手を伸ばして、わずかに汗ばんだ頬に触れた。閉じた瞼がかすかに震え、亮太が身じろぐ。裸の肩をブランケットから覗かせ、目を開けた。顎を上げておれを見上げ、やわらかな微笑を浮かべた。
「おはよう」
おれの手に自分の掌を重ね、頬を擦らせる。数時間前までこれ以上ないほど接着し、その体のなかを何度もさぐったのにも関わらず、はじめて触れたかのように心を震わされる。
「もう朝?」
寝ぼけた様子で体を伸ばし、何度も瞬きする。おれに抱かれていたときは大胆に体をのたうたせ、自分からしがみついて烈しく腰を振っていたのに、眉間に皺を刻み瞼を擦るしぐさはまるで子どものようにも見える。
「まだ朝じゃないよ」
いいながら、亮太の腕を取って体を起こさせる。
「見せたいものがある」
床に落ちていたナイトガウンを羽織らせ、手を握って立ち上がらせる。亮太はおれに誘導されるままベッドを出た。
手をつないで縁側に出る。おれも下着姿だったが、周囲は塀に囲まれていて他人の目を気にする必要はなかった。
見せたいものがなにか、尋ねる必要はなかった。一歩外へ出たとたん、亮太は理解していた。
おれたちの頭上に満点の星空が広がっていた。一粒一粒の星がはっきりと肉眼で確認できる。東京では絶対に見ることのできない奇跡のような美しい光景。思わず言葉を失うほどだ。
とりわけ明るい4つの星が十字架のかたちに並んでいた。
亮太は空を見上げ、瞬きも忘れたかのように星の十字架を見つめている。
「はいむるぶしだったか」
亮太の横顔を見つめて、いった。
「南十字星。見たかったんだろ?」
おれの手を握る手の力が強くなった。亮太の頬から涙がひと雫、滑り落ちた。
「ありがとう……」
おれの肩に頭を凭せかけ、亮太は呟いた。
「父さんたちも、見れたかな……」
「ああ。見たと思うよ」
あの日の沖縄の天気は快晴だった。翌日の計画を前に、石黒美津夫と三條隆一も、この星を見ていただろう。そう思った。死を前にした最後の夜、ふたりはどんな思いでこの空を見上げていたのか。
「そうだといいな……」
「見たよ。絶対だ」
抱きしめると、おれの胸にこめかみを圧しつけてきた。頬を濡らす涙の冷たさを皮膚に感じた。
夜風が肌を滑り、澄んだ空気がそよいだ。亮太の髪がおれの顎を撫でる。亮太を抱きながら、おれも顔を上げた。輝く無数の星がおれたちを見下ろしていた。
おわり。
「おはよう」
おれの手に自分の掌を重ね、頬を擦らせる。数時間前までこれ以上ないほど接着し、その体のなかを何度もさぐったのにも関わらず、はじめて触れたかのように心を震わされる。
「もう朝?」
寝ぼけた様子で体を伸ばし、何度も瞬きする。おれに抱かれていたときは大胆に体をのたうたせ、自分からしがみついて烈しく腰を振っていたのに、眉間に皺を刻み瞼を擦るしぐさはまるで子どものようにも見える。
「まだ朝じゃないよ」
いいながら、亮太の腕を取って体を起こさせる。
「見せたいものがある」
床に落ちていたナイトガウンを羽織らせ、手を握って立ち上がらせる。亮太はおれに誘導されるままベッドを出た。
手をつないで縁側に出る。おれも下着姿だったが、周囲は塀に囲まれていて他人の目を気にする必要はなかった。
見せたいものがなにか、尋ねる必要はなかった。一歩外へ出たとたん、亮太は理解していた。
おれたちの頭上に満点の星空が広がっていた。一粒一粒の星がはっきりと肉眼で確認できる。東京では絶対に見ることのできない奇跡のような美しい光景。思わず言葉を失うほどだ。
とりわけ明るい4つの星が十字架のかたちに並んでいた。
亮太は空を見上げ、瞬きも忘れたかのように星の十字架を見つめている。
「はいむるぶしだったか」
亮太の横顔を見つめて、いった。
「南十字星。見たかったんだろ?」
おれの手を握る手の力が強くなった。亮太の頬から涙がひと雫、滑り落ちた。
「ありがとう……」
おれの肩に頭を凭せかけ、亮太は呟いた。
「父さんたちも、見れたかな……」
「ああ。見たと思うよ」
あの日の沖縄の天気は快晴だった。翌日の計画を前に、石黒美津夫と三條隆一も、この星を見ていただろう。そう思った。死を前にした最後の夜、ふたりはどんな思いでこの空を見上げていたのか。
「そうだといいな……」
「見たよ。絶対だ」
抱きしめると、おれの胸にこめかみを圧しつけてきた。頬を濡らす涙の冷たさを皮膚に感じた。
夜風が肌を滑り、澄んだ空気がそよいだ。亮太の髪がおれの顎を撫でる。亮太を抱きながら、おれも顔を上げた。輝く無数の星がおれたちを見下ろしていた。
おわり。



