男が好きなはずなのに、長身の後輩女子が気になって仕方ない

 今日は、チャーリーの弟の直弘くんと水族館デート。
 イケメン高校生とのデートに胸を躍らせるものの、こちらが主導権を握りづらそうなタイプで、ちょっと戸惑い中。
「見て、咲良さん。ここにタコがいるよ。この水槽の手前のとこ」
「ええ、どこ?」
 私は水槽の手前を覗き込もうと、顔を近づけた。直弘くんと顔が近づく。
「ほら、ここ」
 直弘くんは水槽を指した。その反対の手を、私の背中にそっと添えた。
 おお、直弘くん、やるな。
 自然に距離を詰めて、自然に体に触れてくる。
 ただ、私はそういうのにキュンとするほどチョロくない。
 というか、直弘くんって、多分私と似てる。相手をメロメロにさせて、主導権を握りたいタイプ。
 これはちょっと、どこかで牽制した方がいいかな……? 
 
「いやあ、面白かったね」
 水族館を一通り楽しんだ私たちは、近くのカフェに入った。
 しばらく他愛のない会話を交わしてから、私は切り出した。
「あのさ」
 私は直弘くんの目を見据えた。
「こういうこと言われるの、嫌かもしれないけど、あなたが考えていること、多分わかるよ」
「へえ」
「相手をその気にさせてさ、自分のいいようにコントロールしようとか考えているでしょ。そういうの、初心(うぶ)な子にしか通用しないから」
 直弘くんは目をぱちぱちさせている。
「私、そういうチョロい女じゃないから。甘く見ないでね」
 私はそう言い切り、ドヤ顔を決めた。
 そしたら、直弘くんは笑い出した。
「いやあ、咲良さんって面白いね。そんなことを言われたの、初めてだよ。まあ、図星、かな……」
 直弘くんは、やれやれ、という顔をした。
「姉貴から聞いた印象だと、割と行けそうかも、なんて思ってたんだけど、勘違いだったかもね」
 うわあ、何様だよ。まさかこんなにナルシストだったとは……。
 それよりも、『姉貴から聞いた印象』って、どういうことだ。
「何それ? 私のことをどう聞いてたのよ」
「あ、でも、新入生キラーなんだっけ? なら納得かも」
「なっ! あいつから聞いたの?」
「うん。『咲良さんってすごいんだよ!』って、嬉しそうに言ってたよ」
 直弘くんはケラケラと笑いながら言った。
 あいつ、余計なことを……。
「まあ、お互いに手の内がバレたってことで、後はもう普通にデートを楽しもうよ」
「うう……」
 どうも、直弘くんに主導権を握られている気がするな……。
 
「……でさ、ガーガー寝てた癖にさ、いきなり起きてゲロ吐いたの。ありえなくない?」
「ひゃー! ヤバい、息できない」
 チャーリーの酔っ払いエピソードを聞いて、直弘くんは大笑いしている。
「咲良さんってさ、姉貴の話をするとき、めっちゃ嬉しそうだよね」
「え? そうかな」
「うん、姉貴のこと、気に入ってるでしょ?」
 ほう。
 私はチャーリーのことを考えた。
 笑顔で私を見下ろすチャーリー。
 犬のように透明な尻尾を振り、私に近づいてくるチャーリー。
 私と一緒にサブスクを見るチャーリー。
 私に優しく泳ぎを教えてくれたチャーリー。
 確かに、後輩の中では、気に入ってる……かもね。
「まあ、そうね。嫌いじゃないよ」
「ちなみに、姉貴も咲良さんのことを嬉しそうに話すよ」
「あ、そう……」
 あいつ、私のこと、家族に話しすぎじゃないか?
 他に話すこと、ないのかよ……。
 
 *
 
「直弘はダメでしたか」
 チャーリーは少し寂しそうに言った。
「うーん。いい子だったけどね。やっぱり高校生はちょっとね」
 顔は文句なしのイケメンだし、話も面白かったが、モテムーブが鼻につき、私としてはあまり好みのタイプではなかった。
 ただ、私は別のことを考えていた。
 ——姉貴のこと、気に入ってるでしょ?
 確かにそうかも。目の前のチャーリーを見て、改めて思う。
「ねえチャーリー。もうさ、男の人とか紹介しなくていいよ」
「そうっスか?」
「うん。私ね、最近充実してる気がするんだ。だから、大丈夫」
 そう。私は、男の子といるよりも、この変な大型犬と一緒に過ごす方が楽しいって気が付いたんだ。
「そう……それなら、安心です」
 チャーリーは嬉しそうに笑った。
 その笑顔を見たら、私もなんだか嬉しくなってきた。