〇神社・参道(夜)
真道はあずさを抱きかかえながら、
ゆっくりと石段を降りていた。
あずさの呼吸は落ち着きつつある。
けれど、胸の奥のざわつきだけはまだ消えていない。
あずさ「……すみません……
また……迷惑かけて……」
あずさの声は弱い。
真道「気にするな。
……今日は、特に危なかった」
あずさ「……危なかった……?」
真道「……いや。
今は考えなくていい」
(言えない。
“鏡に選ばれた存在”だからこそ、
影があずさに反応したなんて。)
真道「……ちゃんと掴まっていろ」
あずさ「……はい……」
真道が触れた瞬間──
あずさの胸の奥がふっと熱くなる。
あずさ(……先輩……
触れられると……落ち着く……
でも……どうして……)
真道は気づかないふりをした。
けれど、あずさの体温が“鏡の気配”と同じ方向に揺れていることに気づいていた。
〇住宅街の手前
街灯の下に出た瞬間、
あずさの足取りが少しだけ軽くなる。
真道(……やっぱり……
神社から離れるほど……影の反応が弱まる……
“選ばれた”証拠だ……)
あずさ「先輩……?」
真道「……いや。
もうすぐ家だ」
〇あずさの家の前
玄関の灯りがつく。
その光に照らされて、
あずさの表情が少し柔らかくなる。
あずさ「今日は……本当に……ありがとうございました……」
真道「……無事に帰れたなら、それでいい」
あずさ「先輩が……来てくれて……
本当に……よかったです……」
その言葉に、
真道の胸がわずかに締めつけられる。
「今日はもう休め。ゆっくりな」
あずさが家に入るまで見届けたあと、真道は静かに息を吐いた。
(……無事に送った。
でも……あの揺れ方……
影が“あれだけ”で終わるはずがない……)
胸の奥に残るざわつきが、
真道を再び神社へ向かわせた。
夜の石段は静かだった。
だが、静けさの奥に“濁り”がある。
(……やっぱり……
影の気配が……残ってる……)
石段を上りながら、
胸の奥がじわりと冷えていく。
〇祠の前
祠の前に立った瞬間、
真道の呼吸が止まった。
白八咫鏡が──
夕暮れよりも深く揺れている。
(……やはり異常だ……)
真道は鏡の前に立ち、
ゆっくりと息を吸った。
(……見る……
俺が……確かめる……)
鏡の奥深くへ“視線を伸ばす”。
視界が深く沈むように開いた。
《見通しの目》が発動する。
──白八咫鏡の裏側。
《見通しの目》が捉えたもの。
黒い影が渦を巻いている。
だが、いつもの“ただの影”ではなかった。
影の中心が、
赤黒く脈打っている。
そして──
輪郭が生まれ始めていた。
頭の“形”。
肩の“線”。
腕の“長さ”。
どれも歪んでいる。
人のような鬼のような……
だが──
影が“形になりつつある”のは明らかだった。
真道の喉がひとりでに鳴る。
影の密度が上がり、
黒さが深く、重く、濁っていく。
影の奥に、鬼の気配が混じり始めている。
まだ“妖鬼そのもの”ではない。
しかし、影の質が変わり始めている。
真道
(……妖鬼に…………変質してる?……
このまま進めば……妖鬼になる……)
影は鏡の内側で揺れ、
あずさの気配に反応するように震えた。
真道
(……白杜家の血……
やっぱり……影が反応したのは……)
視界が戻る。
真道
(……影は……妖鬼に変わりかけてる……
しかも……“形になりつつある”……
まだ危険じゃないが……
でも……放っておけば……)
胸の奥に冷たいものが落ちた。
祠の奥で、白八咫鏡がかすかに鳴った。
カラン……。
──それは、
“遠い前触れ”のような音だった。
真道は鏡から目を離し、
静かに踵を返した。
(……あずさの様子を見に戻る……
今は……それが先だ……)
夜の参道を下りていく背中に、
鏡の揺れがひっそりとついてくる。
真道はあずさを抱きかかえながら、
ゆっくりと石段を降りていた。
あずさの呼吸は落ち着きつつある。
けれど、胸の奥のざわつきだけはまだ消えていない。
あずさ「……すみません……
また……迷惑かけて……」
あずさの声は弱い。
真道「気にするな。
……今日は、特に危なかった」
あずさ「……危なかった……?」
真道「……いや。
今は考えなくていい」
(言えない。
“鏡に選ばれた存在”だからこそ、
影があずさに反応したなんて。)
真道「……ちゃんと掴まっていろ」
あずさ「……はい……」
真道が触れた瞬間──
あずさの胸の奥がふっと熱くなる。
あずさ(……先輩……
触れられると……落ち着く……
でも……どうして……)
真道は気づかないふりをした。
けれど、あずさの体温が“鏡の気配”と同じ方向に揺れていることに気づいていた。
〇住宅街の手前
街灯の下に出た瞬間、
あずさの足取りが少しだけ軽くなる。
真道(……やっぱり……
神社から離れるほど……影の反応が弱まる……
“選ばれた”証拠だ……)
あずさ「先輩……?」
真道「……いや。
もうすぐ家だ」
〇あずさの家の前
玄関の灯りがつく。
その光に照らされて、
あずさの表情が少し柔らかくなる。
あずさ「今日は……本当に……ありがとうございました……」
真道「……無事に帰れたなら、それでいい」
あずさ「先輩が……来てくれて……
本当に……よかったです……」
その言葉に、
真道の胸がわずかに締めつけられる。
「今日はもう休め。ゆっくりな」
あずさが家に入るまで見届けたあと、真道は静かに息を吐いた。
(……無事に送った。
でも……あの揺れ方……
影が“あれだけ”で終わるはずがない……)
胸の奥に残るざわつきが、
真道を再び神社へ向かわせた。
夜の石段は静かだった。
だが、静けさの奥に“濁り”がある。
(……やっぱり……
影の気配が……残ってる……)
石段を上りながら、
胸の奥がじわりと冷えていく。
〇祠の前
祠の前に立った瞬間、
真道の呼吸が止まった。
白八咫鏡が──
夕暮れよりも深く揺れている。
(……やはり異常だ……)
真道は鏡の前に立ち、
ゆっくりと息を吸った。
(……見る……
俺が……確かめる……)
鏡の奥深くへ“視線を伸ばす”。
視界が深く沈むように開いた。
《見通しの目》が発動する。
──白八咫鏡の裏側。
《見通しの目》が捉えたもの。
黒い影が渦を巻いている。
だが、いつもの“ただの影”ではなかった。
影の中心が、
赤黒く脈打っている。
そして──
輪郭が生まれ始めていた。
頭の“形”。
肩の“線”。
腕の“長さ”。
どれも歪んでいる。
人のような鬼のような……
だが──
影が“形になりつつある”のは明らかだった。
真道の喉がひとりでに鳴る。
影の密度が上がり、
黒さが深く、重く、濁っていく。
影の奥に、鬼の気配が混じり始めている。
まだ“妖鬼そのもの”ではない。
しかし、影の質が変わり始めている。
真道
(……妖鬼に…………変質してる?……
このまま進めば……妖鬼になる……)
影は鏡の内側で揺れ、
あずさの気配に反応するように震えた。
真道
(……白杜家の血……
やっぱり……影が反応したのは……)
視界が戻る。
真道
(……影は……妖鬼に変わりかけてる……
しかも……“形になりつつある”……
まだ危険じゃないが……
でも……放っておけば……)
胸の奥に冷たいものが落ちた。
祠の奥で、白八咫鏡がかすかに鳴った。
カラン……。
──それは、
“遠い前触れ”のような音だった。
真道は鏡から目を離し、
静かに踵を返した。
(……あずさの様子を見に戻る……
今は……それが先だ……)
夜の参道を下りていく背中に、
鏡の揺れがひっそりとついてくる。
