比翼連理—たとえ明日が来なくても、あなたを愛したことだけは消えない—

数日後。

陽菜は深夜に発作を起こした。

激しい胸痛。
息ができない。

看護師が駆け込む。
医師が呼ばれる。

病室は慌ただしくなった。

意識が遠のく中、
陽菜が思い浮かべたのは蒼だった。

会いたい。

ただそれだけだった。

翌朝。

発作は落ち着いた。

しかし担当医の表情は暗かった。
病状は確実に進行していた。
病室の外で、父親は医師から説明を受けていた。

その話を偶然聞いてしまう。

「今後は厳しい状態になる可能性があります」

陽菜はカーテンの向こうで静かに目を閉じた。

分かっていた。
でも。
実際に言葉として聞くと苦しかった。

怖かった。
死ぬことより。
蒼と離れることが。

夕方。

蒼が病室へ来た。

「今日顔色悪いな」

陽菜は無理に笑う。

「寝不足」

嘘だった。

蒼は少し黙った。
そして突然言った。

「海行こう」

「え?」

「退院したら」

真っ直ぐな目。

「海も花火も遊園地も全部行く」

陽菜は思わず笑った。

「欲張りだね」

「全部行く」

「全部?」

「全部」

その強引さが可笑しくて。
陽菜は久しぶりに心から笑った。

そして思った。

まだ終わりたくない。
もっと一緒にいたい。
もっと笑いたい。
もっと恋人でいたい。

涙が出そうになる。
だけど今回は悲しい涙じゃなかった。
生きたいと思えた涙だった。

その夜。

陽菜はノートを開いた。

そして初めて、あるものを書き始める。

蒼への手紙だった。

もしもの時のために。

まだ渡すつもりはない。
だけど、いつか必要になるかもしれないから。

震える手で、最初の一文を書く。

『蒼へ――』

その文字は少しだけ滲んでいた。