〇参道・帰り道
石段を下りるたび、
夜気がひんやりと肌を撫でた。
あずさは真道の腕に寄りかかりながら歩いていた。
意識は戻っているものの、
まだ足元に力が入らない。
真道は歩幅を合わせ、
時折あずさの様子を横目で確かめる。
真道「……もう少しで着く。
無理しないで」
あずさ「……はい……」
短い返事。
けれど、その声には
さっきまでの恐怖とは違う温度があった。
参道を抜ける風が、
二人の沈黙をそっと撫でていく。
〇あずさの家・玄関前
玄関灯が灯り、
あずさの顔を柔らかく照らした。
真道は鍵を開けるのを手伝い、
そっとドアを押し開ける。
真道「……入ろう。
座ったほうがいい」
あずさ「……すみません……」
真道「謝らなくていいよ」
〇あずさの家・玄関
靴を脱ごうとした瞬間、
あずさの身体がふらりと傾いた。
真道は反射的に支える。
真道「……ほら、やっぱり無理してる」
あずさ「……すみません……」
真道「いいって。
座ろう」
その声は、
あずさを責めるどころか、
そっと包むように優しい。
〇あずさの家・リビング
あずさはソファに腰を下ろし、
胸元を押さえたまま真道を見つめる。
真道は向かいに座り、
少しだけ息を整えてから口を開いた。
真道「……あずさ。
今日のこと……ちゃんと話しておきたい」
あずさは小さく頷く。
その瞳には、不安と覚悟が混じっていた。
真道「……あずさの体質は……“白杜の血”が関係してる」
あずさは目を瞬かせ、
祖母の言葉を思い出すように視線を落とした。
あずさ「……白杜の血?……巫女の家系だったって……
おばあちゃんから聞きましたけど……
でも……伝承だと思ってて……」
真道「……うん。
その“伝承”は……本当なんだ」
あずさはそこで、ふと顔を上げた。
その瞳には、戸惑いが浮かんでいた。
あずさ「……先輩……どうして……私の家のことまで
……知ってるんですか……?」
真道は一瞬だけ目を伏せ、
言葉を探すように息を吸った。
そして、逃げずに顔を上げる。
真道「……分かった。ちゃんと話すよ。
隠すつもりは……ない」
あずさの瞳が揺れる。
真道「白杜は……“影を封じる家”。
そして……俺の家、圓藤は……“影を祓う家”。
本来は……二つで一つの役目だった」
あずさ「……どうして……先輩が……そんなこと……」
真道「……圓藤は、代々“そういうもの”と関わってきた家だから。
白杜家のことも……全部、伝わってる」
あずさ「……封じる……祓う……
そんな……家系が……本当に……?」
真道「……ある。
昔は、二つの家系が組になって、この土地を守ってた。
でも……“影”って言われても分からないよな」
あずさは小さく頷く。
真道「影っていうのは……
“妖鬼になる前の段階”だ。
形を持たない悪意の残滓みたいなもの」
あずさ「……悪意の残滓……」
真道「そう。
あれは本来“影”のまま鏡に封じられてる。
でも……封印が揺らぐと、影が形を持ち始める。
実体化した姿が……“妖鬼”だ」
あずさは息を呑む。
真道「白杜は、その“影”を封じる家。
圓藤は、”影”と実体化した“妖鬼”を祓う家。
本来は……二つで一つの役目だった」
あずさ「……じゃあ……
私が憑かれやすいのは……」
真道「白杜の血が“影を引き寄せ、封じる器”だから。
”影”は器に触れようとする。
だから……あずさは影に狙われやすい」
あずさ「……封じる器……?」
真道「”影”を閉じ込める“器”としての血。
だから……触れようとするものがある」
真道は続ける。
真道「……あずさ。祠で倒れた時……
鏡の中の“妖鬼”が、あずさに反応して動き出してた」
あずさは息を呑む。
真道「……理由は分かってる。
あずさの血に……妖鬼が気づいたんだ」
あずさ「……妖鬼が……?」
真道「白八咫鏡は“巫女の血”に反応する。
あずさが近づいたから……封印が揺れた。
鏡の中にいた”妖鬼”が……“気づいた”んだよ。
最後の巫女の血に……」
あずさの指先が震える。
あずさ「……私……が……?」
真道「……あずさのせいじゃない。
血が……そういうふうにできてるだけだ」
あずさの瞳が揺れる。
あずさ「……普通じゃ……ないんですね……私……」
真道は首を横に振った。
真道「違う。
普通とかじゃない。
あずさは……あずさだよ」
その声は、
そっと包むように優しい。
あずさの瞳が潤む。
あずさ「……先輩……私……怖かったです……
でも……先輩がいてくれて……“もう大丈夫だ”って言ってくれて……
それだけで……救われました……」
真道は少しだけ目を伏せ、静かに息を吐いた。
真道「……俺も……圓藤のこの力が怖かったよ。
でも……あずさを守れるなら……
この力も……悪くないって思えた」
あずさは静かに息を吸った。
真道「……大丈夫だ。あずさは……俺が守る」
真道はそっとあずさの手を握った。
石段を下りるたび、
夜気がひんやりと肌を撫でた。
あずさは真道の腕に寄りかかりながら歩いていた。
意識は戻っているものの、
まだ足元に力が入らない。
真道は歩幅を合わせ、
時折あずさの様子を横目で確かめる。
真道「……もう少しで着く。
無理しないで」
あずさ「……はい……」
短い返事。
けれど、その声には
さっきまでの恐怖とは違う温度があった。
参道を抜ける風が、
二人の沈黙をそっと撫でていく。
〇あずさの家・玄関前
玄関灯が灯り、
あずさの顔を柔らかく照らした。
真道は鍵を開けるのを手伝い、
そっとドアを押し開ける。
真道「……入ろう。
座ったほうがいい」
あずさ「……すみません……」
真道「謝らなくていいよ」
〇あずさの家・玄関
靴を脱ごうとした瞬間、
あずさの身体がふらりと傾いた。
真道は反射的に支える。
真道「……ほら、やっぱり無理してる」
あずさ「……すみません……」
真道「いいって。
座ろう」
その声は、
あずさを責めるどころか、
そっと包むように優しい。
〇あずさの家・リビング
あずさはソファに腰を下ろし、
胸元を押さえたまま真道を見つめる。
真道は向かいに座り、
少しだけ息を整えてから口を開いた。
真道「……あずさ。
今日のこと……ちゃんと話しておきたい」
あずさは小さく頷く。
その瞳には、不安と覚悟が混じっていた。
真道「……あずさの体質は……“白杜の血”が関係してる」
あずさは目を瞬かせ、
祖母の言葉を思い出すように視線を落とした。
あずさ「……白杜の血?……巫女の家系だったって……
おばあちゃんから聞きましたけど……
でも……伝承だと思ってて……」
真道「……うん。
その“伝承”は……本当なんだ」
あずさはそこで、ふと顔を上げた。
その瞳には、戸惑いが浮かんでいた。
あずさ「……先輩……どうして……私の家のことまで
……知ってるんですか……?」
真道は一瞬だけ目を伏せ、
言葉を探すように息を吸った。
そして、逃げずに顔を上げる。
真道「……分かった。ちゃんと話すよ。
隠すつもりは……ない」
あずさの瞳が揺れる。
真道「白杜は……“影を封じる家”。
そして……俺の家、圓藤は……“影を祓う家”。
本来は……二つで一つの役目だった」
あずさ「……どうして……先輩が……そんなこと……」
真道「……圓藤は、代々“そういうもの”と関わってきた家だから。
白杜家のことも……全部、伝わってる」
あずさ「……封じる……祓う……
そんな……家系が……本当に……?」
真道「……ある。
昔は、二つの家系が組になって、この土地を守ってた。
でも……“影”って言われても分からないよな」
あずさは小さく頷く。
真道「影っていうのは……
“妖鬼になる前の段階”だ。
形を持たない悪意の残滓みたいなもの」
あずさ「……悪意の残滓……」
真道「そう。
あれは本来“影”のまま鏡に封じられてる。
でも……封印が揺らぐと、影が形を持ち始める。
実体化した姿が……“妖鬼”だ」
あずさは息を呑む。
真道「白杜は、その“影”を封じる家。
圓藤は、”影”と実体化した“妖鬼”を祓う家。
本来は……二つで一つの役目だった」
あずさ「……じゃあ……
私が憑かれやすいのは……」
真道「白杜の血が“影を引き寄せ、封じる器”だから。
”影”は器に触れようとする。
だから……あずさは影に狙われやすい」
あずさ「……封じる器……?」
真道「”影”を閉じ込める“器”としての血。
だから……触れようとするものがある」
真道は続ける。
真道「……あずさ。祠で倒れた時……
鏡の中の“妖鬼”が、あずさに反応して動き出してた」
あずさは息を呑む。
真道「……理由は分かってる。
あずさの血に……妖鬼が気づいたんだ」
あずさ「……妖鬼が……?」
真道「白八咫鏡は“巫女の血”に反応する。
あずさが近づいたから……封印が揺れた。
鏡の中にいた”妖鬼”が……“気づいた”んだよ。
最後の巫女の血に……」
あずさの指先が震える。
あずさ「……私……が……?」
真道「……あずさのせいじゃない。
血が……そういうふうにできてるだけだ」
あずさの瞳が揺れる。
あずさ「……普通じゃ……ないんですね……私……」
真道は首を横に振った。
真道「違う。
普通とかじゃない。
あずさは……あずさだよ」
その声は、
そっと包むように優しい。
あずさの瞳が潤む。
あずさ「……先輩……私……怖かったです……
でも……先輩がいてくれて……“もう大丈夫だ”って言ってくれて……
それだけで……救われました……」
真道は少しだけ目を伏せ、静かに息を吐いた。
真道「……俺も……圓藤のこの力が怖かったよ。
でも……あずさを守れるなら……
この力も……悪くないって思えた」
あずさは静かに息を吸った。
真道「……大丈夫だ。あずさは……俺が守る」
真道はそっとあずさの手を握った。
