学校からの帰り道、「明日は曇りらしい」とでも言うような気軽さで、幼馴染のアキラが「明日、ホシに帰るんだ」と言うので、僕は「そうなんだ」と聞き流しそうになった。
「ん? 今、何て言った」
「ホシに帰るんだよ。だから、お前と一緒の登下校も今日でおしまいな」
「いやいやいや、ホシって何」
「ケンタウルス座α星のあたり。地球から割りと近いと思うよ」
「近いって、どれぐらい?」
「めっちゃ近い。4.4光年」
「光年! せめてキロメートルで表してくれよ」
そもそも、1光年が何キロメートルなのかも分からない。
習ったはずなんだが。
「およそ9兆5000億キロメートルな」
「……もしかして、僕の考え読んだ?」
「まさか。宇宙人じゃあるまいし」
「どこに帰るんだっけ」
「ケンタウルス座α星の近く」
「ゴリゴリの宇宙人じゃん」
こんな近くに地球外生命体がいたとは全く気付かなかった。産まれた時からずっとそばにいたのに。
「帰るってどうして」
「おばあちゃんが暗黒病にかかって、もう長くないらしい」
「それどんな病気なの」
「身体の中に黒い靄みたいなのが出来て、数年かけて身体がちょっとずつ吸い込まれていくんだ。最後には全部消えちゃう」
「めちゃくちゃ怖いじゃん!」
「そ。吸い込まれたら二度と出て来られないから、消える前に顔見せろって言われて」
宇宙にはそんなブラックホールみたいな病気があるのか。存在自体無くなるだなんて、恐ろしすぎる。
「俺がいなくなると、寂しい?」
「……どうだろうな」
隣にアキラがいない自分を想像してみる。
立ち位置はいつも僕の左。
10センチほど背が高いせいか、僕はいつも軽く見上げながら話をしていた。
「お前がいなくなったら、右側の首から肩に掛けて地味に凝ってた部分が解消されそう」
「俺の存在は肩凝り程度なの?」
「いや、だってさ、今まだお前いるのに、いなくなった後のこととか想像出来ないよ」
あまりに長く一緒にいたし、これからもずっとそうだと思っていたから、まさかアキラがいなくなる日が来るなんて想像すらしていなかった。
「まぁそんな訳でさ、最後だから言っとくわ」
「何を」
「俺、お前のこと好きだよ」
「僕も好きだけど」
「俺が言ってるのはラブの方な」
「あぁそうか、ラブの方なのか……て、え?」
ラブとは日本語で『愛』と訳す、アレか。
いやアレかって何だよ。どれだよ。何なんだよ。
「何なんだよと言われたら、お前のことを愛してるから手を繋いだり、そのままこっちに引っ張ってお前の身体ごと引き寄せて抱き締めたいし、何なら抱き潰したい」
「わーわーわーーーーー!!!」
何言ってんの。
マジでこいつ、何言い出してんだよ。
今までそんな素振りなかったじゃん。
「そりゃだって、幼馴染のままの方がいつまでも一緒にいられると思ってたからさ。でも俺、帰らなきゃだし、それなら心残りのないようにと思って。びっくりさせてごめんな」
「何だよそれ」
勝手なことばっかり言いやがって。そんな状況で言われる方の身にもなれよ。
「だからごめんって言ってんじゃん」
「あぁもう、僕の考えと勝手に会話すんな! こっちは声に出すまでに色々と考えてんのに、筒抜けじゃ意味ないだろ」
「あ、それはごめん。ん……電波切った。もう読めないから安心して」
「本当かよ……」
溜息を吐く僕の様子を見て、アキラが言った。
「告白ついでに言うと、俺、お前と付き合いたいんだけど」
「もう遠慮がなくなってきたな」
「俺たちなら遠距離恋愛も乗り越えられると思うんだよね」
「4.4光年の距離で付き合ってるヤツ、見たことないけどな」
「宇宙初じゃん。かっこよ」
そう言って、アキラは「へへ」と笑った。
「連絡とかどうやって取ればいいんだ?」
「うちが使ってる電話があるから、それ渡すよ」
「時差とかどれぐらいなんだろ」
「4年ぐらいかな」
「4年!」
一回やりとりが完了するまでに、オリンピック2周しちゃってんじゃん。
「ていうか、告白の返事もまだしてないのに勝手に話を進めるな」
「えー」
アキラは唇を尖らせる。笑ったり拗ねたり、忙しいヤツだと思っていたら「じゃあさ」と僕の顔を覗き込んで言った。
「俺、向こうから電話するからさ。その時に返事、聞かせてよ」
「お前の言葉を聞くのに4年、僕の返事が届くのに4年で合わせて8年後になるけど」
「考える時間ってことで」
「それにしたって、ちょっと長すぎないか?」
「宇宙の歴史に比べたら、8年なんて秒にも満たないから大丈夫」
全然平気と、アキラが笑う。
「僕の気持ちがお前に向いてなかったらどうするんだ」
「その時は何度でも告白するよ。4.4光年の先からね」
あぁそうかよと答えながらも、僕は少しワクワクしてしまった。
一体コイツは、宇宙からどんな言葉で僕を口説いてくれるのか。
これから先の未来に交わされるだろう二人のやりとりを想像して、僕はこっそりと笑った。
「ん? 今、何て言った」
「ホシに帰るんだよ。だから、お前と一緒の登下校も今日でおしまいな」
「いやいやいや、ホシって何」
「ケンタウルス座α星のあたり。地球から割りと近いと思うよ」
「近いって、どれぐらい?」
「めっちゃ近い。4.4光年」
「光年! せめてキロメートルで表してくれよ」
そもそも、1光年が何キロメートルなのかも分からない。
習ったはずなんだが。
「およそ9兆5000億キロメートルな」
「……もしかして、僕の考え読んだ?」
「まさか。宇宙人じゃあるまいし」
「どこに帰るんだっけ」
「ケンタウルス座α星の近く」
「ゴリゴリの宇宙人じゃん」
こんな近くに地球外生命体がいたとは全く気付かなかった。産まれた時からずっとそばにいたのに。
「帰るってどうして」
「おばあちゃんが暗黒病にかかって、もう長くないらしい」
「それどんな病気なの」
「身体の中に黒い靄みたいなのが出来て、数年かけて身体がちょっとずつ吸い込まれていくんだ。最後には全部消えちゃう」
「めちゃくちゃ怖いじゃん!」
「そ。吸い込まれたら二度と出て来られないから、消える前に顔見せろって言われて」
宇宙にはそんなブラックホールみたいな病気があるのか。存在自体無くなるだなんて、恐ろしすぎる。
「俺がいなくなると、寂しい?」
「……どうだろうな」
隣にアキラがいない自分を想像してみる。
立ち位置はいつも僕の左。
10センチほど背が高いせいか、僕はいつも軽く見上げながら話をしていた。
「お前がいなくなったら、右側の首から肩に掛けて地味に凝ってた部分が解消されそう」
「俺の存在は肩凝り程度なの?」
「いや、だってさ、今まだお前いるのに、いなくなった後のこととか想像出来ないよ」
あまりに長く一緒にいたし、これからもずっとそうだと思っていたから、まさかアキラがいなくなる日が来るなんて想像すらしていなかった。
「まぁそんな訳でさ、最後だから言っとくわ」
「何を」
「俺、お前のこと好きだよ」
「僕も好きだけど」
「俺が言ってるのはラブの方な」
「あぁそうか、ラブの方なのか……て、え?」
ラブとは日本語で『愛』と訳す、アレか。
いやアレかって何だよ。どれだよ。何なんだよ。
「何なんだよと言われたら、お前のことを愛してるから手を繋いだり、そのままこっちに引っ張ってお前の身体ごと引き寄せて抱き締めたいし、何なら抱き潰したい」
「わーわーわーーーーー!!!」
何言ってんの。
マジでこいつ、何言い出してんだよ。
今までそんな素振りなかったじゃん。
「そりゃだって、幼馴染のままの方がいつまでも一緒にいられると思ってたからさ。でも俺、帰らなきゃだし、それなら心残りのないようにと思って。びっくりさせてごめんな」
「何だよそれ」
勝手なことばっかり言いやがって。そんな状況で言われる方の身にもなれよ。
「だからごめんって言ってんじゃん」
「あぁもう、僕の考えと勝手に会話すんな! こっちは声に出すまでに色々と考えてんのに、筒抜けじゃ意味ないだろ」
「あ、それはごめん。ん……電波切った。もう読めないから安心して」
「本当かよ……」
溜息を吐く僕の様子を見て、アキラが言った。
「告白ついでに言うと、俺、お前と付き合いたいんだけど」
「もう遠慮がなくなってきたな」
「俺たちなら遠距離恋愛も乗り越えられると思うんだよね」
「4.4光年の距離で付き合ってるヤツ、見たことないけどな」
「宇宙初じゃん。かっこよ」
そう言って、アキラは「へへ」と笑った。
「連絡とかどうやって取ればいいんだ?」
「うちが使ってる電話があるから、それ渡すよ」
「時差とかどれぐらいなんだろ」
「4年ぐらいかな」
「4年!」
一回やりとりが完了するまでに、オリンピック2周しちゃってんじゃん。
「ていうか、告白の返事もまだしてないのに勝手に話を進めるな」
「えー」
アキラは唇を尖らせる。笑ったり拗ねたり、忙しいヤツだと思っていたら「じゃあさ」と僕の顔を覗き込んで言った。
「俺、向こうから電話するからさ。その時に返事、聞かせてよ」
「お前の言葉を聞くのに4年、僕の返事が届くのに4年で合わせて8年後になるけど」
「考える時間ってことで」
「それにしたって、ちょっと長すぎないか?」
「宇宙の歴史に比べたら、8年なんて秒にも満たないから大丈夫」
全然平気と、アキラが笑う。
「僕の気持ちがお前に向いてなかったらどうするんだ」
「その時は何度でも告白するよ。4.4光年の先からね」
あぁそうかよと答えながらも、僕は少しワクワクしてしまった。
一体コイツは、宇宙からどんな言葉で僕を口説いてくれるのか。
これから先の未来に交わされるだろう二人のやりとりを想像して、僕はこっそりと笑った。



