君のためのファンファーレ

「今日で俺達は引退だけど、理央が部長ならきっと大丈夫」
「頑張って連覇目指せよ!」

そんな言葉を残して、三年生が部活を引退したのはつい先月のことだった。

一年生が入部して新体制となった吹奏楽部。
俺達は、夏のコンクールに向けて練習を始めていた。
夏コンが終われば、俺達は引退。
俺は、いつものように部室に残ってトランペットを吹いている。
尊敬できる三年生が抜けて、初めての夏コンがやってくる。

こんな演奏じゃあ去年の足元にも及ばない……。

先輩達が残してくれた”名門”という肩書。
部長に選ばれたプレッシャーと、揃わない演奏。
色々な重圧で押しつぶされそうになっていた。

「……はあ」

俺はトランペットから唇を離すと、小さくため息をついた。

どうすればいいのだろう――。

うまくいかない毎日に、俺の肩にはずっと力が入っていた。
トランペットを楽器ケースに戻していると、廊下から大きな足音が聞こえてくる。
先生に注意されてもしらないよ、なんて思いながら帰る支度をしていると、突然、大きな音を立てて開いた部室の扉。

「あ、あの……!」

中に入って来たのは、アメリカンフットボール部の練習着を泥だらけにした見慣れない男子生徒だった。

「……ここは吹奏楽部の部室だけど?」
「あ、はい! 知ってます!」

アメフト部はまだ練習中のはず。
多分、一年生のはずの彼が練習を抜けてこんなところで油を売っていていいのだろうか。

「さ、さっき……外周で走ってて……戻って来た時に聴こえてきたんです」
「えっと……なにを?」
「先輩の、トランペットの音です!」

彼はそう言うと、まっすぐ俺のところまで歩いてくる。
泥と土のにおいをまとった彼のあまりのガタイの良さに、思わず一歩後ろに下がった。

「めちゃくちゃ好きです!!」
「あ、ありがとう……」

トランペットの音を褒めてもらえるのは純粋に嬉しい。
お礼を言って「でも、君は練習中なんじゃ……」と指摘しようとした瞬間、彼は俺の両手を包み込んだ。
スポーツマンらしい大きな手が、繊細なものを扱うような絶妙な力加減で俺の手を握る。

「……え?」
「トランペットも好きですけど、先輩も好きです!!」

キラキラとした真っ直ぐな感情に、俺の心臓がドクン、と跳ねた。

呆気に取られている俺の反応なんて気にもしていない様子の彼は「じゃあ、部活に戻ります!」と手を離したあと、一礼をして部室から走って行く。

「な、なんだったんだ……」

名乗ることもなく嵐のように去って行った彼のことを思い出す。
ただ、いつの間にか肩の力が抜けていた。