比翼連理—たとえ明日が来なくても、あなたを愛したことだけは消えない—

九月。

夏の終わりは静かに訪れた。

けれど陽菜にとって、その夏は終わらなかった。

病室の窓から見える空だけが、季節の変化を教えてくれる。

白い天井。
規則正しく鳴る機械の音。
消毒液の匂い。
それが今の陽菜の日常だった。

病気を打ち明けてから一週間後。
陽菜は入院することになった。

検査と治療のため。
期間は未定。

本当は学校へ行きたかった。
蒼と同じ教室で過ごしたかった。
普通の日常を続けたかった。

けれど身体が限界だった。

入院初日。

病室のドアが開く。

「よっ」

聞き慣れた声。

蒼だった。

学校帰りなのだろう。
制服姿のまま。
少し汗ばんでいる。

「来たの?」

陽菜が笑う。

「来るに決まってるだろ」

蒼は椅子へ座った。
当たり前のように。
まるで毎日来るつもりみたいに。

「授業は?」

「終わった」

「宿題は?」

「後でやる」

「ダメじゃん」

「陽菜の方が大事」

陽菜は思わず笑った。
そして少し泣きそうになった。

その日から。
蒼は本当に毎日病院へ来た。

雨の日も。
暑い日も。
部活がある日も。
欠かさなかった。

他愛ない話をした。
クラスで起きた出来事。
先生の失敗談。
友達の噂話。
テレビ番組の話。

笑い合う時間は、
病室を少しだけ学校へ変えてくれた。

ある日。
蒼はコンビニ袋を持ってやって来た。

「何それ?」

「差し入れ」

袋の中には雑誌や小説。

そして小さなひまわりのキーホルダー。

「ひまわり?」

陽菜が首を傾げる。
蒼は少し照れたように言った。

「陽菜っぽいから」

「私?」

「いつも太陽みたいに笑うから」

その言葉に陽菜は何も言えなかった。
胸がいっぱいだった。

夜。

病室で一人になった時。
ひまわりのキーホルダーを握り締める。

涙がこぼれた。

嬉しかった。
だけど怖かった。

もし。

本当に時間が残されていなかったら。

蒼を置いていくことになる。

それだけは嫌だった。