男が好きなはずなのに、長身の後輩女子が気になって仕方ない

 展示会が終わった後、私とチャーリーは喫茶店に入った。
 あの女性に会って以降、チャーリーはずっと暗いままだ。
「いやあ、展示会、結構お客さん来てたね」
 場を和ませたくて、私は他愛のない話題を振った。
 しかし、チャーリーはテーブルのグラスをじっと見つめている。
「咲良さん」
 チャーリーはようやく私の目を見た。
「ずっと騙してて、ごめんなさい」
「え……?」
 思いがけない謝罪の言葉に、私は戸惑ってしまった。
「どういうこと?」
「一つずつ説明しますね」
 チャーリーは鼻から息を吸い込み、ゆっくりと口から吐き出した。
「まず、今日展示会に来てた人、ヒロちゃんっていいます。あの人は、元カノなんです」
「えっ! えっ……?」
 チャーリーの口から出た言葉が、一瞬理解できなかった。
 元カノ。
 ……元カノ?
 …………元、恋人?
 いや、チャーリーも、女だよね……?
「私、女の人が好きなんです。恋愛対象なんです」
 次に来た言葉は、まるで右ストレートのようにガツンと私を撃った。
 女の人が、好き……?
「えっと……それって、LGBT的なやつ?」
「そうです」
 すると、あることに思い当たり、胸の中がぞわぞわしてきた。
「じゃあさ……あんたが私に言う『可愛いですね』とか、そういうのって……」
「はい、『そういうこと』です」
 その瞬間、世界が反転した。
 チャーリーと過ごした時間が、走馬灯のように脳内を駆け巡った。
 ニコニコしながら近づくチャーリー。
 私にためらいなく触れるチャーリー。
 私から離れようとしないチャーリー。
 そのチャーリーは、女の人が好きなんだ。
 きっと、チャーリーは……。
 チャーリーは、私のことが好きなんだ。
 ただの距離感の近い後輩じゃ、なかったんだ。
 それなのに。
 いったい、どんな気持ちで、私に彼氏ができるようにと応援したのか。
 どんな気持ちで、弟なんかを紹介したのか。
 私は頭がぐるぐるとした。
 
 少し落ち着いてから、私は話を戻した。
「あの……あの女の人と……付き合ってたんだ」
「はい。ヒロちゃんとは、私が高校生のときに付き合ってました」
 チャーリーはうつむいて喋り続けた。
 過去の思い出が、彼女に暗い影を落としているようだ。
「私はヒロちゃんに夢中だったんスけど、あの人、かなり浮気性で。私が耐えられなくなって、別れました」
 なるほど。チャーリーの恋愛観が重いのは、きっと浮気性の元カノが原因なんだろうな。
「ごめんなさい。女が好きなんて、引きますよね。嫌われるのが怖くて、咲良さんにはずっと黙っているつもりでした。でも、そうやって騙し続けるのも、咲良さんに悪いし、私もつらいなって思って」
 チャーリーは唇をギュッと噛んだ。
「本当にごめんなさい。もう、近づいたりしませんから」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 私は慌てた。
「私、その、女の人が好きとか、あんまり、わかんないんだけどさ。あんたと一緒にいるの、嫌じゃないよ。っていうか、楽しいよ」
 私はチャーリーの目を見た。
「騙されたなんて、少しも思ってないし。誰のことが好きでも、チャーリーはチャーリーじゃん。これからも気にせずにさ、一緒に映画とか見ようよ」
「咲良さん……でも、もうわかってると思いますけど、私は咲良さんのことを恋愛対象として見てます」
 やっぱり。私は唾をゴクリと飲み込んだ。
「それがバレちゃったので、家とかはちょっと行きづらいっスね……」
「そんなの、気にしないで。いつでも遊びにおいでよ」
「はい……」
 チャーリーの顔は、なお暗い。
 そんな顔、しないでよ。いつもみたいに、笑ってよ。
 二人の間に流れた重い空気は、いつまでもまとわりついて離れなかった。
 
 店を出て、二人で駅に向かった。
 重い沈黙が続く。
 駅に着くと、チャーリーはようやく口を開いた。
「今日はありがとうございました」
 影のある微笑み。いつもの大型犬スマイルじゃない。
 私は、改札の中に消えていく彼女の背中を見つめた。
 背の高い彼女のその姿は、もう手が届かないところに行ってしまったように感じた。