君と僕の秘密~永久の鏡~

〇夕暮れの神社
昨日と同じ、小さな境内。

あずさ、鳥居をくぐる。

あずさ「……今日も来ちゃった」

静かで、少し冷たい空気。

賽銭箱の前で立ち止まる。

あずさ(……胸のざわざわ、消えるといいな)

──その瞬間、胸がぐしゃりと掴まれる。

あずさ「……っ、え……?」

息が詰まる。
視界がにじむ。
涙が溢れる。

あずさ「やだ……なんで……」

悲しみ。
苦しさ。
寂しさ。
どうしようもない喪失感。

あずさ(……これ、私の……?)

違う。
胸の奥に、誰かの叫びが流れ込む。

“どうして”
“置いていかないで”
“ここにいるのに”

あずさ「……っ、やだ……やだ……」

賽銭箱に手をついて、必死に立つ。

──背後から声。

真道「……それ、あずさの感情じゃない」

あずさ「……真道、先輩……?」

夕暮れの光の中、真道が立っている。
目だけが鋭く、どこか遠くを見ている。

あずさ「せんぱい……私、なんか……変で……」

涙が止まらない。

真道、あずさの背後へ視線を移す。
祠の奥。
薄暗い影の溜まり。

真道「……やっぱり、ここか」

その声はあずさには届かない。

あずさ「先輩……?」

真道、一歩近づく。

真道「あずさ、深呼吸して。……ゆっくり」

あずさ、息を吸って吐く。
それでも涙は止まらない。

あずさ「ごめんなさい……なんでか分からないのに……」

真道「謝らなくていい。……それはあずさのせいじゃない」

あずさ「でも……」

真道、あずさの胸のあたりを見る。
何かの“流れ”を追うように。

真道「さっきからあずさに流れ込んでるのは、ここに残ってる“誰かの感情”だ」

あずさ「……誰かの、感情……?」

真道「そう。あずさのものじゃない」

あずさ(……私のせいじゃ、ない?)

胸の締めつけが少し緩む。

あずさ「……本当に、私のじゃないんですか」

真道「あずさは、ただ“飲まれやすい”だけだ」

真道、祠の奥をもう一度見る。
そこには“黒いもの”が揺れている。

真道「……ここ、しばらく放っておかれてるな」

あずさには意味が分からない。
ただ、真道の横顔がいつもより大人びて見える。

あずさ「先輩……怖く、ないんですか」

真道、目を細める。

真道「怖いよ」

あずさ「え……」

真道「でも、あずさが一人でここにいる方が、もっと怖い」

あずさ「……先輩」

真道、あずさの肩に手を置く。

真道「今日は、もう帰ろう。ここ、長くいる場所じゃない」

あずさ「……はい」

ふらつきながら歩き出す。

鳥居をくぐる前、
ふと振り返る。

──鈴がひとりでに揺れた。

カラン……。

あずさ「……今の、風?」

真道は答えない。
祠を一瞬だけ睨む。

真道「……やっぱり、ここに“残ってる”」

あずさ「先輩?」

真道「なんでもない。……送っていくよ」

二人、並んで歩き出す。
夕暮れの空は夜に沈みかけていた。

あずさ(……“それ、あずさの感情じゃない”)

胸の奥で、その言葉が静かに響いていた。