「展示会っスか」
「そう、チャーリーも何か出しなよ」
学園祭での、折り紙展示会。うちのぐうたら折り紙サークルの、唯一の活動らしい活動だ。
と言っても、メンバーが思い思いに作品を作り、展示するだけだけど。
一応、実力者のメンバーなんかは、ハイクオリティな作品を創作することもある。
でも大半の緩いメンバーは、既存の作品を折ることが多い。
「皆さんは何を折ります?」
「俺は動物にしようと思ってる。いくつか折って、動物園みたいにしたいな」
祐介はそう言った。
彼は、子どもでも折れそうなシンプルな作品を好む。老若男女、誰でもできる、というのが彼の折り紙のポリシーだ。
「私は今年もユニット折り紙かなあ」
私は言った。
「くす玉ですか?」
「それはまだ考え中」
ユニット折り紙は、私のお気に入り。複数のパーツを折り、それを後から組み合わせる折り紙だ。薗部式ユニットのくす玉はもちろんのこと、有名な手裏剣もユニット折り紙だ。
ユニット折り紙の多くは、幾何学的な形状をしている。それが私には美しく感じられて好きだ。
あと、枚数を多く使う作品は、自然と大きくなる。結果的に、展示会での見栄えがよいという打算的な面もある。
「じゃあお二人はもう決まってるんスね。いやあ、どうしようかなあ……」
「まあ、基本的に折って展示するだけだし、最悪は当日までに決めてくれればいいよ」
私はそう言ったが、祐介に睨まれてしまった。
「いや、作品に添えるネームプレートとか、配置のバランスとかの準備があるから、来週までには大まかに決めてほしいな」
「あはは、そうだね。ごめんごめん。とにかく、作品は何でもいいからさ」
しかし、それはチャーリーには逆効果だったらしく、余計に頭を抱えてしまった。
「何でもいい、は一番困るやつですよ。家で『ご飯は何でもいい』とか言って、いつも母に怒られますから……」
それは確かにそうだ。
こういうとき、先輩としていいアイデアをあげたいけれど、私もバカの一つ覚えでユニット折り紙ばかりだから、あまりいい案が浮かばない。
「じゃあさ」
祐介は私とチャーリーを順番に見ながら言った。
「二人で共同制作にすれば?」
「共同制作?」
チャーリーはぽかんとしている。
「うん。例えばアイデア出しとか制作とかを分担するの。結構やってるやついるよ。特に咲良はユニット折り紙だし、パーツをたくさん折るから、ちょうどいいんじゃないかな」
なるほど。その考えはなかった。
チャーリーと、共同制作。
初めての、共同作業。
私は祐介の楽しそうなアイデアにワクワクしてきた。
「いいっスね!」
チャーリーは完全に乗り気だ。
「咲良さん、私と共同制作しましょうよ」
そう言って、大型犬スマイルを向けてきた。私はこれに弱いんだ。
もちろん私の答えは、
「いいね。一緒にやろう」
「やったー!」
祐介はスマホを開き、メモを取った。
「じゃ、決まりね。咲良とチャーリー、と」
こうして、展示会に向けた準備が始まった。
*
学園祭当日。展示会が開催された。
私たちは、二人でサッカーボールの骨組みのような作品を作った。幾何学的には切頂二十面体と呼ばれる立体で、九十枚の細いパーツで辺の部分だけを形作っている。
「ちなみに切頂二十面体とは言うものの、面の数は三十二個なの。これは……」
「んもう、細かいことはいいっスよ。要するにサッカーボールですよね」
……失礼しました。
硬めの紙で折ったものの、大きすぎて自重で潰れそうだったので、パーツを糊付けしたり、竹ひごで補強したのはご愛嬌。
作品のネームプレートには『荒島咲良/加藤直子』の二人の名前が並ぶ。
「おお……いいっスねえ……」
展示された作品を見て、目を輝かせるチャーリー。
私も、自分の名前の横にチャーリーの名前があるのを見て、気分がとても上がった。へへっ。
展示会で、綺麗な女性が手を軽く振りながら近づいてきた。それは私ではなく、横のチャーリーに対するものだった。
その女性は親しげに声をかけてきた。
「直子、久しぶり」
「ヒロ……ちゃん……」
チャーリーは明らかに動揺していた。
この人は誰だろう。チャーリーの友人にしては、随分大人っぽく見える。多分、私よりも年上だ。
「どうして来たの……?」
「あなたのSNSで見て、面白そうだから来てみたの。元気そうでよかった」
女性はニコニコと笑っているが、チャーリーの表情は引きつっている。
女性は私のことを、品定めするように上から下までジロリと見た。
そしてチャーリーに視線を戻してから、「じゃあね」と言って去っていった。
私はその後ろ姿を見送った。
綺麗な人だった。
大人っぽくて、落ち着いていて、私なんかよりずっと色っぽい。
そして、チャーリーの様子がおかしい。こんな顔は初めて見た。
あの女性はきっと、私の知らないチャーリーを知っている。
そう思った瞬間、胸の奥がチクリと痛んだ。
「ねえ、今の人、誰? お姉さん?」
「いや……その……」
チャーリーは顔を引きつらせたまま、モジモジとしている。なんだか、彼女らしくない。
「あの人と、何かあったの?」
チャーリーはまだモジモジしていたが、徐々に落ち着いてきたようだった。
「あのう、咲良さん」
チャーリーはこちらを見ずに言った。
「展示会終わったあと、少し時間もらえますか」
「いいけど?」
「ちょっと、話したいことがあるんです」
その言葉に、少しだけ重苦しい空気が流れた。
いったい、何を話すつもりなんだろう……?
「そう、チャーリーも何か出しなよ」
学園祭での、折り紙展示会。うちのぐうたら折り紙サークルの、唯一の活動らしい活動だ。
と言っても、メンバーが思い思いに作品を作り、展示するだけだけど。
一応、実力者のメンバーなんかは、ハイクオリティな作品を創作することもある。
でも大半の緩いメンバーは、既存の作品を折ることが多い。
「皆さんは何を折ります?」
「俺は動物にしようと思ってる。いくつか折って、動物園みたいにしたいな」
祐介はそう言った。
彼は、子どもでも折れそうなシンプルな作品を好む。老若男女、誰でもできる、というのが彼の折り紙のポリシーだ。
「私は今年もユニット折り紙かなあ」
私は言った。
「くす玉ですか?」
「それはまだ考え中」
ユニット折り紙は、私のお気に入り。複数のパーツを折り、それを後から組み合わせる折り紙だ。薗部式ユニットのくす玉はもちろんのこと、有名な手裏剣もユニット折り紙だ。
ユニット折り紙の多くは、幾何学的な形状をしている。それが私には美しく感じられて好きだ。
あと、枚数を多く使う作品は、自然と大きくなる。結果的に、展示会での見栄えがよいという打算的な面もある。
「じゃあお二人はもう決まってるんスね。いやあ、どうしようかなあ……」
「まあ、基本的に折って展示するだけだし、最悪は当日までに決めてくれればいいよ」
私はそう言ったが、祐介に睨まれてしまった。
「いや、作品に添えるネームプレートとか、配置のバランスとかの準備があるから、来週までには大まかに決めてほしいな」
「あはは、そうだね。ごめんごめん。とにかく、作品は何でもいいからさ」
しかし、それはチャーリーには逆効果だったらしく、余計に頭を抱えてしまった。
「何でもいい、は一番困るやつですよ。家で『ご飯は何でもいい』とか言って、いつも母に怒られますから……」
それは確かにそうだ。
こういうとき、先輩としていいアイデアをあげたいけれど、私もバカの一つ覚えでユニット折り紙ばかりだから、あまりいい案が浮かばない。
「じゃあさ」
祐介は私とチャーリーを順番に見ながら言った。
「二人で共同制作にすれば?」
「共同制作?」
チャーリーはぽかんとしている。
「うん。例えばアイデア出しとか制作とかを分担するの。結構やってるやついるよ。特に咲良はユニット折り紙だし、パーツをたくさん折るから、ちょうどいいんじゃないかな」
なるほど。その考えはなかった。
チャーリーと、共同制作。
初めての、共同作業。
私は祐介の楽しそうなアイデアにワクワクしてきた。
「いいっスね!」
チャーリーは完全に乗り気だ。
「咲良さん、私と共同制作しましょうよ」
そう言って、大型犬スマイルを向けてきた。私はこれに弱いんだ。
もちろん私の答えは、
「いいね。一緒にやろう」
「やったー!」
祐介はスマホを開き、メモを取った。
「じゃ、決まりね。咲良とチャーリー、と」
こうして、展示会に向けた準備が始まった。
*
学園祭当日。展示会が開催された。
私たちは、二人でサッカーボールの骨組みのような作品を作った。幾何学的には切頂二十面体と呼ばれる立体で、九十枚の細いパーツで辺の部分だけを形作っている。
「ちなみに切頂二十面体とは言うものの、面の数は三十二個なの。これは……」
「んもう、細かいことはいいっスよ。要するにサッカーボールですよね」
……失礼しました。
硬めの紙で折ったものの、大きすぎて自重で潰れそうだったので、パーツを糊付けしたり、竹ひごで補強したのはご愛嬌。
作品のネームプレートには『荒島咲良/加藤直子』の二人の名前が並ぶ。
「おお……いいっスねえ……」
展示された作品を見て、目を輝かせるチャーリー。
私も、自分の名前の横にチャーリーの名前があるのを見て、気分がとても上がった。へへっ。
展示会で、綺麗な女性が手を軽く振りながら近づいてきた。それは私ではなく、横のチャーリーに対するものだった。
その女性は親しげに声をかけてきた。
「直子、久しぶり」
「ヒロ……ちゃん……」
チャーリーは明らかに動揺していた。
この人は誰だろう。チャーリーの友人にしては、随分大人っぽく見える。多分、私よりも年上だ。
「どうして来たの……?」
「あなたのSNSで見て、面白そうだから来てみたの。元気そうでよかった」
女性はニコニコと笑っているが、チャーリーの表情は引きつっている。
女性は私のことを、品定めするように上から下までジロリと見た。
そしてチャーリーに視線を戻してから、「じゃあね」と言って去っていった。
私はその後ろ姿を見送った。
綺麗な人だった。
大人っぽくて、落ち着いていて、私なんかよりずっと色っぽい。
そして、チャーリーの様子がおかしい。こんな顔は初めて見た。
あの女性はきっと、私の知らないチャーリーを知っている。
そう思った瞬間、胸の奥がチクリと痛んだ。
「ねえ、今の人、誰? お姉さん?」
「いや……その……」
チャーリーは顔を引きつらせたまま、モジモジとしている。なんだか、彼女らしくない。
「あの人と、何かあったの?」
チャーリーはまだモジモジしていたが、徐々に落ち着いてきたようだった。
「あのう、咲良さん」
チャーリーはこちらを見ずに言った。
「展示会終わったあと、少し時間もらえますか」
「いいけど?」
「ちょっと、話したいことがあるんです」
その言葉に、少しだけ重苦しい空気が流れた。
いったい、何を話すつもりなんだろう……?



