ヨクバリなココロなの

 春、千歳が3年間過ごした高校を卒業した。

 日和と出会ってからは楽しくて仕方ないんだと言っていた頃からほんの少しだけ大人になった千歳は式が終わると、日和の元へと駆け寄って来た。

「日和!」

「ちーくん!卒業おめでとう!」

 千歳に抱きしめられ、身動きが取れなくなる。

「やっぱ留年して日和と同い年になりたかったな……」

「離れても連絡はいつでも出来るよ」

「でも……ひと時も日和と離れたくない」

「あたしも、離れたくない……」

 こうしてしばらくふたりで抱き合った後、日和は母親と帰って行く千歳を見送った。








 そして、月日は流れ夏になった。

 日和も千歳もすっかり夏休みに突入していた。

 今日は夏祭り、千歳ともその祭りの会場で待ち合わせている。

「浴衣の方が良いのかな?」

 今は詩織の家で相談に乗って貰っている。

「絶っっ対浴衣!」

 詩織もスマホを見ながら、返事をする。

「似合うかな?」

 不安がる日和を一瞥する。

「うん、似合ってる似合ってる。さあ、もう時間なんじやい?」

「あ、本当だ!じゃ、いってきます!」

「いってらっしゃ〜い」








 お祭り会場に着くと、既に千歳が先に着いていた。

「ごめん、お待たせー!」

「日和!ううん、僕も今来た所だから大丈夫だよ」

「ありがとう」

「じゃ、行こうか」

「うん」








 しばらく祭りを楽しんでいると、花火が打ち上がる時間になる。

「もうすぐだねー!」

「ねー!まだー?」

 辺りも賑やかになってきた頃、千歳は日和を連れて駐車場に向う。

「どうしたの?」

「ん?人混みではぐれたくないし、日和に嫌な思いさせたくないから車で花火見ようと思って」

「ありがとう……ちーくん」








 こうして車に乗ると、タイミング良く花火が打ち上がる。

「わぁ……」

 思わず感嘆の溜息が漏れる。

「綺麗……」

 日和は千歳もてっきり花火を見ているのかと思っていた。

 窓に張り付く日和の後ろから千歳にハグをされて思わず悲鳴を上げる。

「ひゃ!」

「あ……ごめんね、思わず抱きしめたくなって」

 そう言いながら千歳は両手を小さく上に上げる。

「だ、大丈夫です……びっくりしちゃっただけで」

 日和もつられて小さく両手を上げていた。

「そうだよね、ごめんね」

「大丈夫!」

「良かったー……」

 千歳は心底安堵したように背もたれにもたれかかる。

「楽しかったー!」

「またねー!」

 花火を見終わった人達が車に帰って来る。

 その賑わいで意識を現実世界に戻した千歳が車を発進させた。







 しばらく走っていると、スマホが着信を知らせる。

「出なくて良いの?」

 千歳は車内に響くBGMの音量を下げながら、日和に問いかける。

「ありがとう」

 日和がスピーカーモードにして通話を開始するとお父さんの声が聞こえてきた。

「日和ちゃん、今どこ?迎えに行こうか?」

「お父さん……ごめん、今日は友達の家に泊まるからお母さんにも伝えておいて」

「分かった。伝えておくよ」

 案外あっさり納得したお父さんを不思議に思いつつ

「うん、それじゃ……」

 通話を切ると、千歳が呆れたように口を開いた。

「父さん、もうちょい日和のこと心配してくれよ……」

「お父さんって昔からこんな感じなの?」

「あぁ、だからあぁいう性分なんだと思う」

「そっか……仕事人間だもんね」

「あぁ。でも、素敵な生き様だとは思ってる」

「うん、あたしもそう思う」








 こうして、千歳が泊まるホテルに着くと速攻で部屋に入る。

 ダブルベッドとテレビと机と椅子が置かれただけのシンプルな部屋で千歳はベッドに腰掛けてテレビを点けた。

 バラエティー番組が始まった所で千歳は日和にお風呂の提案をしてきた。

「日和、お風呂先入るよね?」

「うん」







「お風呂出たよー……」

 お風呂から出ると、千歳はベッドの上で気持ち良さそうに眠っていた。

 日和は千歳を起こそうと肩に触れて、揺らす。

「んー……」

「お風呂、出たよ」

「後で……」

 再び眠りに落ちる千歳に日和は布団を掛けて、お風呂のガスを切り、ドライヤーで髪を乾かし終えると、日和も眠りについた。








 翌朝、日和が目覚めると千歳がお風呂に入った後だった。

「おはよ、日和」

 ドライヤーを掛け流しながら挨拶をする。

「おはよ、ちーくん」

 日和が後ろから抱きつき、千歳の髪を乾かす。

「ありがとう」

 千歳はそう微笑んだ後、日和を朝食ビュッフェに誘った。








 ビュッフェスタイルの朝食は非日常的で、ふたりで席に向かって並んで歩き出す。

「いただきます」

「いただきます」

 食卓に着くと、早速挨拶をしてから食べる。

「美味しい!」

「でしょ?ここ口コミ良かったんだよね」

「連れて来てくれてありがとね、ちーくん」

「絶対日和と食べたかったから、日和が卒業したらまたここに来ようね」

「うん!」








 家に帰ると、お父さんもお母さんも仕事に行っていた。

「ちーくん?」
 
「ん?」

「久しぶりの実家だけど、どんな気分?」

「といっても、そんなに経ってないから感慨深いとかは無いかな」
 
「そうなんだ……」

「うん、それよりも日和……こっちおいで」

 千歳が隣の席を優しく叩く。

 日和が千歳の隣に来ると、千歳は日和にもたれかかり瞳を閉じた。

「ちーくん?」

「ん?」

「どうしたの?」

 突然の千歳の行動に驚き、日和は真意を問いかける。

「寂しい、構って」

 日和の肩に顔を乗せたまま、日和を見つめる。

「分かった」

 そして、日和が千歳の頭を撫でると千歳は徐々に上機嫌になっていく。

「ちーくん、大丈夫?」

「ん?」

「ちーくんがこうなるの珍しいから」

「いっつも日和からだもんね」

「うん」

「でも、僕だって寂しい時もあるし会いたくなることもあるよ」

「ちーくん……」

「でも、こうやって充電出来たから、もう大丈夫!」

「なら、良かったー!じゃあ、あたしも充電させて♪」

「良いよ」








 こうしてイチャイチャしていたら、時間が経っていた。

「ただいまー」

 お父さんが帰ってきた。

 日和は千歳から離れてリビングのソファーに座り直す。

 千歳はそのままソファーから立ち上がり、お父さんを出迎えに行った。

「おかえり、父さん」

「おー、帰ってたんだな」

「うん、今日帰って来たんだ」

「そうか、まぁゆっくりして行きなさい」
 
 そして、お母さんも帰って来ると昔のように家族で夕食を食べ、一日が終わった。

 翌朝、日和が起きると千歳はいつの間にか帰っていた。








 そして、日和も高校を卒業して千歳の住む東京に上京した。

「ちーくん!」

「日和!」

 こうして、ふたりは久しぶりの再会を喜んだ。