比翼連理—たとえ明日が来なくても、あなたを愛したことだけは消えない—

その日の午後。

医師の許可が出た。

短時間だけの外出。
病院から車椅子で移動する。

向かった先は、あの公園だった。
初めて約束を交わした場所。
何度も未来を語った場所。

桜の木の下。

満開の花が二人を包んでいた。

風が吹く。
花びらが舞う。
まるで祝福みたいだった。

陽菜は空を見上げる。

「綺麗」

その声はとても小さい。
でも確かに幸せそうだった。

蒼は隣にしゃがむ。

「約束守れたな」

陽菜が笑う。

「うん」

「ちゃんと一緒に見れた」

「うん」

二人は笑った。

それだけで十分だった。

しばらく沈黙が続く。
風だけが桜を揺らしている。

そして陽菜が言った。

「蒼」

「ん?」

「ありがとう」

蒼は眉をひそめる。

「急になんだよ」

陽菜は首を横に振る。

「全部」

優しく微笑む。

「出会ってくれて」

「好きになってくれて」

「愛してくれて」

蒼の表情が少し曇る。
何かを感じたのだろう。

陽菜は続けた。

「私ね」

一度空を見上げる。

桜が揺れている。

「幸せだった」

その言葉は嘘じゃなかった。

病気は辛かった。
怖かった。
苦しかった。

でも、蒼と出会えた。

恋をした。
愛された。

それだけで人生は輝いていた。

「だから」

陽菜は蒼を見る。

涙を浮かべながら。

「泣かないでね」

蒼の瞳が揺れた。

「無理だ」

声が掠れる。

「そんなの無理だ」

初めてだった。
蒼が涙を見せたのは。

陽菜は微笑む。

「やっぱり優しいね」

そしてそっと手を伸ばした。

蒼の頬に触れる。

温かかった。

生きている温もり。
愛しい人の温もり。

「大好き」

蒼の涙が零れ落ちる。

「俺も」

声が震える。

「陽菜が好きだ」

「ずっと」

「これからも」

花びらが舞う。

空は青い。
春の風が優しい。

その瞬間。

陽菜は静かに目を閉じた。

幸せだった。

本当に。

最後まで。