「俺は、君を愛している」
聴き心地の良い柔らかな声やのに、心臓をギュッと鷲掴んでくるような衝撃と感動。
こんな台詞を、こんな微笑みを、こんな愛され方を、いつか俺もされてみたい。
なんて……。
そんな小っ恥ずかしい妄想をしてまうほどに、演劇部の今日の公演も、めっちゃ良いもんやった。
「はぁ……キラッキラやったなぁ……」
今日の劇は、天涯孤独の寂しい少女と魔法使いの王子様が結ばれるっていう、涙ありキュンキュンありの内容やった。
脚本も演出も「もはやプロやないかい!」ってツッコミいれとうなるくらい良かったんやけど。
俺の頭ん中に、ずっとこびりついて離れんのはーーやっぱ。あの人。
「青羽夏輝君!!かっこいいよねぇ〜!!」
廊下に響き渡る女子のデッカい声に、思わず身体が固まってまう。
「分かる!!こっちまでドキドキしちゃったもん!!」
「というか、イケメンってだけでヤバいのに。おまけに演劇部で、まだ一年生なのに主役ばっかりなの普通に凄すぎるよね?」
「先輩達も、演劇部に希望の星が来た!!って喜んでたらしいよ」
「私も演劇部に入ればよかったぁ」
前を塞ぐように、横並びで歩いとる女子達。
その会話は、演劇部の公演の話……というよりも、一人の男子生徒の話やった。
「(相変わらずえらい人気もんやなぁ。青羽夏輝君は)」
正直俺も、前を歩く女子達の間に入って「わかるわかる!青羽君の演技はかっこええよな!」って語り合いたい。
勿論、そんな勇気あらへんけどな。
青葉夏輝君は、俺と同じ一年生で、同じクラスの人気者や。
顔も良ければスタイルも良し。おまけに誰とでも仲良う出来るし、当たり前やけど友達もいっぱいおる。
それでいて演技もめっちゃうまいって「自分漫画の主人公やんけ!!」って、思わず頭ん中でツッコんでもうたことあるくらいや。
ほんま……俺とは正反対。
「ちょっ、ちょっと。後ろにいるのって、もしかして糸目秋文?」
「えっ嘘。ヤバっ。私達邪魔しちゃってた?」
「どうしよう……恨まれたらヤバいよ?家まで押しかけてくるかもじゃん」
「ど、ど、どうしよぅ」
いやいや。そんなことせえへんし。
そもそも道塞いどったくらいで、そんな怒らへんし。ちょ〜と困っとったくらいで。
よし!!こういう時こそ。
青羽君みたいな優しい笑顔で、俺が怒ってへんってことをアピールしてやらんと。
「お、お、俺のことは、き、気にせんと……先行ってどうぞ。き、君らのこと……なんかしようなんて……お、思ってへんし。こ、こんなしょうもないことで、お、怒らへんよ?」
「すみませんでした!!」
「ごめんなさい!!」
「許してぇーー!!」
悲鳴に近い声で謝罪した女子達は、俺から逃げるように走り去ってもうた。
「はぁ……なんでこうなるんや」
俺はいつもこうやった。
狐みたいに細い目に、何考えてんのか分からへん不気味な笑み。おまけに人見知り。
関西人はノリが良くて、コミュ力高いなんてよう言われとるけど……全員そんなわけあらへんやろ。俺みたいな人見知りも普通におる。
まぁ関西にいた頃は、俺もそんな人見知りやなかったはずやけど。親の転勤で東京に来てからは、こんなふうになってもうた。
おかげで、外見だけで判断されるようになってしもうた俺は『絶対裏切る糸目関西弁キャラ』という肩書きをつけられ。
なんでか知らんけど、裏でヤクザと繋がっとるとか、目付けられた人間は消されとるとか、なんや意味のわからへん噂が流されて、俺の高校生活は晴れてボッチ生活になってしもうたわけや。
「せめて青羽君みたいに、誰とでも喋れたらええのになぁ」
そしたらこんな怖い顔やったとしても、友達くらいはできたはずやのに……。
「はぁ。あかんあかん。こういう気持ちは、言葉にして発散せんと」
放課後。
部室に着いた俺は、ガラガラとドアを開ける。
誰もつこうとらん空き教室。
放課後になるとその空き教室は、文芸部の部室になっとる……はずやけど。
「ま。誰もおらへんよな……」
いつものことやのに、誰もいない静かな部室を見ると、おのずとため息を吐いてまう。
部員は俺を含めて五人。
やけど四人は、俺がおるせいか部室には顔を出さへんようになってもうた。
「まぁ誰もおらへんおかげで、俺は堂々と創作活動が出来るんやけどな」
さっきまで落ち込んどった気持ちを、スマホのメモ帳に打ち込んでいく。
俺は小説を読むんのも好きやけど、自分で物語を作るちゅうのも好きや。
自分の理想の世界が出来上がっていく。
それがめっちゃ楽しい。
今書いとる話は恋愛系。
恥ずかしながら俺が主人公で、相手役が……青羽君や。
この気持ちはきっと、一生叶うもんやない。
どんだけ頑張っても、相手はあの人気者の青羽君や。俺なんかきっと眼中にもないか、みんなとおんなじように、ビビっとるかもしれん。
同じクラスやのに、話したこともあらへんし。
「やからせめて……この作品の中だけでも……」
俺と青羽君が、普通になかよう話しとって、そんでもって友達になって、最後は恋人ーーなんてな。
「失礼します!文芸部のみなさんに用事があって来ました!青羽夏輝です……ってあれ?一人?」
突如、部室に光が差し込んだ。
「……ひぇ」
「あ!同じクラスの糸目君だよね!文芸部だったんだ!他の人達は?まだ来てない感じ?」
突然すぎて、頭が全く回らへん。
ガラガラとドアを開けて入って来たんは、俺の憧れで、好きな人。
いつもの日常に、推しのアイドルをぶっ込まれた気分や。
「糸目君?どうしたの?」
「ぅえっ!?えっ、えっとやな……」
同じクラスやけど、ここまで目合わせて話したことない!!ていうか、会話すら初なんやけど!!
あぁ青羽君の優しげなタレ目が俺を見つめとる。目の下にホクロってなんかやらしぃ……ってあかんあかん!!なに考えとんねん俺!!はよ答えてあげんと!!
「ほ、他の人達は……い、いつも、部室に来んへんくて……だいたい、俺一人……やねん」
「そうなの?なんでみんな来ないんだろ?」
「そ、それは多分……俺がおるから……やと思う」
「え?なんで糸目君がいるからみんな来ないの?みんな女子で、男子と一緒は気まずいとか?」
青羽君は、ほんまに意味がよう分からんみたいで、首を傾げとった。
みんなは俺を怖がっとるけど、青羽君は違うんやろうか?それともただの優しさ?気遣ってくれとるだけやろうか?
どっちにしても、好きな人に露骨に怖がらへんかっただけで、めっちゃ嬉しいわ。
「と、ところで……き、今日は、どないしたん?なんで文芸部に?」
やっと頭が回り始めた俺は、一番気になっとったことを青羽君に問いかける。
すると青羽君は、不思議そうに悩んどった表情が一変して、キラキラスマイルを俺に向けてきよった。
ほんま演劇部なだけあって、表情の変わりよう凄いなぁ。
「実はね!文化祭でやる劇の脚本を、文芸部に頼みたくて!」
ん?今なんて?
「きゃ……脚本!?」
「そう!例えば糸目君が書いてる作品で、劇にしてほしいやつとかある?」
「お、お、俺が書いたやつ!?」
思わずさっきまで書いとった小説を見て、すぐにスマホの画面を閉じた。
これは絶対にあかん。
俺と青羽君の恋愛ストーリーを書いとったなんてバレたら、恥ずかしさと申し訳なさで死んでまう!!
「そ、そや。これなんかどないやろ?」
俺はスマホをポケットに入れて、机の下から一枚の紙を取り出して、机の上に置いた。
「つ、次に書こう思っとった作品のプロットなんやけど……」
「おぉ!見ても良い?」
「は、はい……ど、どうぞ」
「あはは!なんで敬語?同じクラスなんだから、敬語じゃなくていいのに!」
「えっ!?あ、あはは……そ、そうやな……じゃあ……ええよ?」
「うん!ありがとう!」
うわぁ……なんか友達みたいな会話や。しかも青羽君と。なんなん、今日俺死ぬんか?
「いいね!面白いよこれ!ねぇこれ、劇にしてもいいかな?」
俺が簡単に書いたプロットを見た青羽君は、さっきよりもキラキラした眼差しで、俺を見つめてくる。
「え、ええの?逆に」
寧ろこっちの方が申し訳ない感じなんやけど。
いいんか?俺が書いたやつで。
「あはは!寧ろ僕がお願いしてるんだから!」
「そ、そやね」
青羽君は、ほんまに誰に対しても優しいし、誰に対しても気さくに話せるんやなぁ。
今まで誰とも友達らしい会話をしたことなかったから、めっちゃ嬉しいし。夢みたいや。
「そうだ!もし時間あるなら演劇部においでよ。今からみんなと、このプロット見ながら話し合いするからさ!」
「えぇ!?で、でも俺が行ったら」
「この作品を、みんなの心に残るようの良いものにしたいんだ!だから、作った糸目君がいないと!」
青羽君は、動揺して動けへん俺の手を掴んで握りしめた。
あったかくて、綺麗な指。けど、俺とおんなじ男子の手。
あかん。ドキドキして目が離せへん。
青羽君の濃い褐色の瞳がめっちゃ綺麗で、吸い込まれてしまいそうや。
「行こう!糸目君」
「は……うん」
この時の俺は、思いもせんかった。
ここから、俺の物語が始まったてもうたことに。
