内気な関西人と、キラキラ王子は舞台の上で

「美少女で、歌がうまいちゅうだけで街の人気もんか……気に食わへんなぁ〜〜。あぁそや!あの女の声を奪ったろう。そしたらきっと、俺とおんなじように一人っきりになるはずや!」

『そして悪魔イートは、歌姫の声を奪い。カケラにして、あちこちにばら撒いてしまいました』

ついに始まってしもうた演劇部の公演。

客席はもちろん満席で、今回の文化祭の目玉は演劇部の劇やって、みんな口揃えて言っとた。

そんな中、陰でもう一つ言われとったのがーー。

『あの糸目秋文が、脚本で大丈夫なのか?』

という、不安の声やった。

『演劇部は弱みを握られてる』とか『青羽君が糸目にパシられてる』とか、そういう声も度々聞こえてきよって、正直ギリギリまでほんまに俺が劇に出て大丈夫なんか?って思っとった。

演劇部の……青羽君の迷惑なるのが怖くて仕方なかった。


けど、青羽君は背中を押してくれた。


「僕がいるよ」って言ってくれたんや。


なら、全力でやるしかあらへんやんか。


まぁ正直、今にも口から心臓飛び出そうになるくらいど緊張しとるけど……。


「ここに姫のカケラが落ちているはず。みんな探してくれ!!」
「おぉー!!」
「姫様は危ないので、僕から離れないでくださいね」
「はい。ありがとうございます。英雄ナツキ様」

英雄役の青羽君が、仲間達に声をかけてカケラを探すシーン。

ここで悪魔役の俺が、初めて英雄達に接触する。

「カケラって、コレのことやないです?」

英雄達の前に現れた悪魔役の俺は、その辺の人間と同じ見た目をして現れる。

「なんや綺麗やなぁと思って、拾っとったんですわ」

平然とそんな嘘をついて、元から隠し持っとったカケラの一つを英雄に手渡し。胡散臭そうにニコリと微笑んだ。

「ありがとう。君は?」
「俺はその辺の魔法使いです。イートと呼んでもらったらええですよ」

こうして悪魔は、英雄の仲間になったふりをして、これからのカケラ拾いの邪魔をしていく。

やけど、悪魔の思惑はなかなかうまいこといかず。英雄達は困難を乗り越えて、カケラを次々に見つけていった。

「なんやかんやで、もう残り一つかいな?早いもんですなぁ」
「それもこれも、みんなが頑張ってくれたおかげだよ。勿論イートもね。ありがとう」
「……感謝なんて、いらへんよ」


だって全ての元凶は、悪魔であるイートのせいなんやから。


「何故だ!!何故お前が、最後のカケラを持っているんだ!!イート!!」

物語は終盤へ近づく。

英雄ナツキは、裏切られた怒りとショックで、苦しそうに胸を抑えながら、イートに向かって泣き叫んだ。

俺は……悪魔イートは、一瞬躊躇を見せながらも、悟らせないよう口角を歪ませる。

「……は、ははっ。そうや。俺が歌姫の声を奪った悪魔や。ハハハッ!!お笑いもんやなぁ〜?アンタらはずーーと、俺に騙されとったんやから」

空気が静まり返る。
観客達が、息を呑み込んで観てるのが伝わってくる。

「えぇよなぁ歌姫は。美人で歌が上手いちゅうだけでみんなから好かれとって」

みんなが見とる。
みんなが俺を見とる。

やから今、悪魔イートの皮をかぶって俺は、全てをぶつけたる。

ずっとずっと、思っとった。
俺の気持ちを。

「羨ましかったんや。妬ましかったんや。やからーー奪ったんや」

誰か俺を見て欲しい。
誰か俺と喋って欲しい。
誰か俺を愛して欲しい。

俺はただ、みんなと仲良うしたかっただけやったんや。


「さぁ。俺を倒してーーハッピーエンドや」


後は英雄ナツキが、俺に剣を振るって倒す。

そんでもって、全てのカケラが揃った歌姫は再び声を取り戻して、英雄と幸せに暮らして物語は終いや。


「(……あれ?青羽君どないしたんや?全然剣振るってこんへんけど)」


突っ立ったままの青羽君に、まさか次のシーンどないするか忘れたんやなかろうか?なんて、絶対ありえんような心配しとったらーー。


ーーコトンッ。


と。プラスチック製のおもちゃの剣が、床に落ちた音が聞こえた。

「へ?」

何故か青羽君は、握っとった剣を手放したかと思ったら、そのまま俺の腕を掴んで引っ張ってきよった。

ふらついた俺の身体は、もたれかかるように青羽君の胸の中へ倒れ込んで、身動き取れんよう抱き込まれた。

「……ん!?な、なに、これ!?」

台本と全然違うんやけど!?
俺、こんなシーン書いとらへんけど!?

観客からは、女子達からの黄色い声がめっちゃ飛び交っとる。

大丈夫?
これ、俺刺されへん?

「あ、あの、青……やなくて……英雄ナツキ?」

俺を抱きしめたままの青羽君に、ほぼ素の状態で問いかけてもうた。一応まだ劇の途中やのに。

やけど、それは青羽君も同じやった。

「確かに君のやったことは悪いことだ。でも大切な仲間を、僕は傷つけたくない」

それは、悪魔イートを許す言葉やった。

「君はずっと寂しかったんだよね。外見だけで怖がられて、誰とも話せなくて……」

そうや。
ずっと寂しかったんや。

勝手に噂だけ流されて、怖がられて、いつも一人ぼっちで。

「僕はずっと君と一緒に過ごしてきて、楽しかったし、安心したし、ここまで頑張ってこれたんだ。だから僕は、君を倒さないよ」

視線がぶつかる。

俺を見つめとる青羽君は、優しい顔をしとった。


「これからも、たくさん僕と話そう。イート」


あぁ、こんなハッピーエンドがあってもええんやな。


「は、はい」


そうして劇は、大成功で終わった。