比翼連理—たとえ明日が来なくても、あなたを愛したことだけは消えない—

だが、その日の夕方。

運命は静かに動き始める。

蒼は駅前で友人と別れた後、
偶然病院の前を通った。
何気なく歩いていた。
本当に偶然だった。

その時。

病院の正面玄関から出てくる人影が見えた。

見慣れた後ろ姿。
長い黒髪。
白いワンピース。

陽菜だった。

蒼は立ち止まる。

隣には父親らしき男性。
二人とも表情が暗い。
陽菜は下を向いていた。
笑っていない。
学校で見せる顔とは全く違う。
蒼は咄嗟に物陰へ隠れた。

なぜだろう。
呼び止められなかった。
ただ胸がざわついた。

その夜。

蒼は眠れなかった。
陽菜が病院から出てきた。
それだけならいい。
家族の付き添いかもしれない。
だが、あの表情が頭から離れなかった。
何かを隠している顔。
泣きそうな顔。

翌日。

学校。

陽菜はいつも通り笑っていた。

「おはよう!」

明るい声。
いつもの笑顔。

けれど蒼は気付いてしまった。
少し無理をしていることに。

顔色が悪い。
時々苦しそうに息をしている。
以前なら見逃していた。

でも今は違う。
好きだから分かる。

放課後。

帰り道。

蒼は意を決して尋ねた。

「昨日どこ行ってた?」

陽菜の肩が僅かに震える。

「え?」

「病院」

その瞬間。
陽菜の表情が固まった。

沈黙。
風だけが吹く。
夕焼けが二人を染めていた。

「見たんだ」

陽菜が小さく言う。
蒼は頷く。

「何かあるのか」

返事はない。

「教えてくれ」

それでも陽菜は俯いたまま。

「ごめん」

その一言だった。

蒼は苦しくなる。
知りたい。
力になりたい。

恋人なのに。
なぜ話してくれないのか。

「俺じゃ頼りない?」

思わず言ってしまう。
陽菜が顔を上げた。

「違う!」

涙声だった。

「そんなことない!」

初めて見る取り乱した姿。
蒼は言葉を失う。

陽菜の目から涙が溢れる。
ぽろぽろと落ちていく。

「話したら……」

声が震える。

「話したら蒼が傷つくから」

蒼は首を振った。

「傷ついてもいい」

「よくない!」

陽菜は叫んだ。

そして、

ついに言ってしまう。

隠し続けた真実を。