最初はパー。指折り数えて、君を待つ。

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。
 なんで分かるかって?
 数えているからさ、夢のやつが。
 ん、どういことかって?
 いいのか、これは、夢の話だぜ。
 他人の夢の話、なんて。
 どうでもいい話の代名詞だろ?
 まあ、いいさ、それでも、聞きたいなら。
 とりあえず、まずは、最初に見たときの話だ。

 手だ。
 手があった。
 パーと開いた、手が二つ。
 真っ白い空間なのに、真っ黒な空間で。
 床は見えないのに、俺は立っていた。
 足は見えないのに、俺は立っていた。
 支離滅裂? 夢の話なんだから当然さ。
 でだ、手だ。
 俺の目の前に、でっけえ、手があった。
 ガソスタで、オーライオーライ、はい、ストップ。
 のとき。みてーに両手が浮かんでんだ。
 でけー両手だなー、って、思ってたら、目が覚めた。

 次にその夢を見たときにはよー。
 親指が折れていた。
 いや、骨折してたってんじゃねーよ。
 俺の親指が折れてたんでもねーよ。
 夢の中の、手の話だよ。
 こう、数かぞえるときによ、いーちって、指折んだろ。
 んでよ、そのとき気がついたんだ。
 両手の外側から折れているって。
 いや、さっき、立ち入り禁止だの、オーライストップだの、言っておいて、あれなんだけど、俺から見てさ、開いた両手の、一番右の親指が折れてたんだ。
 お前ちょっと、手をこう、パーにしてみろよ。
 俺に見せんじゃねえよ。
 あっ、違うわ。俺がお前にパーすりゃいんだ。
 見ろよ、俺の両手。どうよ。
 ばっか、にびーなー。
 親指。
 真ん中だろ。両手の真ん中に、親指があんだろ。
 で小指。一番右の指は、小指だろ。
 んなっ、でさっ、お前、自分の手をこう、パーにすんだろ。
 で、手のひらを自分の方に向けてみ。
 親指、外側だろっ?
 一番右の指は親指で、その親指が、折れてたんだ。
 こう、いーちって、1数えるときに折るみたいに。
 そう、んでさっ、あー、こりゃ、数かぞえてんだなって分かったんだ。
 思ったんじゃない、分かったんだ。
 夢なんて、そんなもんだろ。
 なんでか分かるんだよ。
 んで、俺は、夢の中の、その誰かの、でっけー手を。右手の親指だけが折れている両手を、ただ、ぼーっと見てたら、目が覚めたんだ。

 んでさ、次っ。次の晩。
 今度はさ、右手のよー、親指の隣の人差し指が折れてんの。
 次見たときは、中指。んで、薬指。
 小指折れたら、今度は飛んで、左手の親指から、人差し指、中指って。
 夢見るたんびに、折ってある指の数が増えてくんの。
 んでさ、今さ、左手の薬指まで、折れてんの。
 ほら、親指人差し指中指。
 薬指、小指、飛んで左の親指。
 左の人差し指、中指、薬指。
 今度は、数えて、折るぞ。
 いち、にー、さん。
 しー、ごー、ろー。
 ひち、はち、くー。
 9だろ。
 あの夢を見たのは、これで9回目だった。
 って、分かるんだよ。
 えっ、何がおかしいんだよ。
 いち、にー、さん。
 しー、ごー、ろー。
 ひち、はち、くー。
 9だろ。
 えっ、最初は、パー?
 グーだろーよー。
 あん、誰が、パーだ、こら。
 落ち着け? なんだよ。
 パー。親指人差し指中指。
 薬指、小指、飛んで左の親指。
 左の人差し指、中指、薬指。
 パー。親指人差し指中指。
 薬指、小指、飛んで左の親。
 左の人、中、薬。
 ……数えると、
 いち、にー、さん、しー。
 ごー、ろー、ひち。
 はち、くー、じゅう。
 あれ? 10だ。
 ん? じゃあ、
 あの夢を見たのは、これで9回目だった。
 ってのは、数え違いか?