この婚約に、愛はない。 ~次期当主の鬼の姫、私を憎む幼馴染と添い遂げます~【マンガシナリオ】



○槐家・屋内

晃仁「……月乃に、よく似ているな」

※槐晃仁は黒髪長髪に金色の瞳で、頭部に立派な角が二本生えている。髭が生えていてダンディな雰囲気の美丈夫。歳はとうに二百歳を超えている。

優月「お父さんの敵討ちにきました」
晃仁「……櫂から話は聞いている。あやつらは人里で悪さをしているところを引き取った。改心したかと思い配下に置いていたが、まさかそのような暴挙に出るとは……すまなかった。あやつらは二度と同じ過ちを犯さぬよう厳罰を与えたうえで、破門にしている」
優月「っ、謝って済む問題じゃない! どれだけ謝られたって、もうお父さんは帰ってこない!」

涙を流す優月に、晃仁は申し訳なさそうに目を細めながらも、淡々と言葉を返す。

晃仁「だが、お前の父親は、もう先が長くなかった。それは優月、お前も分かっていたのではないか?」
優月「っ、それは……」

回想にて、父親が薫に「私は先が長くない。私が死んだら、優月のことを頼むよ」と告げている場面を、優月が物陰で聞いてしまった場面を描く。

晃仁「優月。儂は、儂の後継となるべき者を捜していた。この槐の家を任せられる人材をな。そして、妖と人間との争いを終わらせたいと考えている」
優月「妖と人間の争いを……?」
晃仁「お前は人里から離れて暮らしていた故に知らないかもしれんが、数年前の情勢悪化から、一部の妖の間で人間狩りが横行していた」
優月「っ、人間狩りが……?」

動揺している優月に、櫂が妖界の情勢についても説明をする。

櫂「現在の妖界では、鬼と妖狐の一族が最も力を持っています。国の東に門を構える鬼の一族“槐家”と、西に門を構える妖狐の一族である“狐王廟(こおうびょう)家”。この家門が二大巨頭と言われています。我々槐家は、人間との争いを好まず共存を望んでいます」

※狐王廟家
➡妖狐一族を取り仕切っている。裏社会で生きており、表にはほとんど顔を出さない。謎に包まれている。

櫂「晃仁様は鬼の統領としての威厳を行使し、勝手をする妖たちを抑制しようと動きました。その甲斐あって、悪さをする妖たちの数も減ってはいます。それに帝に協力体制を申し出てもいますが、そちらの方は、現時点では難航していますね」
優月「どうしてそこまで……」
晃仁「儂は、人間のことが嫌いではないからな。無意味な争いは不要だと思っているだけだ」

優しい顔で微笑んでいた晃仁は、真面目な顔つきになって優月に向き合う。

晃仁「優月。お前は儂の血縁であり、人間と共生してきた。妖と人間どちらの血も引いているお前は、両種族の橋渡しとなるに相応しい存在だと……儂はそう考えている」

優月は少しだけ迷う素振りを見せながらも、晃仁の誘いをきっぱり断る。

優月「私は……鬼の統領になんてなる気はありません。家を継ぐつもりもありません。薫のところに帰してください」
晃仁「あの少年のことか」
櫂「晃仁様。一つ発言してもよろしいでしょうか」
晃仁「ああ、構わない」
櫂「調査をおこない町の者に聞いた話ではありますが、あの少年は、妖に両親を殺されているそうです」
優月「えっ……?」

初耳だった優月は驚く。

優月(そういえば……)
優月モノ『薫が家にやってきてすぐの頃。私の母親が妖であることを知った薫は、ものすごく驚いた顔をしていたっけ』

自身の母親が妖であることを伝えた時、驚きながらも「……そっか。優月のお母さん、俺も会ってみたかったな」と笑顔を見せてくれた薫の顔を思い出す。

櫂「また、あの少年が“稀血”の人間であることも分かっています」
優月「稀血?」
櫂「稀血とは、異能の力を使える希少で特別な人間のことをいいます。血の匂いが甘いことが特徴ですから、下級で理性のない妖に遭遇すれば、襲われる危険性があります」

優月(薫からいつも感じるあの甘い香りは……稀血である証だったんだ)

櫂「ですのであの少年も、これまで妖に襲われた経験もあったはずです」

優月モノ『その体質から命を狙われ、家族さえも妖に奪われている薫』
『薫は……妖の血を引く私のことを、どう思っていたんだろう』『怖がられていたかな』『内心では……憎まれて、いたのだろうか』

晃仁「その少年のように、理不尽な思いをする者をなくしたいと。儂はそう考えている」

優月は暫し考え込む。そして鋭いまなざしを晃仁に向ける。

優月「私は……貴方を許す気はありません。だけど薫の両親や、父のような優しい人たちが不条理に殺されてしまう。そんな世の中は、もっと許せない」「ですから、取引をしませんか?」
晃仁「……ほう、取引か。一体どんな取引を望むのだ?」
優月「貴方は、妖の中でもすごく偉いひとなんですよね? だったら、もし人間に危害を加えるような妖がいたら全力で止めてください。今後も妖が勝手なことをしないように呼び掛けて、人間との関係性が良くなるように尽力することを約束してください」
優月「それから……薫が何不自由なく暮らしていけるよう、支援してあげてください。それを約束してもらえるなら……私は、あなたの後を継ぎます。私が槐家の当主になって、妖による理不尽な略奪を、終わらせてみせます」

優月は真っ直ぐなまなざしで誓いを立てる。

晃仁「……いいだろう。その条件を飲もう」

晃仁はにやりと笑う。
優月は晃仁を真っ直ぐに見つめ返しながら、自分が半妖であることを知っていた薫は内心ではどう思っていたのだろうかと、再び頭の片隅で考えてしまう。


○槐家の離れ・屋内
※優月(17歳)は黒髪の長髪、色白で華奢。

優月モノ『あれから、七年の年月が流れた。私は鬼の統領である槐家の次期当主候補として、祖父の執務を手伝ったり、料理や裁縫といった家事や稽古事をしながら、槐家の敷地内にある離れで暮らしている』

※もう一人の当主候補である槐晃之介(えんじゅこうのすけ)から密かに命を狙われているため、優月の身を守るために、晃仁の計らいによって監視の目を付けて離れで暮らすよう言われている。しかし、その事実を優月は知らない。

部屋の窓から桜の花びらがひらりと風にのって舞い飛んでくる。
自分の部屋で窓の外をぼうっと眺めていた優月のもとに、来客が訪れる。

晃之介「おい。入るぞ」
優月「……入室の許可を出す前に立ち入るなど、不作法ではありませんか?」
晃之介「はっ。お祖父様の恩恵を受けてこの家に住まわせてもらっているだけの、穀潰しのくせに。随分な物言いをするようになったものだな」

※晃之介は黒髪短髪で四角フレームのインテリ風の眼鏡をかけている。黒っぽい着物姿。

優月モノ『私を見下すような目を向けてくる彼は、槐晃之介。祖父である槐晃仁の実の孫息子であり、私以外の、もう一人の次期当主候補でもある』
『晃之介さんは、私の母姉の子どもだ。つまり、私の従兄弟にあたる。年は32歳で、すでに結婚もしており、子どもが二人いる』
※3歳の男の子と16歳の女の子(麗花(れいか))のシルエットを出す。

優月モノ『槐晃仁の子どもは、私と晃之介さんの母親だけだ。ちなみに母親が異なるそうで、二人は異母姉妹だったという』
『晃之介さんの母親もすでに他界しているので、順当にいけば彼が後を継ぐはずだった。けれど祖父はそれを認めず、彼と私の二人を跡継ぎ候補にすると宣言した』
『後からこの家にやってきた私を、晃之介さんは邪魔に思っているようだ』

優月「一体何の用ですか?」
晃之介「ああ。お祖父様が呼んでいたからな。わざわざこの俺が知らせにきてやったんだ」
優月「そうですか。ではもう用は済みましたよね? ご退室ください」
晃之介「っ、お前……感謝の一言も言えないのか?」
優月「許可もなく乙女の私室に立ち入るような方に伝える謝辞は、生憎持ち合わせていませんので」

優月の言葉に、晃之介は怒りで顔を赤くして震える。
そこに駆けてくる足音が聞こえてくる。

麗華「お父様!」

※麗華はウェーブがかったブロンドヘア。勝気そうな顔立ちの美人。晃之介の娘。

晃之介「麗花。どうしたんだ?」
麗花「お父様が頼んでいた羽織を、呉服屋の者が届けにきたんです。ですので呼びにきたのですが……大事なお話し中でしたか?」

麗花は晃之介から優月に視線を移し、にこりと微笑む。

麗花「優月お姉様。おはようございます」
優月「……おはようございます、麗花さん」
麗花「あら? 何だか顔色がよくないみたい。何か悩み事でもあるようでしたら、いつでも頼ってくださいね。私にできることがあれば、いつでも力になりますから」

優月モノ『晃之介さんの娘である麗華さんは、表向きは、こうして友好的な態度で接してくる。けれど裏では、陰湿な嫌がらせをされている。わざと足を引っかけられたり、祖父からの言伝をわざと伝えずに、自分は確実に伝えたと嘘を吐かれたり。まあ、そこまで害があるわけでもないので、あまり気にしないようにしているんだけど』

晃之介「ああ、お前は本当に優しい子だな。それに比べてこいつは……。年代も近いというのに、礼儀もなっていないどころか、愛想のかけらも持ち合わせていない。やはり親の影響を受けると、出来の悪い子に育ってしまうのだろうな」

両親を侮辱する晃之介の言葉に、怒りでカッとなった優月が反論しようとすれば、櫂がやってくる。

櫂「皆さんお揃いだったんですね。優月様、晃仁様がお呼びです。至急、応接間の方にお越しください」
優月「……わかった。すぐに行くわ」
櫂「それから玄関の鍵が開いていましたので、今後は常に施錠しておくようにしてください」

優月は怒りをグッと堪える。
櫂は最後の言葉は優月にだけ聞こえるよう小声で伝える。
皆で離れを出る。
優月、晃之介と麗花に軽く頭を下げてから横を通り抜けていく。
晃之介は優月の背中を憎々し気に、麗花は読めない無表情で見つめている。


○槐家・屋内(昼) ※一話冒頭の部屋

晃仁「優月。今日はお前に話したいことがあって……」
優月「どうせ縁談の話ですよね? 何度も言っていますが、私は縁談を受けるつもりはありません」

晃仁と優月は向かい合って座っている。櫂は晃仁の斜め後ろに控えている。
話の内容が分かっていた優月は、晃仁の言葉をピシャリとさえぎる。

晃仁「だが、お前は儂の跡を継いで鬼の統領となるのだろう?」
優月「はい。そのつもりです」
晃仁「ならば、女手一つで槐の家を支えていくのは困難だろう。信を置ける伴侶となる者がいた方がいい。それにお前の後継の問題も出てくる」
優月「伴侶など、必要ありません。私一人でもやっていけます。私がいなくなった後は……優秀そうな人材を捜しておいて、後を継がせればいいだけの話です」

頑なに縁談の話を拒む優月に、晃仁は嘆息する。

晃仁「まあ、お前が何と言おうと、縁談の話はもう受けているんだがな」
優月「っ、ちょっと、勝手なことをしないでください!」
晃仁「婚約者殿にも、すでにきてもらっている」
優月「え、今ここにですか?」
晃仁「ああ、そうだ」
優月「……私は、会うつもりはありませんから。失礼します」

優月は立ち上がって部屋を出ていこうとする。
すると出入り口の襖がゆっくりと開き、成長した薫が現れる。七年ぶりの再会。
※冒頭のシーン。

優月「……どうして」

薫は、困惑している優月のもとに真っ直ぐ歩いてくる。

薫「久しぶりだな」
薫「会いたかったよ、ずっと。俺の――憎くてたまらない、婚約者様」

驚き戸惑っている優月の手をつかんだ薫が、優月の耳元でそっと囁く。

優月(……懐かしい。甘い、花のような香り)

優月は切なそうに目を細めて薫の体をそっと押し返す。

優月「私は……会いたくなかった」
薫「ひどいな。あんなに仲良くしてたのに。俺のことなんて、もう忘れちゃった?」

※薫は黒髪に藤紫色の瞳でピアスをつけている、黒地に赤のアクセントが入った軍服のような服装、幼少期と違って少し軽薄そうな雰囲気

優月(……忘れるはずない。忘れられるはずがない)

晃仁「優月もよく知っているだろう。藤真薫くん。彼は稀血の異能力使いだ。そして“対妖警備部隊”の上官でもある」
優月「対妖警備部隊って、妖を専門に取り締まっていることで有名な、あの……?」

優月モノ『“対妖警備部隊”の話は、私も耳にしたことがある。帝からの勅命を受けて作られた直属の国家機関であり、稀血の人間が多く所属していると聞いた』
『妖と人間の水面下での争いは近年緩和されているが、悪しき妖が人間を襲うという事件はいまだに多発している。そのような事件を主に取り締まっているのが、対妖警備部隊だ。悪事を働く妖を取り締まる、絶対的な力を持つ組織として、巷でその名を轟かせているらしい』

晃仁「槐家と対妖警備部隊は、正式に協力体制をとることにした」
優月「つまり、これは政略結婚ということですよね?」
晃仁「……ああ、そういう風に捉えてもらっても構わない。まだ公表してはいないが、槐家は晃之介ではなく、優月に継いでもらおうと考えている」

優月はピクリと反応を示しながらも、真面目な顔つきのまま晃仁の話を聞いている。

晃仁「彼には警備部隊に身を置いたまま、婿入りする形をとってもらうことになった」
優月「……ですが、縁談相手が彼である必要はありませんよね?」

優月モノ『縁談相手なら、薫以外にも候補はいたはずだ。それなのに、どうして……よりによって、彼が選ばれたの?』

晃仁「お前の大切な者を奪い、この家に縛り付けてきた。儂からのせめてもの償いだ」
優月「……何ですか、それ」

優月モノ『つまり、この縁談はお祖父様が仕組んだものだということだ』
『協力体制をとろうと思っていた組織に、偶然薫がいたから、縁談相手にと声をかけたのだろう。それは、薫の気持ちを完全に無視している』
『薫は、妖の血を引く私を……憎んでいるはずだ』『さっきの言葉が、冷たい瞳が、それが事実であることを物語っている。それなら私は……』

優月「その縁談、お断りします」
晃仁「優月。これはすでに決まったことだ」
優月「知りません。償いだなんて、そんなの……貴方が一方的に押し付けているだけじゃないですか。私はそんなこと望んでいません。それに、彼の気持ちも考えて……」
薫「俺はこの縁談を破棄するつもりはありませんよ。これは俺が、自分で決めたことです」

優月モノ『――どうして? 私のことが憎いんじゃないの? それなのに……妖の血を引く私の、伴侶になってもいいの?』

薫が不本意で縁談を受けたのだと思った優月は、困惑する。
薫の目を見つめ返しながら言葉に詰まってしまう。

晃之介「――おやおや? 皆さんおそろいで何の話をされているんですか? 俺も混ぜてくださいよ」

そこに晃之介が現れる。

晃仁「お前はこの場に呼んでいないぞ」
晃之介「お祖父様、そんなこと言わないでくださいよ。……ん? その服装、見たことがありますね」
薫「はじめまして。対妖警備部隊の隊長を務めています、藤真薫と申します」

薫が挨拶をすれば、晃之介な思案するような顔で薫と隣に立つ優月をじろじろと見る。

晃之介「へえ。……もしや藤真殿は、そこの愚女と懇意な仲なのですか?」

晃之介、探るような目を薫に向ける。
薫は作り笑顔を浮かべる。(内心では優月を侮蔑されたことに憤っている)

薫「……いえ。槐家のお嬢様と懇意な仲などと。ありえませんよ」

薫に断言するような物言いをされて、優月は内心で傷つく。

晃仁「晃之介。客人の前だ。お前はいい加減に下がれ」
晃之介「……はいはい、分かりましたよ。では、失礼します」

晃仁に促されて、晃之介は退室する。

櫂「久しぶりの再会です。積もる話もあるでしょう。二人で庭でも歩いてきてはどうでしょうか」
優月「……」
薫「優月。行こう」

薫は微笑んで手を差し出してくる。
困惑しながらも薫の手を恐る恐るとった優月は、共に庭に向かう。