男が好きなはずなのに、長身の後輩女子が気になって仕方ない

 土曜日。私は立派な門の前にいた。
 チャーリーの実家だ。
 呼び鈴を鳴らすと、インターホンから直弘くんの声が聞こえた。
『咲良さん、久しぶり。今開けるから、玄関まで来てください』
 ガシャン、という音がして、門がゆっくりと開いた。相変わらず、すごい家だな……。
 玄関まで向かうと、直弘くんが出迎えてくれた。
「どうも。ごめんね、姉貴に出てくれって言われてさ」
「あいつは?」
「部屋にいる。案内するよ」
 直弘くんに連れられて、私は肩を怒らせながらずんずんと歩いた。
 直弘くんはある部屋の前で立ち止まると、ドアをノックした。
「姉貴、咲良さん来たよ」
 しかし、返事はない。
「入るぞ」
 直弘くんはドアを開けた。
 そこには、不機嫌そうな様子のチャーリーが椅子に座っていた。
「チャーリー……」
 数週間ぶりにチャーリーと対面し、私は感動に包まれた。
 しかし、この部屋の主はとても不機嫌そうで、感動的な空気はすぐに消え去った。
 直弘くんが立ち去ると、チャーリーはようやく口を開いた。
「……何しに来たんスか」
 そのつっけんどんな言葉に、つい私もムキになった。
「メッセージにも書いたでしょ。あんたに言いたいことがあるの」
 私はチャーリーを睨みつけた。
「なんでサークルに来なかったの」
 あれ? 違う違う。こんなことを言いに来たんじゃない。
 しかし、私は記憶が感情にコーティングされて、口から飛び出してしまった。
「なんで既読無視するの。なんで電話に出ないの。今日だって出迎えを直弘くんに任せて。意味わかんないよ!」
「会いたくないからっスよ」
 チャーリーは低い声で反論した。
「咲良さんみたいな人には、私の気持ちなんてわからないでしょうけど」
「わかるよ!」
「わかりません! チョロい新入生を手玉に取って弄ぶようなあなたに、何がわかるんスか!」
 強めの反論に、私は言葉を詰まらせた。
 しかし、ここで負けてなるものか。
「……っ、わかるよ。あんたは怖いんだよ。私に振られるのが」
「そりゃそうですよ。傷つくのがわかってたのに、ストレートの人を好きになっちゃったんです。もう最初からゲームオーバーなんスよ!」
「あんたこそ何もわかってない!」
「何が!」
「私の気持ちが!」
 そこまで言ったところで、気が付いた。
 自分でも理解していなかった気持ちを、チャーリーがわかるわけないじゃないか。
 私は喋るのをやめて、大きく深呼吸した。
 脳に酸素が回ってきて、心が落ち着きを取り戻した。
「……あの、ごめん、ほんとごめん。こんなことが言いたかったんじゃないの」
「じゃあなんスか」
 チャーリーはまだギロリとこちらを見ている。
「あのね、私はね……」
 私は喋りながら、次に言わなければならない言葉を考えた。
 しかし、冷静になると、それはとても恥ずかしい言葉だった。
 私は視線をさまよわせた。
「あのね……」
 ヤバい。恥ずかしい。
 でも、言わなきゃ。
「私は」
 心臓の鼓動が早い。
 私は手で顔を覆った。
 ああ、もう!
 どうにでも、なれ!
 
「私はあんたが好きなの!」
 
 言った。
 言ったぞ。
 私は顔から手を外した。
 チャーリーは啞然とした顔をしている。
「じょ、冗談っスよね?」
 私はチャーリーの目をキッと見た。
「冗談なんかじゃない。わ、私はあんたが好き。あんたじゃなきゃダメなの。私とあんたは、両想いなの」
「うそ……」
 チャーリーは固まっている。
「だから、逃げんな」
 言いながら恥ずかしくなり、私は赤面しながら床を見つめた。
「で、チャーリーは?」
 私はチラリとチャーリーを見ながら言った。
「私にここまで言わせたんだぞ」
「そんなの、決まってる」
 チャーリーは涙声で言った。
「私も好きです。一緒に、いたいです」
 言い終わると、チャーリーの頬に涙の筋が伝った。
 私はその言葉を聞いて満足し、チャーリーのことを抱きしめた。
「よく言えました」
 すると、チャーリーは堰を切ったようにわんわん泣き始めた。
 まったく……。
 手のかかるワンコだこと。
 
 *
 
 しばらく抱き合ってから、落ち着いたころに私は質問をした。
「気になることがあるんだけど、聞いていい?」
「はい」
「あの元カノの人、私とは結構タイプが違うよね?」
「ああ……見た目は違いますよね……」
 チャーリーは頭を抱えた。顔を赤くして、天を仰いでいる。
「当時、私は高校生で、今よりもずっと子どもでした。私、ヒロちゃん……あの人とSNSで知り合って、すっかり乗せられて、舞い上がっちゃったんスよ」
「ちなみに、あの人っていくつなの?」
「確か、当時は二十八歳でした」
「げえっ! マジかよ……」
 女子高生を誑かすアラサー女。
 あの人、超ヤバいやつだったのか……。
「SNSには気を付けようね……」
 
「ところで咲良さん、一つ、お願いがあるんですけどぉ」
 チャーリーはくねくねしながら言った。
「うん、何?」
「キス、してもいいっスか?」
「はっ⁉」
 あまりにも直球のお願いに、私は顔から火が出た。
「ちょ、ちょっと、まだ、心の準備が……私、女の人と、キスしたことないし……」
「でも咲良さん、男の人とはありますよね? 私はありません。だから、おあいこっスよ」
「ええぇ……?」
 どうにも、言いくるめられている気がする。
 だけど、チャーリーの潤んだ瞳に見つめられると、断れないと思った。
 私は燃えそうなほどに赤面しながら言った。
「……ほっぺならいいよ」
「ふふ、咲良さん、可愛い」
 私は目をギュッとつぶった。
 彼女の柔らかい唇に触れられた瞬間、全身を愛が吹き抜けた。
 
 私は男が好きだった。
 ずっとそう思っていた。
 でも。
 大学生活、最後の年に好きになったのは、長身で、人懐っこくて、大型犬みたいに笑う後輩女子だった。