○剣崎邸・客間・中(朝)
天禰と須田、父、双葉、一葉が集まっている。
一葉は上座に座る天禰の前に立ち、左右に首を振る。
一葉「わたくしじゃありませんわ」
天禰は椅子に脚を組んで座っている。須田がうやうやしく持った桜の枝の花瓶を顎でしゃくる。
須田「では、一葉様。我が主、冷泉寺侯爵が偽りを申し上げていると?」
須田が一葉を睨む。
一葉、焦ったように周囲を見回し、双葉を捉えて指を差す。
一葉「そんなことは申しておりません。侯爵様は妹に騙されてらっしゃるのですわ。おとなしいふりをしておりますが、とんでもなく卑しい子なのです」
天禰、長い髪を両指で摘まんで広げて見せる。
一葉、拒絶するように横を向く。
一葉「髪など、どうにでもなります。妹がわたくしを嵌めるために仕込んだに決まっていますわ」
父「おい、一葉、その髪は……」
一葉、父の言葉を遮る。
一葉「桜を折るなんて罰当たりなこと、断じてわたくしはいたしません! あの土蔵は妹の暮らす蔵です。桜なんて知りません。わたくしは関係ありませんわ」
天禰「……蔵に住まわせているのですか? 娘を」
父「はあ……訳がございまして」
一葉「妹はそれくらい罪深い生まれなのです。住まわせてやっているだけ父も慈悲深いと思いますわ」
天禰「どんな理由があるのかは分かりませんが、あんまりな仕打ちですね。双葉嬢は何か問題のある行動でもされたのですか」
一葉「生まれてきたこと自体が罪なのですわ。ほかにはございません。けれど、それだけで充分に罪深いのです」
天禰、呆れたように須田を振り返り、肩をすくめる。
双葉、小さく息をつく。
一葉「この子は我が家の疫病神なのです、侯爵様。この家の凶事は何もかも双葉のせいです」
父「っ、そうです、一葉は悪くない。双葉がいるから我が家は――」
天禰、父の言葉を遮る。
天禰「――分かりました。それほどおっしゃるのなら、妹君の身柄は私が預かりましょう」
双葉M「え、え?」
天禰、脚を組み替え、にんまりと笑う。
天禰「だって不要なんですよね?」
父「いや、突然そう仰られましても……」
天禰「剣崎さんには既に申し上げましたね、折られた桜が『神桜』と共鳴したと。本来、木を離れた枝葉と『神桜』との繋がりはとても微弱です。けれどあの枝は間違いなく私と共鳴した。――双葉嬢」
天禰、双葉を振り仰ぐ。
水色――天色の双眸が、双葉を真っすぐに射抜く。
双葉「っ、はい」
天禰「貴方には『神桜』と繋がる何かがあるようです。先祖返りの可能性もありますが、それにしては剣崎家は傍流すぎる。私は桜護りとして、その繋がりを解明しないとならない」
天禰、立ち上がり、
天禰「一緒に私の家へ帰りましょう」
気取った仕草で片目をつぶってみせ、双葉に手を差し伸べる。
双葉M「そんなこと――」
双葉、目をみひらいて立ち尽くす。
○迦奈川県内・走行中の車・中(昼)
天禰「うちはねえ、使用人がなかなか居着かないんだ。不自由な思いをさせたらごめんね」
黒塗り高級車の運転席の後ろに双葉が、その隣に天禰が座っている。
運転席とは間仕切りガラスで隔てられている。
双葉は上の空。
双葉M「信号が赤になったら逃げ出した方がいいのかな……」「でも、いまさら帰る場所なんてない」
国道は車通りが多く、たとえ飛び出すことができたとしても無事ではすまない雰囲気。
○回想
父と天禰の会話「双葉嬢と『神桜』の繋がりを調べるため、身柄を預かります」
一葉の反応「双葉にそんな特別な力がある訳……!」(回想終わり)
天禰、ちらりと双葉を流し見る。
天禰「……逃げなくていいよ。別に取って食いやしない。あんな土蔵で暮らすよりは、我が家の方がまだましだと思ったんだ」
双葉、天禰と視線を合わせる
天禰「『神桜』の話も嘘じゃないけど、あそこから連れ出した一番の理由は、君の保護のためだから」
双葉「保護……」
天禰「そう。何なの、あれ。娘を蔵に住まわせてるなんて立派な虐待だよ。児相か警察案件だ。あ、ちょっと待って」
天禰、居住まいを正す。
天禰「双葉嬢、いくつ?」
双葉「十九です」
天禰「成人してるね! ああ良かった! 未成年者略取になったらどうしようかと心配になっちゃった」
天禰、「ちょっと発育が悪いからね」と呟く。
双葉、むっとする。
天禰「あんなところで暮らしてたなら、食事も満足に食べさせてもらってなかったんじゃないかな?」
双葉「いえ、ちゃんと三食、食べさせていただいてました」
天禰「『食べさせていただく』ってさ……親には君を育てる義務があるんだ。育ててもらうのは君の権利」「剣崎の家は裕福だ。子供を育てられない環境じゃない。君はもっと主張していいんだ」
双葉M「……何も知らないくせに」
古い着物の双葉と、綺麗な洋装の父・姉が背中合わせになった描写。
双葉、自分の着物を見下ろす。
双葉M「こんなに人目を惹く容姿で、身分は侯爵様。何もかも持っているような人に、わたしの気持ちが分かるはずない……」
双葉「姉からお聞きになりましたよね。わたしは、生まれてきたこと自体が罪なんです。衣食住を与えてもらえただけで充分すぎる待遇です」
天禰「『生まれてきたことが罪』、か。一葉嬢もそう言ってたね。――でも、こうも口にした。『ほかにはございません』、確かにそう言ったよ」
双葉、顔をあげてまばたきをする。
もう一度天禰と顔を合わせる。
天禰「つまり、君自身が何かした訳じゃないってことだろう? むしろ、ほかにあげつらう部分がないくらい良い子だって意味だ」
双葉M「……良い子……わたしが……?」
父と一葉の冷たい目のフラッシュバック
寝台に寝たきりの母
双葉M「――誰にも期待なんてしない」「わたしは悪い子」「だから皆から疎まれる」
双葉、嗚咽をこらえる
双葉M「――気まぐれに優しくしてくれなくていい、弱くなるから」「独りで立っていられなくなるから……!」
双葉「……っ」
双葉、うつむいて泣き出す。
天禰、黙って双葉に少しだけ上体を寄せ、目を閉じる。
○場面転換
走る黒塗りの車の描写
赤煉瓦造りの庁舎群を行き過ぎて、湾岸公園を通り過ぎ、瀟洒な洋館が立ち並ぶゆるやかな曲がり坂を登っていく。
天禰「ここが山埜端。うちの館はもう少し先の高台にある」
説明N「山埜端区――貴族の館が立ち並ぶ高級住宅地のひとつ」
天禰「冷泉寺家の桜護りとしての管轄は迦奈川だから、本宅も迦奈川県内にあるんだ。もう少し南にね」「ただ、利便性を考慮してここ山埜端と、董京の松之葉、京斗の冷泉にも別邸を構えてる。僕らが向かってるのはその別邸だよ」
天禰、窓の外を指し示して、
天禰「ああ、今通り過ぎたのが妙蓮伯爵家の別邸。ここの当主も桜護りでね、若輩の僕にも従ってくださる出来た方だ。その斜め向かいの高善院侯爵のところの嫡男も桜護りだ。こちらは僕とは馬が合わなくて、よく衝突する」
双葉「桜護り様は思ったよりたくさんいらっしゃるんですね」
天禰「そうだね、何しろ県内全域を見廻る必要があるからね。現在の迦奈川の桜護りは七名で、基本的に合議制。で、迦奈川筆頭はこの僕」
双葉「……えらいんですね」
天禰「うん、結構えらいんだ」
おどけたように肩をそびやかす天禰に、思わず双葉は吹き出す。
天禰「やっと笑ったね」
天禰、優しい笑みを双葉に向ける。
双葉、少し赤くなる。
天禰「見えてきたよ。あれがうちの別邸だ」
三階建てのひときわ豪華な洋館が姿を現す。
車を降りた二人を、使用人が並んで出迎えてくれる。男性はお仕着せの黒いスーツ、女性はロングスカートのメイド服。
天禰「今日からここが君の家だよ」
双葉、お屋敷に圧倒される。
天禰、一人の女性使用人に声をかける。
天禰「双葉嬢、こちらは桔梗。昔から仕えてくれている。僕の母親みたいな存在だ」「桔梗、剣崎双葉嬢だ。神桜の力を持っている可能性があるから、うちに来てもらった。いずれ董京か――もしかしたら京斗まで連れていくことになるかもしれない」
桔梗「承知いたしました」「双葉様、よろしくお願いいたします」(優しそうな女性。双葉の母と同じくらいの年齢)
双葉「こちらこそ」
双葉、深く頭を下げる。
○場面転換
桔梗に館内を案内される。
外観の通り、豪華な館の内部。
双葉の暮らす客間は三階。豪華な内装に目がちかちかする双葉。
双葉「こんな立派なお部屋に住まわせていただいていいのでしょうか……?」
桔梗「ここの館は、どのお部屋も同じような内装ですよ」
中央階段から一階に降りようとしたところ、冷泉寺輪禰(二十五歳、茶色の髪にハシバミ色の瞳。天禰の異母兄。天禰ほどではないが美形。あまり似ていない)に呼び止められる。
輪禰「お客人かな?」
双葉「剣崎双葉と申します。天禰様に保護を……」
輪禰、双葉の粗末な着物を見て、
輪禰「新しい使用人か」
桔梗「輪禰様!」
輪禰「冗談、冗談」
笑う輪禰だが、双葉の耳に謝罪の言葉は入ってこず、自分は使用人だったのか、と勘違いする。
今度は恥ずかしさで顔を赤くする。
双葉「(使用人として)どうぞよろしくお願いいたします、あの――」
輪禰「ん? ああ、俺は冷泉寺輪禰。天禰の母親違いの兄だ。よろしく」
差し出された手を取らず、双葉、深く深く頭を下げる。
輪禰、首をかしげる。
天禰と、桜の枝の花瓶を持った須田が階段を上がってくる。
天禰「異母兄さん」
輪禰「挨拶させてもらったよ。この子、うちに住むのかい?」
天禰「ああ。しばらく預かるよ。僕がいない時は、彼女のことをよろしく頼む」
輪禰「ん」
輪禰、背中を向けて手をひらひらさせながら去っていく。
桔梗、少し怒った顔で天禰に苦言を呈する。
桔梗「輪禰様が、また悪趣味なご冗談をおっしゃいました」
天禰、苦笑する。
天禰「異母兄さんは自由だからなあ……」
二人の会話をよそに、双葉は顔の前で両の拳を握る。
双葉M「ここのお屋敷の人たちは、みんな親切そう」「剣崎の家にいるより、よっぽどいいわ」「わたし、頑張る……!」
天禰と須田、父、双葉、一葉が集まっている。
一葉は上座に座る天禰の前に立ち、左右に首を振る。
一葉「わたくしじゃありませんわ」
天禰は椅子に脚を組んで座っている。須田がうやうやしく持った桜の枝の花瓶を顎でしゃくる。
須田「では、一葉様。我が主、冷泉寺侯爵が偽りを申し上げていると?」
須田が一葉を睨む。
一葉、焦ったように周囲を見回し、双葉を捉えて指を差す。
一葉「そんなことは申しておりません。侯爵様は妹に騙されてらっしゃるのですわ。おとなしいふりをしておりますが、とんでもなく卑しい子なのです」
天禰、長い髪を両指で摘まんで広げて見せる。
一葉、拒絶するように横を向く。
一葉「髪など、どうにでもなります。妹がわたくしを嵌めるために仕込んだに決まっていますわ」
父「おい、一葉、その髪は……」
一葉、父の言葉を遮る。
一葉「桜を折るなんて罰当たりなこと、断じてわたくしはいたしません! あの土蔵は妹の暮らす蔵です。桜なんて知りません。わたくしは関係ありませんわ」
天禰「……蔵に住まわせているのですか? 娘を」
父「はあ……訳がございまして」
一葉「妹はそれくらい罪深い生まれなのです。住まわせてやっているだけ父も慈悲深いと思いますわ」
天禰「どんな理由があるのかは分かりませんが、あんまりな仕打ちですね。双葉嬢は何か問題のある行動でもされたのですか」
一葉「生まれてきたこと自体が罪なのですわ。ほかにはございません。けれど、それだけで充分に罪深いのです」
天禰、呆れたように須田を振り返り、肩をすくめる。
双葉、小さく息をつく。
一葉「この子は我が家の疫病神なのです、侯爵様。この家の凶事は何もかも双葉のせいです」
父「っ、そうです、一葉は悪くない。双葉がいるから我が家は――」
天禰、父の言葉を遮る。
天禰「――分かりました。それほどおっしゃるのなら、妹君の身柄は私が預かりましょう」
双葉M「え、え?」
天禰、脚を組み替え、にんまりと笑う。
天禰「だって不要なんですよね?」
父「いや、突然そう仰られましても……」
天禰「剣崎さんには既に申し上げましたね、折られた桜が『神桜』と共鳴したと。本来、木を離れた枝葉と『神桜』との繋がりはとても微弱です。けれどあの枝は間違いなく私と共鳴した。――双葉嬢」
天禰、双葉を振り仰ぐ。
水色――天色の双眸が、双葉を真っすぐに射抜く。
双葉「っ、はい」
天禰「貴方には『神桜』と繋がる何かがあるようです。先祖返りの可能性もありますが、それにしては剣崎家は傍流すぎる。私は桜護りとして、その繋がりを解明しないとならない」
天禰、立ち上がり、
天禰「一緒に私の家へ帰りましょう」
気取った仕草で片目をつぶってみせ、双葉に手を差し伸べる。
双葉M「そんなこと――」
双葉、目をみひらいて立ち尽くす。
○迦奈川県内・走行中の車・中(昼)
天禰「うちはねえ、使用人がなかなか居着かないんだ。不自由な思いをさせたらごめんね」
黒塗り高級車の運転席の後ろに双葉が、その隣に天禰が座っている。
運転席とは間仕切りガラスで隔てられている。
双葉は上の空。
双葉M「信号が赤になったら逃げ出した方がいいのかな……」「でも、いまさら帰る場所なんてない」
国道は車通りが多く、たとえ飛び出すことができたとしても無事ではすまない雰囲気。
○回想
父と天禰の会話「双葉嬢と『神桜』の繋がりを調べるため、身柄を預かります」
一葉の反応「双葉にそんな特別な力がある訳……!」(回想終わり)
天禰、ちらりと双葉を流し見る。
天禰「……逃げなくていいよ。別に取って食いやしない。あんな土蔵で暮らすよりは、我が家の方がまだましだと思ったんだ」
双葉、天禰と視線を合わせる
天禰「『神桜』の話も嘘じゃないけど、あそこから連れ出した一番の理由は、君の保護のためだから」
双葉「保護……」
天禰「そう。何なの、あれ。娘を蔵に住まわせてるなんて立派な虐待だよ。児相か警察案件だ。あ、ちょっと待って」
天禰、居住まいを正す。
天禰「双葉嬢、いくつ?」
双葉「十九です」
天禰「成人してるね! ああ良かった! 未成年者略取になったらどうしようかと心配になっちゃった」
天禰、「ちょっと発育が悪いからね」と呟く。
双葉、むっとする。
天禰「あんなところで暮らしてたなら、食事も満足に食べさせてもらってなかったんじゃないかな?」
双葉「いえ、ちゃんと三食、食べさせていただいてました」
天禰「『食べさせていただく』ってさ……親には君を育てる義務があるんだ。育ててもらうのは君の権利」「剣崎の家は裕福だ。子供を育てられない環境じゃない。君はもっと主張していいんだ」
双葉M「……何も知らないくせに」
古い着物の双葉と、綺麗な洋装の父・姉が背中合わせになった描写。
双葉、自分の着物を見下ろす。
双葉M「こんなに人目を惹く容姿で、身分は侯爵様。何もかも持っているような人に、わたしの気持ちが分かるはずない……」
双葉「姉からお聞きになりましたよね。わたしは、生まれてきたこと自体が罪なんです。衣食住を与えてもらえただけで充分すぎる待遇です」
天禰「『生まれてきたことが罪』、か。一葉嬢もそう言ってたね。――でも、こうも口にした。『ほかにはございません』、確かにそう言ったよ」
双葉、顔をあげてまばたきをする。
もう一度天禰と顔を合わせる。
天禰「つまり、君自身が何かした訳じゃないってことだろう? むしろ、ほかにあげつらう部分がないくらい良い子だって意味だ」
双葉M「……良い子……わたしが……?」
父と一葉の冷たい目のフラッシュバック
寝台に寝たきりの母
双葉M「――誰にも期待なんてしない」「わたしは悪い子」「だから皆から疎まれる」
双葉、嗚咽をこらえる
双葉M「――気まぐれに優しくしてくれなくていい、弱くなるから」「独りで立っていられなくなるから……!」
双葉「……っ」
双葉、うつむいて泣き出す。
天禰、黙って双葉に少しだけ上体を寄せ、目を閉じる。
○場面転換
走る黒塗りの車の描写
赤煉瓦造りの庁舎群を行き過ぎて、湾岸公園を通り過ぎ、瀟洒な洋館が立ち並ぶゆるやかな曲がり坂を登っていく。
天禰「ここが山埜端。うちの館はもう少し先の高台にある」
説明N「山埜端区――貴族の館が立ち並ぶ高級住宅地のひとつ」
天禰「冷泉寺家の桜護りとしての管轄は迦奈川だから、本宅も迦奈川県内にあるんだ。もう少し南にね」「ただ、利便性を考慮してここ山埜端と、董京の松之葉、京斗の冷泉にも別邸を構えてる。僕らが向かってるのはその別邸だよ」
天禰、窓の外を指し示して、
天禰「ああ、今通り過ぎたのが妙蓮伯爵家の別邸。ここの当主も桜護りでね、若輩の僕にも従ってくださる出来た方だ。その斜め向かいの高善院侯爵のところの嫡男も桜護りだ。こちらは僕とは馬が合わなくて、よく衝突する」
双葉「桜護り様は思ったよりたくさんいらっしゃるんですね」
天禰「そうだね、何しろ県内全域を見廻る必要があるからね。現在の迦奈川の桜護りは七名で、基本的に合議制。で、迦奈川筆頭はこの僕」
双葉「……えらいんですね」
天禰「うん、結構えらいんだ」
おどけたように肩をそびやかす天禰に、思わず双葉は吹き出す。
天禰「やっと笑ったね」
天禰、優しい笑みを双葉に向ける。
双葉、少し赤くなる。
天禰「見えてきたよ。あれがうちの別邸だ」
三階建てのひときわ豪華な洋館が姿を現す。
車を降りた二人を、使用人が並んで出迎えてくれる。男性はお仕着せの黒いスーツ、女性はロングスカートのメイド服。
天禰「今日からここが君の家だよ」
双葉、お屋敷に圧倒される。
天禰、一人の女性使用人に声をかける。
天禰「双葉嬢、こちらは桔梗。昔から仕えてくれている。僕の母親みたいな存在だ」「桔梗、剣崎双葉嬢だ。神桜の力を持っている可能性があるから、うちに来てもらった。いずれ董京か――もしかしたら京斗まで連れていくことになるかもしれない」
桔梗「承知いたしました」「双葉様、よろしくお願いいたします」(優しそうな女性。双葉の母と同じくらいの年齢)
双葉「こちらこそ」
双葉、深く頭を下げる。
○場面転換
桔梗に館内を案内される。
外観の通り、豪華な館の内部。
双葉の暮らす客間は三階。豪華な内装に目がちかちかする双葉。
双葉「こんな立派なお部屋に住まわせていただいていいのでしょうか……?」
桔梗「ここの館は、どのお部屋も同じような内装ですよ」
中央階段から一階に降りようとしたところ、冷泉寺輪禰(二十五歳、茶色の髪にハシバミ色の瞳。天禰の異母兄。天禰ほどではないが美形。あまり似ていない)に呼び止められる。
輪禰「お客人かな?」
双葉「剣崎双葉と申します。天禰様に保護を……」
輪禰、双葉の粗末な着物を見て、
輪禰「新しい使用人か」
桔梗「輪禰様!」
輪禰「冗談、冗談」
笑う輪禰だが、双葉の耳に謝罪の言葉は入ってこず、自分は使用人だったのか、と勘違いする。
今度は恥ずかしさで顔を赤くする。
双葉「(使用人として)どうぞよろしくお願いいたします、あの――」
輪禰「ん? ああ、俺は冷泉寺輪禰。天禰の母親違いの兄だ。よろしく」
差し出された手を取らず、双葉、深く深く頭を下げる。
輪禰、首をかしげる。
天禰と、桜の枝の花瓶を持った須田が階段を上がってくる。
天禰「異母兄さん」
輪禰「挨拶させてもらったよ。この子、うちに住むのかい?」
天禰「ああ。しばらく預かるよ。僕がいない時は、彼女のことをよろしく頼む」
輪禰「ん」
輪禰、背中を向けて手をひらひらさせながら去っていく。
桔梗、少し怒った顔で天禰に苦言を呈する。
桔梗「輪禰様が、また悪趣味なご冗談をおっしゃいました」
天禰、苦笑する。
天禰「異母兄さんは自由だからなあ……」
二人の会話をよそに、双葉は顔の前で両の拳を握る。
双葉M「ここのお屋敷の人たちは、みんな親切そう」「剣崎の家にいるより、よっぽどいいわ」「わたし、頑張る……!」
