君と僕の秘密~永久の鏡~

大学二年の春。

新入生歓迎期間で、キャンパスは朝から騒がしかった。



勧誘の声、笑い声。

初対面同士のぎこちない会話。

その喧騒の中を歩いていたときだった。



ふと、一人の新入生が目に入った。

スマホを片手に辺りを見回している。

何度も画面と校舎を見比べているが、どう見ても迷っていた。



真道は通り過ぎる。

そのつもりだった。

だが数歩進んだところで足を止めた。

放っておけなかった。



真道「違う」



声をかけると、少女が驚いたように振り向く。

大きな瞳。少し困った顔。



あずさ「あの……?」



真道「あっちじゃない」



目的の講義棟の方向を指差す。

すると少女はぱっと表情を明るくした。



あずさ「あ、ありがとうございます!」



まるで花が咲いたみたいな笑顔だった。



真道は小さく頷くだけで、その場を離れた。

ただの道案内。

それだけのはずだった、そのときは。



数日後。

図書館で参考書を探していると、見覚えのある後ろ姿が視界に入った。

あの日の新入生だった。



本棚の前で首を傾げている。

何か探しているらしい。



真道は少し考えたあと、目的の本を棚から抜き取った。

そして無言で差し出す。



真道「これ」



少女が顔を上げる。



あずさ「あっ!」



やはり覚えていたらしい。

あずさは少し嬉しそうな顔をした。

それを見ていると、

なぜだか胸の奥が静かに温かくなる。



それからも何度か見かけた。

キャンパスの中で。

講義棟の前で、学食で。



別に探しているわけじゃない。

なのに、不思議と目に入る。

そして目に入るたび、少し気になった。



今日も迷っていないだろうか。

困っていないだろうか。

ちゃんと大学に馴染めているだろうか。

そんなことを考える自分がいた。



気付けば当たり前になっていた。

他の後輩にはしていないことなのに。



学食で席を探しているあずさを見つけた。

周りは満席だった。

真道は無意識に隣の席の荷物をどける。



真道「ここ空いてる」



あずさが振り向いて、

そして笑った。



あずさ「ありがとうございます、真道先輩」



その笑顔を見た瞬間、

真道はようやく理解する。



どうして視界に入るのか。

どうして放っておけないのか。

どうして気付いてしまうのか。



きっと、ずっと前から……

あの日、迷子になっていたあずさを見つけた日から。

俺は、この後輩に恋をしていた。