男が好きなはずなのに、長身の後輩女子が気になって仕方ない

 今日はサークルの活動日。
 と言っても、しばらくイベントはないので、自由に駄弁って自由に帰るだけ。
「そろそろ帰るね」
「じゃあ、私も帰ります」
 私が帰ろうとすると、チャーリーも付いてきた。最近はいつもこの調子だ。
 と言っても、私は大学の近くのマンションに住んでいるが、チャーリーは駅から電車だ。
 方向が違うから、大学を出たところですぐにお別れする。
「もう降ってるっぽいね」
「え、今日、雨なんスか?」
「天気予報見なかったの? 今日は夕方から絶対に降るって言ってたよ」
「ええ! 私、傘持ってきてません……」
 すると、祐介が口を挟んできた。
「咲良、一緒に帰るんだろ。傘に入れて、駅まで送ってやれ」
「ええ、でも折り畳み傘だから、小さいよ?」
「お願いしますぅ、咲良さぁん」
 チャーリーは目を潤ませて懇願してきた。透明な犬耳がしゅんと垂れている。
 その瞬間、私の心のどこかで、きゅうんという音が聞こえた気がした。
 ……か、可愛いな。断れないじゃんか。
「しょうがないな、わかったよ」

 校舎の出入り口まで来ると、見事に雨が降っていた。
 私は折り畳み傘を広げた。
「ほら、入りなよ」
 私の身長は150センチ。そしてチャーリーは私よりも20センチ以上大きい。
 私は手を目いっぱい伸ばして、長身のチャーリーが傘に入れるようにする。
 すると、ひょい、と傘を奪われてしまった。
「私が持ちますね」
 まあ、そうですよね……。

 雨が降りしきる中、一つの折り畳み傘の下で、私とチャーリーは連れ立って歩いた。
 ……ていうかこれ、相合傘だな!
 そう思ったら、途端に体温が上がってきた。
 冷たい雨が肩や足に当たっているのに、蒸発してしまいそう……。
 ふと、小学生のころ、誰かが黒板に相合傘の落書きをしていたのを思い出した。そこには、相合傘をしていたクラスメイトの名前が書かれていた。
 今だったら、咲良・チャーリー、か……。いやいや、なんでこんなことを考えているんだ。
「ごめんなさい、濡れちゃってますね」
 私の頭の上から、チャーリーの申し訳なさそうな声がした。
「いいよいいよ。しょうがないから」
「もっとこっちに寄ってください」
 チャーリーはそう言うと、私の肩をぐいっと引き寄せ、自分の胸元へ収めるように背後へ回った。
「この方がいいっスね」
 え。
 背中に、小ぶりで柔らかな感触があった。
 心臓が一拍遅れて、その意味を理解する。
 近い。
 近すぎる。
 私の心臓は高速のビートを響かせた。
「やややダメダメ、私もう濡れてるから、あんたの体も濡れちゃうよ」
「全然平気っス! これ以上雨で濡れるよりもいいですよ。さあ、歩いてください」
 近すぎる、っていうか、くっついてる。
 私は背中に、チャーリーの筋肉質ながらも柔らかい肉体をひしひしと感じていた。
 息を吸うと、湿った空気が体に入り込み、心の中までビショビショにしてしまうようだった。
 駅は、まだか……!

 その後、十分ほど歩き、ようやく駅まで到着した。
「いやー、やっと着きましたね」
 私はチャーリーの腕から逃れ、傘を奪い返した。
 か、解放された……。
「本当にありがとうございました」
「いや、そんな別に」
「私、咲良さんと相合傘できてラッキーでした」
「うええ?」
「じゃあさようなら!」
 チャーリーはそう言って、改札の中へ消えていった。
 相合傘……ラッキー……。
 私はチャーリーの言葉を反芻していた。とにかく顔が熱い。
 雨に濡れて、風邪でもひいたかな……。