比翼連理—たとえ明日が来なくても、あなたを愛したことだけは消えない—

帰り道。

校門を出たところで、突然陽菜の視界が揺れた。
胸が締め付けられる。
息が苦しい。
まずい。
発作だった。

だが蒼には知られたくない。
陽菜は咄嗟に立ち止まり、
平気なふりをした。

「どうした?」

蒼が振り返る。

「なんでもないよ」

笑う。
だけど苦しい。
心臓が痛い。
蒼はじっと陽菜を見た。

「顔色悪いぞ」

「大丈夫」

「大丈夫じゃない」

珍しく強い口調だった。
陽菜は少し驚く。
蒼は近くの自販機へ走った。

数分後、
スポーツドリンクを持って戻ってくる。

「飲め」

「え?」

「いいから」

陽菜は受け取った。
冷たい缶が手に心地いい。

「ありがとう」

「無理するな」

その一言が、なぜか涙が出そうになるほど嬉しかった。
それから二人は一緒に帰ることが増えた。
好きな音楽。
好きな映画。
将来の夢。
少しずつ話題が増える。

ある日。
夕焼けの坂道を歩きながら、

陽菜は尋ねた。

「水瀬くんの夢ってある?」

蒼はしばらく黙っていた。

「ない」

「本当に?」

「考えたことない」

「もったいない」

「そうか?」

「うん」

陽菜は空を見上げる。
オレンジ色の空。

「私は保育士になりたい」

蒼が初めて興味を示した。

「子ども好きなのか」

「好き」

陽菜は笑う。

「泣いてても笑ってても全力だから」

「桜庭らしいな」

その言葉に、陽菜は少し照れた。

「私らしい?」

「うん」

蒼は真っ直ぐ前を見たまま言う。

「いつも笑ってる」

その声は優しかった。
だが陽菜は思う。

本当は違う。

笑っているのは、残された時間が怖いから。
未来が短いかもしれないから。
だから一日一日を大切にしたい。

そのことを蒼は知らない。
知らなくていい。
そう思っていた。