「ってわけで、これが文芸部の糸目君が書いてくれたプロットです!」
演劇部の人達は、青羽君の言葉に信じられへんもんでも見るような目で、俺の顔とプロットを交互に見比べていた。
「僕的には凄くいいと思うんですよね!このストーリー」
因みに俺が考えたストーリーをざっくり説明すると、街で人気の歌姫が悪魔に声を取られたちゅう話で、悪魔は歌姫の声を小さな音符に変えて、あちこちにばら撒いてもうて、その音符を英雄とその仲間達で探しに行く……みたいなファンタジー作品なんやけど。
ほんまにええんか!?
俺が考えたやつで!?というか、演劇部の脚本係の人はどないしたんや!?
「やぁやぁどうも糸目君!今回はごめんねぇ。僕三年の板倉要。演劇部の脚本担当してまーす」
「あ、ど、どうもです」
ちょうど思っとったら、向こうから挨拶してきよった。しかもめっちゃ陽気な人やな。
「いやぁこれいいね!タイトルとか決まってる?」
「い、いや……まだタイトルとかはなんにも……というか、俺が考えたやつでええんですか?板倉先輩がいらっしゃるのに」
「いいのいいの!というか実は僕、絶賛スランプ中でさぁ。まっったく浮かばないの!!君も文芸部なら分からない!?この気持ち!!」
「あ、あぁ……わかりますわかります」
書きたい気持ちはあるのに、まったく文章が出てこんへんってことようあったなぁ。
「ってなわけで、糸目君よろしく!みんなもいいよね?」
先輩の一言で、全員が頷く。
ほんまに俺が書いた作品が、劇になるんや。
正直めっちゃ感激で、胸がドキドキしとるのが分かる。
俺が考えた作品を形にするちゅうのは、昔からの夢やった。
書籍化やアニメ化、いつかそうなったらええなって思っとったら。まさか劇にしてもらえるなんてなぁ。
「じゃあ役割を決めよう!とりあえず、歌姫と一緒に声のカケラを探す英雄は、青羽君かな?」
「賛成です!!」
「俺も賛成」
「僕でいいんですか?それなら頑張ります!」
板倉先輩は、演劇部の仕切り役なんやろう。
みんなの中心に立って、早速劇の役決めを始めよった。
「じゃあ次は、ヒロインの歌姫だね!これは姫咲さんでどうかな?」
「賛成!!」
「が、頑張ります!!」
ヒロイン役に任命されはったんは、姫崎詩織姫崎詩織さんちゅう、ふわふわしとる可愛らしい女の子。
確か、同じ一年生やったはずや。
俺とは別クラスの子やけど、他の男子達が「すげぇ可愛い子がいる!」って騒いどったから、顔だけは知っとるし。なにより俺は、演劇部の劇は毎回観に行っとるから、この子がどんだけ演技がうまいかも知っとるつもりや。ヒロイン役言うたら、だいたい姫崎さんやし。
「頑張ろうね姫崎さん。英雄としてちゃんとリードするから」
「うん!私も、歌練習するね!歌姫だし!」
「うむ!それじゃあお二人さん!メインを頼むよ!」
「「はい!!」」
「それじゃあ後は……」
そういえば……青羽君と姫崎さんって、確か同じ一年で、演技力抜群、おまけに美男美女で、劇ではだいたいヒーローとヒロイン役。
そういう理由が重なっとるのもあって、周りからはあの二人付き合っとるんやないか?と噂されとった。
確かに二人並んどると、めちゃめちゃ絵になっとし、お世辞抜きにお似合いや。
俺なんかとは……全然ちゃう。
俺も姫崎さんみたいな可愛い見た目で、堂々と喋れる性格やったら良かったのになぁ。
ま、男ちゅうだけで、もうあかん気もするけど。
「最後に悪魔役なんだけど、僕的には糸目君推薦したいんだけど。どう?やってみない?」
なんか上の空やった間に、とんでもない提案されたような気するんやけど、聞き違いやろうか?
「えっと……今なんて言いはりました?」
「だから、糸目君に歌姫の声を奪う悪魔役をやってほしいなって」
「なんで俺やねん!?」
全然聞き違いやなかった!!
何考えとるんや、この先輩は!?
しかもつい勢い余ってツッコんでもうたせいで、俺のこと知っとる一年(青羽君以外は)めっちゃビビっとるやないか!!どないしてくれんねん!!
「え、嫌?」
「いや、嫌もなにも!!俺、素人ですよ!?演技なんて出来へんし、演劇部の人おるやないですか!!」
「いや、もういないよ。みんな役決まっちゃったからね!一人足りないんだよ。だから君に出て欲しいって頼んでるんじゃないか」
「え、ええぇ……そんな言われましても」
「それに君の顔、今回の悪魔役にピッタリだし!」
それを言われた瞬間、言い返す言葉が思いつかんくなってしもうた。
「この悪魔って、歌姫の声を奪ってばら撒いた後、仲間のふりして英雄達に近づいて、カケラ探しを邪魔をする役なんだろ?しかも最後はバレて、英雄達を裏切って消滅する」
「そ、そうですけど……」
「糸目君って確か『絶対裏切る糸目関西弁キャラ』って言われてるんだよね!じゃあピッタリじゃないか!」
こ、この先輩。人が気にしとるコンプレックスをよくもまぁズケズケと……いや、でもそうやな。陰でこそこそ言われとるよりかはマシか。
「先輩、これは演劇部の問題です。脚本もお願いしてるんですから、糸目君を困らせるのはやめてください」
俺と先輩の間に入って、かわりに怒ってくれはったのは、青羽君やった。
いつもの柔らかい目が、強く冷たい眼差しで先輩を睨んどる。
相手は同じ部活の先輩やのに……こういうところ見せられると、さらに好きになってまうやん。勘違いなんてしとうないのに。
「あぁ確かに、無理矢理は良くないよねぇ。ごめんね?糸目君」
「い、いえ……」
「んん〜〜でも、どうしようかなぁ?いくら人脈が広い僕とはいえ、他に悪魔役出来そうな人なんて心当たりないよ?どうしたもんかなぁ〜〜?」
いや、もうこれ。俺にやれ言うとるのと同じやんけ!!
ここで俺がずっとしぶっとったら、話進まへんで余計迷惑かけるやつやん!!
なんやねんこの先輩!!
こんなん結局、俺が折れるしかあらへんやん!!
「み、みなさんの迷惑にならんなら……や、やります……」
「本当に!?いやぁ嬉しいなぁ!!糸目君は優しい人だねぇ」
俺よりこの先輩の方が、悪役向いとる気がするんのは気のせいかいな。
「じゃあ演技は僕が教えるよ」
「えっ!?」
隣にいた青羽君が、まるで俺の不安を取り除いてくれはるみたいに肩に手を置いて、優しく笑う。
「大丈夫。一緒に頑張ろうね」
「うっ、ぁ、は、はい」
これはもしや、青羽君との手取り足取りドキドキキュンキュンな練習の日々が始まるんとちゃうか!?
……なんて。
んなアホなことを想像しとった自分が恥ずかしいなるくらい、忙しい日々が待っとった。
「ここの歌姫を心配して『大丈夫?』って言う台詞なんだけど、焦ったような言い方じゃなくて、余裕そうに。後、走って駆けつけないで歩いて来てみて?言い方も、本気で心配してないような心無い感じが良いんじゃないかな?本当は裏切り者だし。後、瓦礫に埋まった英雄を助ける時に使う詠唱魔法は恥ずかしがらずに」
「は、はい……」
青羽君めっちゃスパルタやん……。
俺内気やし、陰キャやし、人前に立って演技なんて……とか、わがまま言っとられんくらいスパルタや。
学校の日は毎日。
しかも放課後だけやのうて、昼休みも全部練習練習練習……。
おかけで恥ずかしさとか、もうどうでもようなってもうたわ。
「糸目君大丈夫?今日は台詞多かったし、ちょっと休憩しようか!」
「お、おおきに……」
体育館は声が響きやすいはずやのに、いざいつもの声量で台詞を言うと、後ろっ側まで全然届かへんかった。
やからいつもの倍……いや三倍くらいの声量で、しかも身体を動かして演技をせなあかん。
「はぁ……しんど」
演劇部って、運動部やったんやな。なめとったわ。
俺がいつも観とったあの劇は、こんだけの苦労があってのもんやったんやなぁ。凄いわほんま。
タオルで汗を拭き取って、自分の不甲斐なさに項垂れとると、首元から突然ヒヤッとしたもんが当たった。
「ひゃっ!?な、なんや!?」
予期しない冷たさにびっくりしてもうて、思わず上を向くと、少し頬が赤くなっとる青羽君が、片手にペットボトルを持って、俺を見下ろしとった。
「ご、ごめんごめん!びっくりした?はい。これスポドリ!」
「えっ!?い、いや悪いわ。そんな」
「いいからいいから!」
「い、いくらやった?」
「僕の奢りだから気にしないで!ほら」
「お、おおきに……」
青羽君からひやこいスポドリを受け取って、喉を潤す。
なんでかその姿を、青羽君が隣でガン見してくるもんやから、ちょい飲みづらかったけど……。
「糸目君ってさ、やっぱ関西出身?」
「えっ!?あ、あぁそやね。中二くらいに親の転勤で東京きたんよ」
中二ちゅう一番難しい歳にコッチきたせいで、こない性格なってしまったんやけどな。
「そうなんだね!やっぱ関西は、たこ焼きが美味しんでしょ?」
「うまいよ!外はカリッと中はトロトロで!」
「へぇ!美味しそう!僕も関西のたこ焼き食べてみたいな」
「ほな今度俺が一緒に……」
い、いや。一緒にってなんやねん!?
確かに最近はほぼ毎日一緒おるけど、おでかけするとかそんな……まだそんな仲やないし。青羽君も困ってーー。
「本当に!?やった!!じゃあ文化祭終わったら一緒に行こうね」
「えぇっ!?え、ええの?俺と一緒で……」
こんな、みんなから怖がられとる俺で……。
「寧ろ僕は、糸目君と行きたいな」
俺を見つめとった青羽君の眼が、穏やかで柔らかくて、胸が不思議と温かくなる。
やっぱ、好きやなぁ。
毎日毎日、会ったら会った分、俺は青羽君を好きになる。
