隣のチャラ男くん

「お兄ちゃん、慎吾くん、おかえり!」
 かわいい妹の満面の笑顔に出迎えられて、真白はでれっと相好を崩した。我が妹ながら、あいかわらずかわいい。
「ただいま」
「しろは、本当、かなちゃんの前でだけ、でろでろだよね」
「あたりまえだ」
 呆れ気味のつっこみを一蹴して、真白は靴を脱いだ。帰省することも、実に半年ぶりなのだ。感慨も一入であってしかるべきだろう。
「そうでしたね。でも、その愛想を、ちょっとくらい俺に向けてくれてもいいんじゃないかな」
 こんなに尽くしてるのに、とぼやきながら、あたりまえの顔で慎吾も靴を脱ぐ。あはは、と明るく笑った妹が、慰めるようにその肩を叩いた。
「慎吾くんは、たしかに尽くし系だよね。ちょっとオカン入ってるけど」
「しろだけね。かなちゃんには尽くさないからね」
「えー、ひどーい。あたしの面倒も見てくれたらいいのに」
「なに言ってんだ。かなみの面倒は俺が見てるだろ」
 自室に荷物を置いて居間に戻ったところで、真白は猛然と主張した。兄は自分である。ふんと鼻を鳴らすと、早々に炬燵に籠もっていたふたりが顔を見合わせた。なぜだ。
「いや、まぁ、うん。そうだね、お兄ちゃん。ありがとう」
「おう。任せろ」
「でも、お兄ちゃんと慎吾くんは、あいかわらず仲良しそうだね。なんか安心しちゃった」
 一瞬で話題を流されたものの、妹が笑っているので「まぁ、いい」ということにする。手招かれるまま、真白も炬燵に潜り込んだ。
 まぁ、いいのだが、ほんの少し釈然としないかもしれない。
「おかげさまで。ね、しろ」
「……まぁ」
 据わりの悪さを覚えつつも、真白は頷いた。「仲が良い」の意味合いに、多少の違いがある気はしたが、仲が良いこと自体は嘘ではない。
「そういえば、このあいだ、お母さんがさ」
「佳代子さん? なに、かなちゃん、なにしたの?」
「違うから。というか、なんで、あたしがなにかした前提なの、慎吾くんは」
「それは、まぁ。今まで見てきたもろもろがあるからねぇ」
「ひどすぎる。慎吾くん、本当に、お兄ちゃんにしか優しくないよね」
「かなちゃんにも十分優しいと思うけどね。それで、佳代子さんがどうしたの?」
 ひさしぶりに構ってもらっている事実がうれしいらしく、続きを話し始めた妹の声は楽しそうだった。慎吾と妹がそろうと、いつもこうだ。
 ここにいたころはあたりまえの光景だったのに、なんだか妙に懐かしくて。真白はふっと目を細めた。
「かなちゃん、大掃除するんだったら手伝おうか?」
 互いの近況報告が一段落ついたところを見計らって、慎吾がそう提案をする。
 無論、城崎家の大掃除であるのだが、慎吾が音頭を取ることにつっこむ人間は存在しなかった。やる気のない兄妹のケツを慎吾が叩くことが、恒例だからである。
「うーん、一応、あたしの部屋はやったんだけどなぁ」
 台所その他の大掃除までする気はございません、と。かなみが生ぬるい笑みを浮かべる。
 かわいいが、さすがにこれは駄目かもしれない。かわいいが。一抹の反省を抱いた真白は、代わりに首を横に振った。
「いいよ。明日、母さんが張り切ってやるから。そのときで」
「え? あぁ、そのときに、しろとかなちゃんも手伝うって?」
「まぁ、間違いなく手伝わされるよね」
「まぁ、なぁ。……だから、うん。今日はいい」
「兄妹そろってそこまで嫌そうな声出さなくても。かわいそうに、佳代子さん」
 いたく同情した声に、この一年弱の自分の怠惰を真白は省みた。
 食事どころか、細々とした部屋の掃除に至るまで。この幼馴染みにお世話になりまくっていた自覚はあるのだ。
 ……来年はちょっとがんばろう、かな。
 つい三週間ほど前に、甘やかされすぎているよなぁ、あたりまえじゃないんだよなぁ、と思い知ったばかりである。
「善処する」
「うん。ぜひ、そうしてあげて」
 かなちゃんもね、と釘を刺されて、かなみがぺろっと舌を出した。かわいい。
「そうするからさ。おまえも、おばさんに顔見せてきたら?」
「そう?」
 さも意外そうに慎吾が首を傾げる。毎年大掃除を手伝わせていたことを思えば、当然の反応かもしれない。だがしかし。今年は一味違うのだと主張するように、真白は大きく頷いた。
「明後日は俺も顔出すって言っといて」
 大晦日の夜は、慎吾の家で二家族そろって紅白を見て、年越しそばを食べる。それが、年末のもうひとつの恒例行事なのだ。
 そうして、除夜の鐘が鳴るころに、子どもたちだけで近所の神社に初詣に行く。お詣りをして、甘酒であたたまって、夜道を歩く。ちょっとだけ特別な新年のイベント。
 今年もそうやって過ごすに違いない。あたりまえと思っていたけれど、これもすごいことなのかもしれない。ふと、そう思った。
 家族でもなんでもない人間が、ずっと一緒にいるということは、お互いが求めてはじめて成立することだ。
「ん。じゃあ、またね。かなちゃんも」
「うん、またね」
 通り過ぎざまに真白の頭をわしゃりと撫でて、慎吾は隣へ帰っていった。
 その行動にだろう。妹の妙な視線を感じた気がして、誤魔化すように呟く。ついでに、ちょいちょいと髪も直した。べつに、乱れてもいなかったが。
「なんなんだ、あいつ」
「お兄ちゃんたち、さぁ」
「うん」
「なんか、……また仲良くなった?」
「ふつうだけど」
 努めてあっさりと、真白は応じた。そのふつうが、どんなふつうなのかは、よくわからない。でも、自分たちにとっては、ふつうのつもりだ。
 じっとりとこちらを見つめていた妹が、
「まぁ、それ以上どうにもなりようがないか」
 と納得したふうに言う。スマホを触り始めた妹の横顔を観察しつつ、真白は口の中で溜息を吐いた。
 ――べつに、嘘は言ってねぇし。
 そう。あくまで、自分たち基準のふつうというだけだ。今までとは少しかたちを変えたかもしれないが、それだけのこと。
 真白は、ふつうが好きだ。変わらない毎日が好きだ。でも、いいかな、と思ったのだ。
 慎吾が自分を特別に好きだというのなら、べつにいいかな。それが、変化を受け入れた理由のすべてだった。
 一緒にいることは自分たちにとってあたりまえで、これからも、ずっと一緒にいたい。その上で、特別だと思ってもらえるのであれば、素直にうれしい。
 それ以外のプラスアルファの感情も、慎吾と同じかと問われると、「どうなんだろう」と悩んでしまう部分はある。それは事実だ。
 でも、自分にとって慎吾が「特別」な存在であることも、疑いようのない事実なのだ。
 スマホを炬燵の天板に置いた妹が、かごからみかんをひとつ取り出した。皮をむきながら、おもむろに話しかけてくる。
「お兄ちゃんの駄目なところって、いろいろあるけどさ」
「うん」
 いろいろあるのか、と思ったが、賢明にも真白は口に出さなかった。妙なところで几帳面な妹は、みかんの筋を一本一本取り除いている。
「なにが一番っていうと、決定的に言葉が足りないところだよね」
「そうか?」
 きれいにしたみかんをひと房口に放り込んで、「そうだよ」とかなみが頷く。
 そんなつもりはなかったのだが、妹が言うのならそうなのかもしれない。簡単に判定を変えたシスコンは、炬燵の中で思う存分に足を伸ばした。
 本当は、ひとり暮らしの部屋にも炬燵がほしいのだが、慎吾の「炬燵から動かなくなるから駄目」の一言で却下され続けている。
「慎吾くんは甘いからなぁ。だから、お兄ちゃんが喋らなくなるんだよね」
「なんで、そこで慎吾が出てくるんだ」
「お兄ちゃんが言わなくても、ぜんぶ慎吾くんが察しちゃうからさ。それに甘えてお兄ちゃんが主張しなくなるっていう、なにその老夫婦みたいなね。残念感がね」
「老夫婦?」
「そうだなぁ。じゃあ、たとえば」
 合点のいっていない様子の兄に向かって、妹が続ける。
「あたしに彼氏がいたとしてさ」
「俺、そんな話、一言も聞いてないんだけど」
 ワントーン下がった真白の声を、妹は邪気なく笑い飛ばした。
「だから。たとえばって言ってるでしょ、たとえば」
 本当にたとえなのだろうか。疑おうとして真白はやめた。深く考えたくはない。
「たとえばだけどね。いたとしてね? それで、あたしは、その彼氏がめちゃくちゃ好きだったとしてね」
「……おう」
「もう、たとえばって言ってるのに、難しい顔しないでよ。今からそんな調子で、あたしが本当に彼氏連れてきたとき、どうすんの」
 もぐもぐとみかんを食べる妹の横顔は、どこからどう見てもかわいかった。考えたくはないが、紹介される未来は近いのかもしれない。考えたくはないが。
「話が進まないから、その話は置いとくね。それで、あたしはちゃんと『好き』って言ってるのに、その人がなんにも言葉にしてくれない人だったら、お兄ちゃん、どう思う?」
 言葉より行動で示せ、だとか。行動で察しろ、だとか。そういうスタンスの人種がいること自体は否定しないけれども。
 なんとなくむっとした気分で、吐き捨てるように真白は断じた。
「言えるのに言わないのは、そいつの怠慢だ。そんなのと付き合っても、おまえが不安になって疲れるだけだぞ。やめとけ、やめとけ」
「だったら、お兄ちゃんは、恋人ができたとして、ちゃんと愛情表現するんだね?」
 言葉でね、しっかりとね。なぜか、やたらと強調されて、「あれ?」と首を傾げる。
 好きだ、と言われた。べつにいいよ、と自分は応えた。でも、それだけだ。
 仲直りはしたけれど、恋人らしい進展があったわけではない。今までどおり、ふたりでごはんを食べて、大掃除をして、ここに帰ってきた。それがこの三週間の顛末である。
 自分たちは、はたして付き合っているのだろうか。
「お兄ちゃんに恋人ができたとしても、相手の人は苦労するだろうなぁ」
 悩み始めた真白に、妹がとどめを刺した。
「するだろうな」
「だよねぇ。前のお兄ちゃんの彼女なんて、ぜんぜん相手してくれないからつまんないって言ってたもんねぇ」
「なんで、おまえが知ってるんだ」
 その情報源は慎吾か、もしかしなくても。真白の問いかけを無視したまま、妹が続ける。
「なにも言ってくれないし、なにを考えてるのかわからないから嫌だって言われたんじゃなかったっけ、たしか」
「……」
 言われた気もするが、記憶の彼方のできごとである。
 何年前の話なのかもはっきりとしないし、言った相手の名前ももう思い出せない。ただひとつ覚えているのは、慎吾に愚痴をこぼしたときのことだけだ。
 俺はしろの考えてることはわかるし、大丈夫だよ。笑顔で請け負われて、ならいいやと安心した。うん、そうだよな。ひとりで頷いて、「大丈夫」と宣言する。
「たぶん、できても、今のやつはわかると思うし」
 言い切った真白に、妹がまたしても微妙な顔になる。
「お兄ちゃんの考えてることが本当に伝わってるかどうかなんて、誰にもわかんないよ?」
「いや、でも」
「それにさ、直接言われたら安心するし、うれしいじゃん」
 みかんの皮を丸めて、妹がごみ箱に放り投げる。その軌跡を追いながら、それはそうかもしれないな、と真白は思い直した。
 ――誰よりも一番、特別に好き。
 その言葉を聞いたとき、自分はたしかに安堵した。今まで悩んでいたことが、ぜんぶどうでもいい気分にさえなった。
 この腕も、体温も、自分だけのものだと思うことができたことに、途方もない満足感を覚えた。
 言葉にするということは、そういうことなのだろうか。
 妹の言うことに一応の理解はできたものの、でもなぁ、と真白は悩んでもいた。俺は、慎吾になにをどう伝えればいいんだろう。


 ゆく年くる年が始まる前に、三人でマンションを出る。もう何年も続けている恒例行事なのに、外に一歩目を踏み出す瞬間のかなみは、あいかわらず楽しそうだった。
 すーっと空気を吸い込んで、
「夜のにおいだぁ」
 と笑っている。その横顔に、真白は渋い声を向けた。
「帰りは絶対一緒に帰るにしても、境内でも気をつけろよ」
「えー、さすがに、そんな変な人いないでしょ。いたら罰当たりすぎない?」
 罰当たりだなんて考えないやつが、変なことをするんだろうが。
 思ったものの、水を差しすぎても駄目だ。そう言い聞かせて、真白は口を噤んだ。初詣前に拗ねられてしまっても困る。溜息もひとつ呑み込んだ。
 頭ではわかっていても、どうしても、寂しいな、と思う。去年までは三人でお詣りをしていたのに、今年は現地で友達と合流すると妹が言ったからだ。
 でも、成長と思えば、しかたのないことだ。改めて自分に言い聞かせて、一言だけ付け加える。
「……まぁ、とにかく気をつけろよ」
「はい、はい。お兄ちゃんは心配性だなぁ」
 軽くあしらわれてむくれた真白に、小さく慎吾が噴き出した。
「なんだよ、心配性で悪かったな」
「悪くない、悪くない。あいかわらずだなって思っただけ。……あ、かなちゃん。お友達、もう来てるんじゃない?」
 慎吾の指さした方向に目を向ける。石段の下に集まっているのは女の子ばかりで、男の姿はない。そのことに、真白は無意識にほっとした。
「本当だ。じゃあ、またあとでね」
 兄の気持ちをつゆ知らない妹は、一目散に集団へと駆け寄っていく。合流してしまえば、こちらを振り返るそぶりもない。ほほえましいような、物悲しいような。
 きゃいきゃいと楽しそうに石段を上る一団を見送って、真白は隣を見上げた。その視線を受けて、慎吾がほほえむ。
「どうする? 俺たちも行く?」
「どうするって、ここまで来たら、行くしかないだろ」
 いくら境内が人であふれているといっても、小一時間ここで待つのはどうかと思う。それなのに、なんでもないことのように慎吾は言ってのけた。
「しろが人混みが嫌だったら、ここで待っててもいいよって思っただけ」
「……マジか」
「うん。俺もそこまでお願いしたいこともないからねぇ。まぁ、でも、しろがそう言うなら、行きましょうか」
 はい、と差し出された手に、目を瞬かせる。
「なに」
「だって、人多いし。それに、繋いでたら、ちょっとはあったかいかもよ」
 なんの他意もなさそうな台詞だったのに、なぜか、真白はためらってしまった。行き場に迷った手が、自分のダウンジャケットのポケットにおさまる。
「こっちのほうがあったかいし、いい」
 少し前なら、なにも考えずに手を重ねたかもしれない。けれど、なんだか気恥ずかしかったのだ。ちら、と慎吾を窺う。変に思われたかな、という真白の懸念は、いつもどおりの笑顔であっさりと払拭されてしまった。
「じゃあ、並んで歩いてるから、ぼーっとしてはぐれないでね」


 鈴が、頭上でがらんがらんと鳴り響いている。
 ようやく回ってきた順番にほっとして、真白は賽銭を投げ入れた。鈴を鳴らして二礼二拍手一礼。しみついた習性で頭を下げて、願いごとを考える。
 できることなら、今年も平凡な毎日がいいよなぁ。
 年寄りじみたことを願って、最後に一礼。
 ――願いごと、か。
 顔を上げると慎吾の横顔が視界に入って、真白はもう一度だけ、小さく手を合わせた。
「もういい?」
 耳元でささやかれた声に頷くと、そのまま腕を引かれる。まだ多くの人が並んでいて、みんな、それぞれ願いごとがあるんだろうな。そんなあたりまえのことを思った。
「あ、かなちゃんたちだ」
 甘酒をふるまう列に並んでいた妹も、こちらに気づいたらしく小さく手を振っている。
 真白も手を振り返して、それからまた人の波に乗って歩き出した。人が多いのに不思議とあまりしんどくない。その理由に、ワンテンポ遅れて真白は気がついた。
 歩きやすいように、慎吾がしてくれているからだ。
 すぐに気がつくことができないようなことにまで、いつも気を回してくれている。
「慎吾」
 呼びかけると、「ん?」と幼馴染みが首を傾げた。
「疲れた? もう外で待ってようか?」
「いや、そういうわけでもないんだけど」
「そう? でも、俺も疲れたし、石段下りたところで待ってようよ」
 はい、決定、と笑って、帰宅していく流れのほうに、慎吾が歩く先を変える。石段を下りて少し脇に逸れた道に入ると、ようやく人混みがまばらになった。
 飲み物でも買ってこようか、と気遣われて、いいよ、と首を横に振る。
 なんでもかんでもやってもらうことは、さすがに気が引ける。というか、なんでもやってくれるから、一緒にいたいわけでもない。慎吾がどう思っているのかはわからないけれど、真白はそのつもりだ。
 ――もしかして、こういうことか?
 妹が言っていた、伝えたら安心するだろうということ。ぼんやりと真白は隣に目を向けた。通り過ぎていく人々を眺めながら、寒いねぇ、と慎吾は笑っている。その瞳が、ちら、とこちらを向いた。
「しろはさ、なにをお願いしたの?」
「べつに……、いつもどおりだけど」
「いつもって、あれだよね。今年ものんびりできますように、でしょ」
 それだけではなかったんだけど、と思いつつ、真白は慎吾に問い返した。
「慎吾は?」
「ん、んー……、そうだね」
 なぜか少し照れたように、慎吾が視線を動かした。なんだよ、と言えば、ふっとくすぐったそうに息を吐く。あまり見たことがない顔だ、と思った。
「俺、今年はしてないんだよね、あんまり」
「なんで?」
「去年、幸せいっぱいもらったから。なんか、もう十分だなぁって」
 口元をほころばせた幼馴染みに、気がついたときには手が伸びていた。
「しろ?」
 繋がれた手元を、不思議そうに慎吾が見つめる。冷たい指先を、ぎゅっと絡めた。あたためるように。伝わるように。
「俺は」
 言い出したくせに、言葉に詰まってしまった。そんな真白を急かすでも茶化すでもなく、優しく慎吾は笑いかける。
「なに?」
 笑顔と同じくらい、どこまでも優しい声だった。
 ずっと近くにあればいいな、と思った。
 同じようななにかを返せているのかな、とも思った。
「俺は、慎吾が今年も一緒にいてくれたらうれしいって。そう、今年も参拝してきたけど」
 どこまでも自分に甘くできている幼馴染みは、虚を突かれたような顔をしたあとで、「そっか」と笑った。どこまでも愛おしそうに。
「俺もだよ」
 俺も同じような顔をできているのだろうか。できていたらいいな、と真白は思った。だって、「特別」であることに変わりはないのだから。
 どうか、今年も一緒にいることができますように。
 そうだったら、それだけで、たぶん、幸せな年なんだろう。
 ほんの少し関係性を変えた幼馴染みふたりの上で、新年の月は優しく輝いていた。