ヨクバリなココロなの

 詩織からの告白を受けて、正式に恋敵となった。

 そこから詩織の勢いは止まらず、隙あらば千歳に近づき、話しかけてる。

「ねぇ、日和ちゃん……ちょっと良いかな?」

「どうしたんですか?」

「最近、鳥羽さんも僕にいっぱい話しかけて来るけど何かあったの?」

 音楽室に移動中、階段でたまたま千歳と出くわす。

「さぁ、何も無いですけど……」

 白々しくはぐらかすと、日和は気まずくなりそのまま千歳と別れ音楽室に向かった。







 『絶対矢尾先輩のこと、譲らないから』

 『私も譲らないから』

 日和は千歳とそう約束して親友だった詩織と別れた。




 

 お昼、千歳と食べようと事前に連絡して指定された場所に向かう。

 すると、先に千歳が来ていたらしく日和に気付くと手を振って出迎えた。

「お待たせしました」

「僕もさっき来たから大丈夫だよ……それより、詩織ちゃんも今日は一緒なんだね?」

 と、言われ振り返ると詩織がニコニコと微笑みながら近づいて来る。

「お邪魔します」

「どうぞどうぞ」

 ちゃっかり千歳の右側をキープした詩織に対抗するべく、日和は左側に座る。

 こうして、ふたりきりの時間を詩織が乱入してくることでふたりきりで話せる時間も無くなっていき、いつしか千歳を見かけない日が増えていった。
 
 そして、変わったことがもう一つある。

 それは、詩織との距離感だ。

 朝挨拶をしても無視、一言も会話をしない日もある。






 そんなある日、体育大会の種目決めが行われている時に事件は起きた。

「不知火さんと鳥羽さん仲良いよね?二人三脚出ない?」

「出な……」

「出るよー!勿論、日和も出てくれるよね?」

 詩織がどういう訳か同意を求めてくる。

「どういうつもり?私が運動苦手なの分かってて言ってる?」

「当たり前じゃん」

「なんで……」

「良い所を見せたいからに決まってるじゃん」

「そっか……自分をよく見せたいから親友を蹴落としてまで」

「そうだよ、千歳先輩のこと好きなんだから……それに何でウチが地味なアンタと仲良くしてやってると思ってるの?」

「わからないよ」

「だろーね?アンタウチは裏切らないって信じて疑わなかったもんねー?」

「でも……一度も詩織は私を裏切らなかった」

「それは価値があったから。でも、今はその価値はアンタには無い……だったら、利用して千歳先輩をアンタから奪ってしまえばお終いだよ」

「そんなの卑怯だよ!そんなの詩織が一番嫌いなことだったんじゃないの?」

「昔と今は違うよ」

「ねー出るのー?」

 記録係の生徒に促され

「出るってー!」

「りょー!」

 日和の二人三脚出場が決まった。








 体育大会当日、種目は二人三脚。

 遂に日和と詩織の出番がやって来た。

「それじゃ、ウチの為に盛大に転けて恥をかいてウチをカッコよく引き立たせてよね?」

「本当に卑怯って思わないの?」

「思うわけないじゃん」

 日和と詩織が言い争いながらスタート地点に立つと、スタート合図の空気鉄砲が打ち放たれた。

 実況もアンカーだけあって熱がこもっている。

 本当にこの盛り上がりを見ていると、優しく正義感が強い詩織はもう居ないんだと実感させられる。

 コースも後半に差し掛かった頃、盛り上がりも最高潮になる。

 そして、詩織は遂に動き出した。

 自然な流れで尚且つ、日和が確実に転けて恥をかくように詩織は速度を上げた。

 急に詩織が速度を上げたせいでリズムは崩れ、足がもつれた日和は横転した。

「あー……」

 最高潮だった盛り上がりが急速に下がっていく。

「ほら、大丈夫?」

 詩織が手を差し伸べる。

 この手を受け取らないと日和が悪者になってしまう。

 日和は仕方なく詩織の手を受け取り、再び走り出した。







 そして、ゴールテープを切って最下位でゴールインした。

「不知火さんがあそこで転ばなければ一位だったのにねー?」

 やる気と満ち溢れて居た記録係の生徒が詩織を持ち上げる。

 その流れを皆が汲み取り、詩織が本日のMVPになった。






「日和ちゃん、詩織ちゃん!見てたよ二人三脚」

 千歳が久しぶりに日和達のクラスにやって来た。

「マジ!?ありがとー♡」

「うん、本当に感動したよ……でも、あそここそ相手に合わせないと行けなかったよね?詩織ちゃん」

「どういう……」

「ちゃんと観てたから気づいちゃった。あれ、急に速度を上げて敢えて日和ちゃんを転ばせたんでしょ?」

「そんなことする訳……」

「急に速度を上げたらどうなるかぐらいは想像できたのに敢えて速度を上げた……見損なったよ」

「千歳先輩……見損なったって……どういう……」

「文字通りだよ、詩織ちゃん。日和ちゃんとは、親友なんじゃ無かったの?」

「昔はね。でも、今は違う……昔は普通に仲良い友達だった。でもね、日和……アンタのその無自覚な優しさがウチは大嫌い」

「なんで……?優しいのは良いことでしょ?」

「普通なら、ね。でも、アンタは普通じゃない……誰にでも優しいし、自然と沢山の人に好かれる……ウチとは正反対のタイプで憎かった」

「そっか……詩織は昔は正義感が強いからしょっちゅう人と揉めてた」

「そ。それで人に嫌われた……ウチの横でヘラヘラ笑ってたアンタがウチは大嫌い」

「そっか……そうだったんだ……でも、それ私悪くなくない?正義感強いのは詩織の性格の問題じゃん」

「うん、その通りだった……だからウチは、この口調で明るく陽気で居ることでウチなりの平穏を手に入れた……でもね、アンタへの憎しみもトラウマも消えた訳じゃない」

「……」

「隣で何もしてないのにウチより人気者になっていくアンタに憎しみが募っていった。それだけだよ」

 黙って詩織の独白を聞いた千歳と日和は同時に言う。

「「で?どうしたいの?仲直りしたいの?」」

「仲直りしたい……ごめんなさい」

「私、詩織に蹴落とされて悲しかった」

「ごめんなさい……」

「そうだよね、僕も期待を裏切られて悲しかった」

「ごめんなさい……!」

「「でも、謝ってくれたからもう良いよ」」

 千歳と言葉を放つタイミングが合ったことで、少し嬉しくなった日和は詩織が作り出したこの機会に感謝して、詩織と和解した。