ヨクバリなココロなの

 学校に着くと、親友の鳥羽 詩織(16)が正門で待って居た。

「おはよ!日和」

「おはよう日和ちゃん、あら?今日お母さんは?」

「おはようございます。母は、駅で猫を拾ったので一旦猫を置きに自宅に帰ってから来るんです」

「あらーそうなの?じゃあ、日和ちゃんも写真撮っておこうか?」

「いえ、大丈夫……」

「日和も撮ろーよ!ほら、並んで並んで!」

 入学式と書かれた看板前に並ぶと、おばさんはシャッターを押す。

「ありがとうございます」

「良いの良いの!ちゃんとお母さんにも送っておくからね」

「はい、お願いします」

 日和がおばさんに御礼を述べたのを確認すると、詩織は日和の二の腕を掴み校内に連れ込もうと引っ張る。

「ほら、早くクラス確認しに行こ!」

「うん、そうだね」

「それじゃ、詩織お母さんは先に体育館に行っておくわね」

「はーい!」



 

 詩織に手を引かれ、掲示板の前に行く。

「あ!詩織と私同じクラスだよ!」

「え!本当に!?」

 詩織が掲示物を確認して、事実であることを認識する。

「やったー!やったよ!また今年もよろしくねー!」

「うん、よろしくね!」

 詩織と同じクラスになれたことに安堵しつつ、日和は詩織と共に教室に向かう。




 

 教室に着くと、黒板に張り出された座席表を確認する。

「日和が2列目の3番目で、ウチが4列目の4番目か……」

「そうみたいだね」

「やっぱり苗字順かー!隣同士がよかったなぁー」

「そうだね」

 


 
 こうして、無事入学式も完了した後教室の出口に今朝の男の人が手を振って居た。

「こんにちは、同じ学校だったんですね」

 日和が駆け寄り、彼に挨拶をする。

「こんにちは、制服を見てココの新入生だなってわかってたから」

「あ……なるほど」

「うん、でもとりあえず自己紹介が先かな。僕は矢尾 千歳2年3組だ。どうぞよろしくね」

「1年1組の不知火 日和です。よろしくお願いします」

「それでね……えっと、日和ちゃんって呼んでも良いかな?」

「はい、大丈夫です」

「日和ちゃん、連絡先教えて貰っても良いかな?」

「え……なんで」

「あの今朝の猫のこと気になって情報を共有したいなって」

「あ、なるほど……ですよね!すみません、気が利かなくて」

「大丈夫だから気にしないで!勝手に渡して立ち去ったのは僕なんだから」
 
 日和がスマホを取り出すと、千歳もスマホを取り出す。

 こうして、千歳の連絡先が日和のスマホに追加された。

「それじゃ、またね日和ちゃん」

「あ、はい……それじゃ、また……」

 日和はぎこちなく千歳に手を振って千歳を見送った。

「日和、あのイケメンの人知り合い?」

「あ、うん。さっきおばさんに『猫を拾った』って言ったでしょ?」

「うん」

「その猫をあの人が救出してくれたの」

「そっかー、良い人だね」

「うん、そうだね」





 家に着くと、千歳からメッセージの通知が来ていた。

 《連絡先教えてくれてありがとう》

 通知を開くと、全文が表示される。

 《連絡先教えてくれてありがとう。これからよろしくね》

 《こちらこそ、猫を救ってくださりありがとうございました。連絡先の件もわざわざ出向かせてしまって、すみませんでした》

 《さっきも言ったけど、全然大丈夫だからね。今、あの猫はどうしてる?》

 《あの猫は今、母が病院に連れて行ってます》

 《そっか、良かった。どうしてるかなって心配してたんだよね》

 《弱ってましたもんね、私も心配してます》

 《また、猫のこと報告してね》

 《わかりました。帰って来たらすぐに連絡しますね》





 あの日から数日後、猫は元気を取り戻しヤンチャな女の子になっていた。
 日和と千歳の距離は縮まり今ではぎこちなくなることなく、話しができるようになっていた。

「おはようございます、矢尾先輩」

「おはよう、日和ちゃん」

「あれから、猫の名前は決まった?」

「いえ、まだなんです」

「そっか」

「はい、先輩何か良い名前の案無いですか?」

「んー……そうだねー……あ!紡!紡って名前はどう?」

「可愛い響きだし、良い名前ですね!」

「良かった、気に入ってくれて」

「でも、どうしてつむぎって名前に?」

「ん?猫と日和ちゃんのこれからを共に生きるのにピッタリだと思ったからだよ」

「なるほど……」

 そして、あの日拾った猫の名前は『紡』に決まった。









 入学式から1ヶ月が経ったある日、千歳が日和のクラスにやってきた。

「あ、日和!」

 タイミング悪く、お手洗いから帰って来ると千歳が詩織と楽しそうに話していた。

「千歳先輩、どうしました?」

 詩織を一旦無視して、千歳に話しかける。

「いや、お昼どうかな?って誘いに来たんだけど、お友達と食べたいよね。僕もう帰……」

「そんなことないです!一緒に食べましょう!」

「本当?でも、お友達は……」

「彼女、他にも友達居るので」

 千歳は詩織を見ながら、申し訳なさそうに口パクで『ごめんね』と言う。






 
 千歳を強引に詩織と引き離した後、千歳に聞いてみる。

「千歳先輩、詩織と何話してたんですか?」

 別に千歳先輩が詩織と話すのは自然なことだし、詩織に恋心も無いことも日和は知っている。

「日和ちゃんを誘いに来たんだけど、鳥羽さんに話しかけられて対応して貰ってたんだ」

「なるほど」

 納得したフリをしても全然納得できなかった。







 放課後、詩織と一緒に帰って居ると、詩織に聞かれた。

「ねえ、日和……矢尾先輩のこと好きなの?」

「好き!?そんなまさか!」

「じゃあ嫌いなの?」

「嫌いとかじゃなくて……尊敬してるの。千歳先輩頼りになるし、かっこいいから人として好きってだけで……!」

 言っていることは嘘じゃない。

 尊敬しているし、慕っている。ただ、それだけだ。

 なのに、何でこの関係値を意識するともっと千歳に好かれたくなっているんだろう。

 詩織と別れて家に帰っても、この疑問が晴れることはなかった。







 翌日のお昼休みに詩織に連れ出され、誰も居ない旧校舎へとやってきた。

「何?」

「あのね、昨日日和に矢尾先輩のこと好きなの?って聞いたじゃん?ウチ、好きなんだよね矢尾先輩のこと」

「え……?」

「だから、矢尾先輩がこと好きになっちゃったから日和と仲良いし、好きなのかな?って聞いたの。でも、普通に仲良いだけならウチが告白しても問題ないよね?」

「それはダメ!」

「え?」

「あ、私何を言って……」

「やっぱり好きなんじゃん」

「え?」

「ウチが何年、日和と付き合ってると思ってるの?」

 そう言った詩織は真剣な眼差しで日和を見つめた。

「そんなのウチが矢尾先輩と話してて日和がブチ切れた所で察したし、だから聞いたの。あ、ちな矢尾先輩が好きってとこはガチだから」

「ええぇぇ!?ちょ、ちょっとま……」

 立ち去ろうとする詩織を追いかけようと日和も動揺で言葉を詰まらせながら後を追った。