君のためのファンファーレ

「立花……蓮太郎……?」

昼休み、廊下側にある自分の席に座ってご飯を食べていると、同じクラスで幼なじみ、かつ吹奏楽部の速水君が開いていた雑誌の一ページに目が留まった。

「理央君、知ってるの?」
「……多分?」
「多分?」

知ってる、けど正確に言うと、昨日知った。
雑誌の見開きを使って特集ページを組まれていた立花蓮太郎は、昨日、部室にやって来た男子生徒だった。
だった……、多分。
うん、きっと、そう……だと思う?

「『期待の新星! 一年生ランニングバック! 立花蓮太郎の速さの秘密!』だって。うちのアメフト部って強いけど、こんなすごい選手をスカウトしたんだね」
「へー……」
「どうしたの?」

俺は、速水君から雑誌を受け取ると、そこに写っている立花蓮太郎の写真をまじまじと見つめる。
本当に、昨日と同じ男の子なの?

「この学校に、立花蓮太郎って二人いるの?」
「同姓同名はいないと思うけど」
「そうだよね」

ヘルメットの間から覗く鋭い眼差しは、驚くほど真剣だった。
その姿が、どう頑張っても昨日、部室で「好きです!」なんて叫んでいた大型犬のように人懐っこい男子生徒と同一人物には見えなかった。

「えーっと……『立花蓮太郎、十六歳。高校一年生ですでに百七十八センチ、体重八十キロの恵まれた体格を持つ期待のランニングバック。四十ヤード走は、四・五八秒で、高校一年生最速の速さを持つ!』なんだって。すごいね」

隣で一緒に雑誌を覗き込みながら、速水君が雑誌に書かれている内容を読み上げる。

「四十ヤードって?」
「たしか、三十六メートルくらいだった気がするよ」
「三十六・五八メートルですよ!」
「へー」
「……ん?」

俺達以外の声が聞こえてきた気がする。

「わっ!? た、立花くん!」
「え?」

振り返ると、ニコニコと効果音が付きそうなくらいの笑顔で廊下側の窓からこちらを見ている大型犬こと、立花蓮太郎がいた。

「理央先輩、こんにちは!」
「こんにちは」
「り、理央君、知り合いなんじゃん!」
「た、多分……?」

ふわっとしたくせ毛で柔らかい金髪に近い髪の毛、少し青みがかった瞳、がっしりとした体格、そしてなによりも声がデカイ立花がクラスに現れた瞬間、クラスメイト達が騒ぎ出した。

「え、あれって立花じゃね?」
「あのアメフトの!」
「イケメンじゃん」
「かっこいいー!」

周りのざわめきを聞いて、立花の人気っぷりに驚いた。
騒がれている張本人は、まったく気にしていないといった様子で「理央先輩、俺、立花蓮太郎です!」と自己紹介をした。

「うん、知ってるよ」
「本当ですか!?」
「だって、ここに名前書いてあるし」

そう言って、俺は立花が写っている雑誌を指さした。俺がそう言うと、嬉しそうに輝いていた表情が、一瞬固まる。

「そ、そうですか……」

俺の答えを聞いた立花は、ガックシといった効果音が聞こえてくるんじゃないかというくらい分かりやすく顔を伏せた。
どうした。

「それで、どうしたの?」
「あ、はい! 俺、昨日は一方的に言いたいことだけ言って、名前も名乗らず練習に戻っちゃったんで、ちゃんとあいさつしに来ました!」
「律儀だね」

 まるで、褒めてくれと言わんばかりの笑顔に、思わず家で飼っているゴールデンレトリバーのロンを思い出す。
立花のお尻に尻尾ついてたりする?

「……ロン?」
「……? 蓮です!」
「……いや、なんでもない」

俺は首を振ると、雑誌を見せながら「これ、本当にお前なの?」と聞く。

「正真正銘、どこからどう見ても俺ですね!」
「二重人格だったりする? 双子の兄弟がいるとか?」
「しないし、いませんね!」
「……」

俺は雑誌の中の立花と、目の前でニコニコとしている立花の顔を行ったり来たりする。

「詐欺だろ?」

俺の言葉に立花は「どっちも、正真正銘の俺ですよ!」と言って笑った。

「おーい! 蓮太郎!」

そこに、立花の友達が現れて、立花の横に並んだ。
こっちもデカいな。

「うお! 理央先輩じゃん」
「こんにちは」
「なんだよ蓮太郎ー! マッハでメシ食ってどこに行ったのかと思ったら、やっぱり理央先輩かよ!」

そう言って友達は立花の背中をバシバシ叩く。
というか、君は誰?

「こいつ昨日からずーっと『吹奏楽部のトランペットを吹いてる美人な理央先輩って誰!?』って、理央先輩の話ばっかだったしな!」
「ちょっと! そういうことバラさないでよ!」

立花は少し焦った様子で友達君の口をふさごうとしていた。

 俺は「そういえば、どうして立花は俺のクラスが分かったの?」と聞く。

「え、っとー……」
「理央先輩も校内で有名ですからね! 吹奏楽部でトランペットを吹く美人な先輩っていったら、理央先輩しかいないよー!」

恥ずかしそうにして答えない立花の代わりに友達が答えてくれた。

「そうなの?」
「理央君、周りに関心なさすぎだよ」

失礼な。
音楽が好きすぎるだけだよ。

「そろそろチャイム鳴るぞ?」

友達君がそう言うと「あ、やばい!」と立花が時計を見る。

「理央先輩、ありがとうございました!」
「はいはい」
「それじゃあ、また!」
「じゃあねー! 理央先輩!」

俺は手を振りながら二人を見送った。
相変わらず、嵐のようなヤツだったな。

「すごい迫力だったね」
「だね」
「また来るんだね」
「……ん?」

え、あいつ『また』って言ってた? なんで?