比翼連理—たとえ明日が来なくても、あなたを愛したことだけは消えない—

四月。

満開の桜が校門を包んでいた。
風が吹くたびに花びらが舞う。
陽菜は立ち止まり、その景色を見上げた。

「今年も綺麗だなぁ」

誰に言うでもなく呟く。

本当は少し息苦しかった。
朝から胸の痛みがあった。
けれど慣れていた。
もう何年も付き合ってきた痛みだ。
だから誰にも言わない。
心配されたくない。
特別扱いされたくない。

普通の高校生として過ごしたかった。

その時。
一冊のノートが風に乗って飛んできた。

「あっ!」

反射的に追いかける。
しかし先に誰かが拾い上げた。

黒髪の男子生徒だった。

見覚えのない顔。
制服は同じ。
けれど初めて見る。
転校生だろうか。

「ありがとう」

男子生徒は短く言った。
低く落ち着いた声。

「転校生?」

陽菜が尋ねる。
男子生徒は少しだけ眉を上げた。

「そうだけど」

「名前は?」

「水瀬蒼」

それだけ答える。
愛想がない。

でもなぜか嫌な感じはしなかった。

「私は桜庭陽菜」

蒼は何も言わない。

「よろしくね」

そう笑うと、彼はほんの少しだけ目を細めた。

それが二人の始まりだった。