比翼連理—たとえ明日が来なくても、あなたを愛したことだけは消えない—

恋人になってからの毎日は、陽菜にとって夢のようだった。

朝は教室で「おはよう」と笑い合い、
昼休みには一緒に弁当を食べ、
放課後は並んで帰る。

それだけなのに幸せだった。

ずっと続けばいいと思った。

けれど――。

運命は、そんな願いを許してはくれなかった。

八月の終わり。

夏休みも残りわずかとなった頃。
陽菜は病院の診察室にいた。

担当医は静かにカルテを閉じる。
表情が重い。
その顔を見ただけで分かった。
良い話ではない。

「検査結果ですが……」

医師は言葉を選ぶように続けた。

「病状が進行しています。」

陽菜は黙って聞いていた。

驚かなかった。
薄々気付いていたから。
最近は少し歩くだけでも息が切れる。
夜中に胸の痛みで目が覚めることも増えた。
身体は正直だった。

「手術は……」

震える声で尋ねる。

医師はゆっくり首を横に振った。

「かなり難しい状況です。」

診察室が静まり返る。

陽菜は唇を噛んだ。
泣きそうだった。
でも泣かなかった。

医師が続ける。

「今は無理をしないことです。」

無理をしない。
簡単に言うけれど。
残された時間が少ないなら、むしろ全部やりたい。

好きな人と笑いたい。
恋をしたい。
未来を夢見たい。
普通の高校生でいたい。
そう思った。

帰り道。

病院を出た陽菜は空を見上げた。
真っ青な空だった。
こんなに綺麗なのに、
自分だけ時間が止まっている気がした。

その時。
ふいに携帯が鳴る。
蒼からだった。

『今何してる?』

短いメッセージ。
陽菜は思わず笑う。

『買い物』

嘘だった。

すぐに返信が来る。

『そっか』

『会いたい』

その一言に胸が締め付けられる。

陽菜は携帯を握りしめた。

自分も会いたかった。
誰よりも。