』などとおっしゃったせいです。あの方は、もう……」
天禰「異母兄さんのしわざかあ……」「まあ、双葉嬢が楽しそうだからいいかな」
桔梗「いきいきしてらっしゃいますね」
天禰「使用人が足りてないから助かるんだけどね」
双葉が天禰を見つけて話しかけてくる。
いつになく明るい笑顔を向けられて、天禰、少し胸が高鳴る。
天禰M「あれ、なんだこの感じ……」
双葉「天禰様」
天禰「っ、うん、なに?」
双葉「前に車の中で、『使用人がすぐ辞めてしまう』とおっしゃっていた気がするんですが、どうしてですか? こんなにいい職場なのに」
天禰「それは――」
天禰、ひとつ咳払いをして、
天禰「みんな、僕に惚れてめろめろになってしまうんだ」
双葉「……」
天禰「ごめん、嘘です。……異母兄さんがすぐに手を出しちゃうんだよ。困った人なんだ」
双葉「でも、仲がおよろしいみたいですよね」「うらやましいな」
天禰「双葉嬢――」
天禰、双葉を慰めようと無意識に肩へ手を置きかけて、やめる。
双葉、それに気づかず、くるりと身をひるがえし、微笑む。
双葉「あっ、次は昼食の仕込みがあるんです。このお屋敷は洋食がメインですから、知らないお料理ばかりでお手伝いも楽しいです!」
天禰「そっか……」
立ち去る双葉。
片手で顔を覆う天禰。頬が赤い。
少し離れて見ていた桔梗が冷静につぶやく。
桔梗「遊んでらっしゃいそうな見た目に反して、意外に純情ですよね、天禰様は」
天禰「うるさいよ」
○場面転換
自室の机に向かう天禰。
壁には大きな迦奈川の地図が張られており、自身はタブレット端末に視線を落としている。
説明N「桜護りの仕事は受け持ち管区の巡視のほか、月に一度の各支部での定例報告会、半年に一度の菫京会合、年に一度の京斗・神桜御所で開かれる神桜総会などへの出席が挙げられる」
巡視する桜護りたちの姿、支部での報告会の様子、菫京会合の会場、神桜総会の開かれる御所の外観の描写。
説明N「神桜総会では、桜護りの選定および退任も協議される」「桜護りの多くは、会社経営などの事業のかたわら、務めを担っている」
天禰の横顔のカット。
天禰「あー……疲れたあ」
天禰、机に突っ伏す。
するとノックの音が響く。
天禰「はい」
双葉「お茶をお持ちしました」
天禰「ああ、入っていいよ」
双葉、ティーワゴンを押して現れる。
天禰、頬杖をついて、机にお茶を置く双葉の様子を見守る。慈しむような眼差し。注がれた紅茶を一口含んで目を伏せる。
天禰「ん、美味しい」
双葉「よかったです」
双葉、頬を染める。
天禰、その表情に少し落ち着かなくなる。話題を探すそぶりを見せる。
天禰「うちに来てしばらく経つけど、慣れてきたかな?」
双葉「はい。みなさん、とても良くしてくださいます」
双葉、いったん言葉を切ってから、意を決したように天禰を見る。
双葉「天禰様のおかげです……ありがとうございます」「あの日、天禰様が家から連れ出してくださらなかったら、わたしは今もずっと土蔵の中でした」
天禰、何か落ち着かない気持ちになる。昔も双葉とこんな会話を交わしたような既視感――(※二人は遠い前世に関りがある)。
天禰「双葉嬢」
天禰が呼びかけようとした時、人が上がってくる気配がする。
ノックとともに、
須田の声「天禰様。高善院侯爵がいらっしゃいました」
高善院の声「連絡もせずに押しかけてすまないな」
天禰M「相変わらず、すまないという態度じゃないな」
天禰「どうぞ」
納得のいかない顔の須田と、おそらく須田を押し切った高善院(天禰より年上。嫌味そうな顔をしている)が入ってくる。
高善院「迦奈川筆頭、冷泉寺侯爵」
双葉が部屋の隅に下がる。
高善院、天禰の前に立つ。
高善院「例の剣崎の桜の異常はどうだった?」
天禰「残念ながら、まだ解明してないよ。桜の枝なら、ほら、そこにある。『折られた』『痛い』とぼやくくせに、ほかは何にも話してくれないんだ」
桜の花瓶が天禰の部屋に飾られている描写。ごく普通の桜に見える。
高善院「あんたと何度か共鳴したらしいな。今は?」
天禰「うんともすんとも言わない。一度、共鳴とはまた違う気配がしたから、そちらもおいおい調べる予定だ。別地区の巡視が終わったらね」
高善院「なんだ、結局何もわかってないのか。よくもその調子で迦奈川筆頭を名乗れるものだ。相変わらず面の皮が厚いな」
天禰「厚顔でないと筆頭なんて務まらないさ。お褒めの言葉と受け取っておくよ」
高善院「『混ざり者』は、嫌味も称賛と混ぜ合わせてしまうんだな」
真顔の須田が天禰と高善院の間に割って入る
須田「高善院侯爵閣下、どうかその辺りで」
高善院「ふん」
高善院、退室する。
須田も一礼して出ていく。
天禰「いつも通り、いや、いつにも増して嫌な感じだったな」
双葉、遠慮がちに尋ねる。
双葉「今の方は、桜護りの……」
天禰「高善院だよ。同僚みたいなものだ」
双葉、何か聞きたげな表情。
天禰、口元に笑みを浮かべつつも、表情をかげらせる。
天禰M「何しろこの見た目――」
天禰「生まれつき、この外見なんだ。異国人みたいでしょう? 父も母も生粋の日本人だというのにね」「いや、生粋とは言わないのか。たぶん、何代か前に異国人の祖先がいたのだと思うよ」「だから『混ざり者』の僕は桜護りには適していなかったというのに、ほかに適した候補者がないから選ばれたんだ」
幼少時の天禰と、陰口を交わすような人々の描写。
天禰「力があれば、高善院だって筆頭くらいになれた。でも、なれなかった」「選ばれないということは、『混ざり者』のこの僕より劣っている証だ」「ざまあみろ、って思うね」
双葉、おずおずと口を開く。
双葉「花族の方々の血統のことは、わたしにはよく分からないですけど」「天禰様に初めてお会いした時、綺麗な方だと思いました。綺麗なだけでなく、お優しくて。わたしを救ってくださいました」
天禰、目をみひらく。
双葉「わたしは天禰様に感謝しています、とても」
天禰「……ありがとう……」
天禰、頬が赤く染まったのを隠すように頭を下げる。
しかし、双葉が青ざめているように思えて、顔を上げる。
天禰「双葉嬢、顔色が悪い」
双葉「さっきから、少し頭痛がして」
すると、桜の枝がほのかに光りだす。
光は強くなり、桜の花びらが舞うように流れ出すと、見る間に双葉を包み込む。
天禰「双葉嬢、君か……?」
双葉「分かりません……! こんなこと、初めて――いいえ、蔵で一度、光ったような」
天禰「僕と会った時か!」
双葉の顔色がみるみるうちによくなる。
双葉「頭痛……治まりました」
天禰「君は、一体――」
天禰M「何者なんだ? 双葉――」
率先して掃き掃除をしている双葉。
ほかの使用人と同じメイド服を着ている。
使用人たちともなじんでいる。
少し離れた場所で、天禰と桔梗が双葉に聞こえないよう、こそこそ話をしている。
天禰「……ねえ、桔梗。双葉嬢はどうしてメイドの格好をしてるの? 僕は客として迎えたつもりなんだけど」
桔梗「輪禰様が『新しい使用人?』などとおっしゃったせいです。あの方は、もう……」
天禰「異母兄さんのしわざかあ……」「まあ、双葉嬢が楽しそうだからいいかな」
桔梗「いきいきしてらっしゃいますね」
天禰「使用人が足りてないから助かるんだけどね」
双葉が天禰を見つけて話しかけてくる。
いつになく明るい笑顔を向けられて、天禰、少し胸が高鳴る。
天禰M「あれ、なんだこの感じ……」
双葉「天禰様」
天禰「っ、うん、なに?」
双葉「前に車の中で、『使用人がすぐ辞めてしまう』とおっしゃっていた気がするんですが、どうしてですか? こんなにいい職場なのに」
天禰「それは――」
天禰、ひとつ咳払いをして、
天禰「みんな、僕に惚れてめろめろになってしまうんだ」
双葉「……」
天禰「ごめん、嘘です。……異母兄さんがすぐに手を出しちゃうんだよ。困った人なんだ」
双葉「でも、仲がおよろしいみたいですよね」「うらやましいな」
天禰「双葉嬢――」
天禰、双葉を慰めようと無意識に肩へ手を置きかけて、やめる。
双葉、それに気づかず、くるりと身をひるがえし、微笑む。
双葉「あっ、次は昼食の仕込みがあるんです。このお屋敷は洋食がメインですから、知らないお料理ばかりでお手伝いも楽しいです!」
天禰「そっか……」
立ち去る双葉。
片手で顔を覆う天禰。頬が赤い。
少し離れて見ていた桔梗が冷静につぶやく。
桔梗「遊んでらっしゃいそうな見た目に反して、意外に純情ですよね、天禰様は」
天禰「うるさいよ」
○場面転換
自室の机に向かう天禰。
壁には大きな迦奈川の地図が張られており、自身はタブレット端末に視線を落としている。
説明N「桜護りの仕事は受け持ち管区の巡視のほか、月に一度の各支部での定例報告会、半年に一度の菫京会合、年に一度の京斗・神桜御所で開かれる神桜総会などへの出席が挙げられる」
巡視する桜護りたちの姿、支部での報告会の様子、菫京会合の会場、神桜総会の開かれる御所の外観の描写。
説明N「神桜総会では、桜護りの選定および退任も協議される」「桜護りの多くは、会社経営などの事業のかたわら、務めを担っている」
天禰の横顔のカット。
天禰「あー……疲れたあ」
天禰、机に突っ伏す。
するとノックの音が響く。
天禰「はい」
双葉「お茶をお持ちしました」
天禰「ああ、入っていいよ」
双葉、ティーワゴンを押して現れる。
天禰、頬杖をついて、机にお茶を置く双葉の様子を見守る。慈しむような眼差し。注がれた紅茶を一口含んで目を伏せる。
天禰「ん、美味しい」
双葉「よかったです」
双葉、頬を染める。
天禰、その表情に少し落ち着かなくなる。話題を探すそぶりを見せる。
天禰「うちに来てしばらく経つけど、慣れてきたかな?」
双葉「はい。みなさん、とても良くしてくださいます」
双葉、いったん言葉を切ってから、意を決したように天禰を見る。
双葉「天禰様のおかげです……ありがとうございます」「あの日、天禰様が家から連れ出してくださらなかったら、わたしは今もずっと土蔵の中でした」
天禰、何か落ち着かない気持ちになる。昔も双葉とこんな会話を交わしたような既視感――(※二人は遠い前世に関りがある)。
天禰「双葉嬢」
天禰が呼びかけようとした時、人が上がってくる気配がする。
ノックとともに、
須田の声「天禰様。高善院侯爵がいらっしゃいました」
高善院の声「連絡もせずに押しかけてすまないな」
天禰M「相変わらず、すまないという態度じゃないな」
天禰「どうぞ」
納得のいかない顔の須田と、おそらく須田を押し切った高善院(天禰より年上。嫌味そうな顔をしている)が入ってくる。
高善院「迦奈川筆頭、冷泉寺侯爵」
双葉が部屋の隅に下がる。
高善院、天禰の前に立つ。
高善院「例の剣崎の桜の異常はどうだった?」
天禰「残念ながら、まだ解明してないよ。桜の枝なら、ほら、そこにある。『折られた』『痛い』とぼやくくせに、ほかは何にも話してくれないんだ」
桜の花瓶が天禰の部屋に飾られている描写。ごく普通の桜に見える。
高善院「あんたと何度か共鳴したらしいな。今は?」
天禰「うんともすんとも言わない。一度、共鳴とはまた違う気配がしたから、そちらもおいおい調べる予定だ。別地区の巡視が終わったらね」
高善院「なんだ、結局何もわかってないのか。よくもその調子で迦奈川筆頭を名乗れるものだ。相変わらず面の皮が厚いな」
天禰「厚顔でないと筆頭なんて務まらないさ。お褒めの言葉と受け取っておくよ」
高善院「『混ざり者』は、嫌味も称賛と混ぜ合わせてしまうんだな」
真顔の須田が天禰と高善院の間に割って入る
須田「高善院侯爵閣下、どうかその辺りで」
高善院「ふん」
高善院、退室する。
須田も一礼して出ていく。
天禰「いつも通り、いや、いつにも増して嫌な感じだったな」
双葉、遠慮がちに尋ねる。
双葉「今の方は、桜護りの……」
天禰「高善院だよ。同僚みたいなものだ」
双葉、何か聞きたげな表情。
天禰、口元に笑みを浮かべつつも、表情をかげらせる。
天禰M「何しろこの見た目――」
天禰「生まれつき、この外見なんだ。異国人みたいでしょう? 父も母も生粋の日本人だというのにね」「いや、生粋とは言わないのか。たぶん、何代か前に異国人の祖先がいたのだと思うよ」「だから『混ざり者』の僕は桜護りには適していなかったというのに、ほかに適した候補者がないから選ばれたんだ」
幼少時の天禰と、陰口を交わすような人々の描写。
天禰「力があれば、高善院だって筆頭くらいになれた。でも、なれなかった」「選ばれないということは、『混ざり者』のこの僕より劣っている証だ」「ざまあみろ、って思うね」
双葉、おずおずと口を開く。
双葉「花族の方々の血統のことは、わたしにはよく分からないですけど」「天禰様に初めてお会いした時、綺麗な方だと思いました。綺麗なだけでなく、お優しくて。わたしを救ってくださいました」
天禰、目をみひらく。
双葉「わたしは天禰様に感謝しています、とても」
天禰「……ありがとう……」
天禰、頬が赤く染まったのを隠すように頭を下げる。
しかし、双葉が青ざめているように思えて、顔を上げる。
天禰「双葉嬢、顔色が悪い」
双葉「さっきから、少し頭痛がして」
すると、桜の枝がほのかに光りだす。
光は強くなり、桜の花びらが舞うように流れ出すと、見る間に双葉を包み込む。
天禰「双葉嬢、君か……?」
双葉「分かりません……! こんなこと、初めて――いいえ、蔵で一度、光ったような」
天禰「僕と会った時か!」
双葉の顔色がみるみるうちによくなる。
双葉「頭痛……治まりました」
天禰「君は、一体――」
天禰M「何者なんだ? 双葉――」
