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それから毎日ヒダカはこの家に帰ってくるようになった。土日は遅くなる事が多かったが、平日は夕方頃には部屋に戻っていた。推測だが他の劇団員は平日働いているのだろう。いつも「ただいま」と言うのが律儀だと思った。
それからじわじわと部屋に彼の荷物が置かれるようになった。と言っても驚く程持ち物が少ないので、机の上に台本とペンが置きっぱなしとか、洗濯物の中に彼の衣服が混じるとか、歯ブラシが二本置かれているとかその程度だ。しかしヒダカのいないところでもこの家に住んでいる実感が湧き、なんとも言えない感覚が込み上げる。
「……来いよ」
金曜日の午後十時になった。ヒダカは相変わらず拒む事なくベッドに座っている。
「嫌がらないんですね」
「そういう約束だからな」
ゆっくりと唇を重ねる。何度か重ねた後、舌で彼の唇を舐める。
「今日は嫌と言う練習をしましょうね」
「何言ってるんだ……っ」
舌を差し込んで吸ってみる。まだ緊張しているようだが前ほど抵抗感は無くなっていた。キスをしながら身体を撫でる。衣服の上からでも鍛えられた肉体は指先に伝わってきた。
「……柔らかい」
筋肉が柔らかい事に衝撃を受け、思わず呟いてしまう。
「……ああ、力を入れなきゃ皮膚と同じようなものだからな」
ヒダカは当然のように説明する。無意識のうちに何回か揉んでしまったがあまり気にしてないようだ。むしろ鍛えられている事を褒められて嬉しそうである。
「まあ筋肉触るくらいなら」
「やめます」
「なんでだよ」
「よくない性癖に目覚めそうなので」
なんと言うか彼の許容範囲が分からない。こちらの理性をいとも容易く壊そうとするのはやめてほしいものだ。しかしどこまでなら許されるのかも気になった。それを確かめるように胸元から肩に指を滑らせ腋に手を差し込む。
「……っ」
ヒダカは僅かに眉を寄せた。
おや、これは。
服を捲り上げ口を寄せる。そしてそのまま舌を出し目の前のものを舐めた。
「変なところ舐めるな!」
「変って腋じゃないですか」
「信じられない」
「嫌でしたか」
「嫌に決まっているだろ!」
「ちゃんと言えて偉いですね」
「……馬鹿にしているのか」
「大真面目です」
怒っているが怯えている様子ではなかった。少しずつ素の彼が見えてきて安心する。願わくば素でこちらを好きになってもらいたいが贅沢だろうか。
「まあいい。アサガオさんといると調子が狂うのは慣れてきた」
「この続きは嫌がらないんですか」
「……わざとだろ」
「そう聞こえたなら申し訳ありません」
ヒダカの肩を押すと彼は抵抗せずに倒れる。痛みを訴える事がないよう丁重に扱った。

