内気な関西人と、キラキラ王子は舞台の上で


青羽君と練習を始めて一ヶ月。

なかなか直せへんかった口調は、そのままにしてもろうたおかげで、俺が言う台詞はだいたい覚えれるようになった。

けど……演技の方はまだ微妙や。

「演劇部って凄いんやなぁ」

台詞だけやない。喋り方から体の動き一つ一つが役になりきっとる。まるで別人みたいに。

それが俺には難しい。
動きはそこまでない役やけど、台詞に感情がなかなか入らへん。

「どうしたらええんやろなぁ……」

今日は青羽君の用事で、練習はお休み。

久々に顔出してみた文芸部の部室は、相変わらずガランとしとる。

「どうせ誰も来んへんし、自主的に練習は出来るんやけど……どうすれば感情を込めて読めるようになるんかも分からへんしなぁ」

俺がやる悪魔は、歌姫の声を奪った悪もんやけど、ほんまは寂しがり屋なくせに素直になれへん面倒なキャラや。

声を奪った理由も、みんなから慕われとる歌姫に嫉妬してのことやし。悪魔ちゅう怖い見た目だけで嫌われとるのが辛かったんや。

やけど、最後は英雄に斬られて消滅。

「自分で書いといてなんやけど、残酷な終わりやなぁ」

それにこの悪魔。
なんとなくやけど……。


「姫崎さん!!」


聞き覚えのある声は、窓の外からやった。

「あの声は、青羽君?」

俺はバレへんよう壁際に体を隠して、コッソリと窓の外を覗き込んで見た。

すると。そこにおったんは、なにやら楽しそうに話して笑っとる青羽君と姫崎さんやった。

「……なに話しとるんやろ」

二人はおんなじ演劇部やし、仲良いのは当たり前や。
それに、俺の練習ばっか構っとるより。姫崎さんみたいな演技上手い同士で話する方が楽しいに決まっとる。

「っていや!!なに勝手に嫉妬しとんねん俺!!」

そもそも俺と青羽君は、ただのクラスメイト。友達でも親友でも、ましてや恋人でもあらへんのに……。

遠くから勝手に覗き見して、嫉妬して、ほんまキッショいわ俺。

まるで、俺が書いた話の悪魔みたい……。


「あぁそうや……この悪魔、俺に似とるんや」


板倉先輩の役決めは、ピッタリ当たっとったってことやな。


「……は、ははっ。そうや。俺が歌姫の声を奪った悪魔や。ハハハッ!!お笑いもんやなぁ〜?アンタらはずーーと、俺に騙されとったんやから」

今なら分かる。
悪魔がなんで、悪いことしたんか。

「えぇよなぁ歌姫は。美人で歌が上手いちゅうだけでみんなから好かれとって」

悪魔も、人と話してみたかったんや。仲ようしたかったんや。

やけど、その外見と悪魔ちゅう存在だけで怖がられる。

「羨ましかったんや。妬ましかったんや。やからーー奪ったんや」

誰か俺を見て欲しい。
誰か俺と喋って欲しい。
誰か俺を愛して欲しい。

悪魔の気持ち、ようわかるで。


「さぁ。俺を倒してーーハッピーエンドや」


瞬間。
部屋のドアが、ガラガラと音を立てて開いた。

振り返ると、そこに立ってたんは……血相変えた青羽君やった。

「……へ?あ、青羽……くん?ど、どないしたん?なんや顔色悪そうやけど」

いつもやったらキラキラの笑顔で、俺に優しく話しかけてくれるのに、青羽君は俺の言葉になんの返事もせんで部屋中に入ると、俺に駆け寄ってきて、そんでーー強く抱きしめてきよった。

「……んん!?!?な、なに!?!?」

頭ん中はショート寸前。

というか、なんやねんこの状況!?
な、なんで青羽君、俺に抱き付いとるん!?

でも、この歳になって誰かに抱きしめてもらうとか初めてや。胸がポカポカするし、めっちゃ安心する。後良い匂いする。

「糸目君、凄いよ」
「えっ!?な、なにが!?」
「さっきの台詞。悪魔の感情が凄く伝わってきた」
「あ、あぁ〜!!き、聞いとったんやね!!」

誰もおらん思っとったから恥ずかしいな。

というか、俺が演技上手に出来とったのが嬉しくて抱きついてきたってことかいな?まぁそれ以外あらへんよな。理由。

「あ、あの。青羽君、そろそろ……」
「え?あっ!!ご、ごめん!!」

俺はさりげなく背中を叩きながら、言葉を濁して伝えると、青羽君は慌てて回しとった腕を離して、両手を上げた状態で固まってもうた。

その顔は、どこか照れ臭そうに頬染めとる。

なんや今日は、いつもと違う青羽君をいっぱい見れて新鮮や。

「そんな照れんでも、俺女子やないんやし!気にせんでええんよ?」
「い、いや。女子じゃないけど……い、糸目君だし」
「俺やから?……あぁ確かに。そんな仲良いわけやない人とハグとか気まずいし、恥ずかしいよな!」
「えっ!?」
「へ?」

今度はびっくりしたように目を丸くする青羽君。なんや?俺、なんか変なこと言うた?

「……僕と糸目君は、仲良くないの?」

青羽君の大きい手が、俺の手を掴む。

熱い。
熱くて、力強い。

えぇの?勘違いしても。

俺と糸目君は仲良しで、友達同士やて……勘違いしても。

「な、仲良し?俺と、青羽君」
「うん。仲良し」

当たり前かのように答える青羽君に、心臓がドクンっとデッカく鳴り響く。

「その……俺と青羽君って……と、友達?」
「うん。友達」

一瞬、これは夢やと思った。

だって、今まで叶わへんことやと思っとったから。

叶わへん夢やと思っとたから、俺は小説にして書くだけで満足しとったんや。

それがまさか、ほんまに現実になるなんて……。

嬉しすぎて死んでまう!!

「糸目君?」

俺が下向いたまんま反応せんかったせいで、青羽君が心配そうに声をかけてきた。

あかんあかん。
あんま恥ずかしがっとったら、友達以上の気持ちがあることまでバレてまう。

「だ、大丈夫大丈夫。ただ……めっちゃ嬉しくて……ありがとう。青羽君」

嬉しすぎて、思わず青羽君に緩んだ顔を見せてもうた。

いつも笑った顔は怖がられるから、なるべく見せたくなかったんやけどなぁ。キモい顔しとらんかったかいな。

「っ……糸目君」
「な、なに?」

青羽君の頬が、うっすらと赤みを帯びとるように見える。どないしたんやろ?熱いんやろうか?

「あ、あのさ!」
「う、うん?」

俺の手を握っとる青羽君の手に、力が入る。

「その、糸目君がよければ!!ぼ、僕と!!」

「やぁやぁ糸目君!!お邪魔しますねぇ〜!!」

青羽君の言葉を遮って入ってきたのは、板倉先輩やった。

「あ、お、お疲れ様です。板倉先輩」
「お疲れ様〜!ごめんねぇ突然来ちゃって!迷惑だった?あ、それは青羽君に聞くことか!ね?迷惑だった?青羽君」

ニヤニヤした顔で、ぷるぷると震えとる青羽君を覗き込む板倉先輩。

俺にはなんのこっちゃわからんけど、青羽君なんか板倉先輩に意地悪でもされたんやろうか?

「先輩……分かってるなら止めないでくださいよ」
「アハハ。ごめんごめん」

どうやらほんまに迷惑やったらしい。
なんがあったんやろ?

「そうそう!劇に使う衣装が出来たからさ、二人とも試着しに来てよ」

怒っとる青羽君を無視して、話を進める板倉先輩。メンタルえぐすぎやろこの人。

「もう衣装出来たんですね」
「そうだよ〜!ほらほら!早く行こう行こう!僕、糸目君の悪魔姿早く見たかったんだよねぇ〜。絶対似合うよ!顔が顔だし!」

そして、めっちゃ失礼すぎるやろこの人。
別に言われ慣れとるからいいけど。

「先輩。ちょっといいですか?」
「うん?なに?」
「……ちょっと、相談が」

青羽君が俺をチラッと見ると、また先輩の方へ目を向けた。

それはまるで、俺がおると話せへんから、どうにかしてほしいと言っとるみたいでーーモヤっとした。

「あぁ〜……なるほど。糸目君。僕ちょっと青羽君と話があるから、先行ってて」
「……は、はい……分かりました」

言われたとおり俺だけが先に部屋を出て、静かな廊下をとぼとぼと歩く。

急にどないしたんか分からへんけど、青羽君は真剣な顔して板倉先輩を引き留めとった。

ーー相談ってなんやろ。

しかも、俺が聞いたらあかん話みたいやったし。

「友達……やけど、そこまでやもんな」

青羽君と友達になれただけで、めっちゃ光栄やし、めっちゃ嬉しいことやのに……。

「わがまますぎるやろ。俺」

こないなことでモヤモヤしてまう自分を取っ払うように、俺はヤケクソ気味に走りながら演劇部へ向かった。





「それで?頼りになるこの先輩に、どんな相談ごとかな?青羽君」

「……急で申し訳ありませんが。劇の内容、少し変更してもよろしいでしょうか。糸目君には内緒で」