独白
進藤から体験入部の応援を頼まれて、弓道場へ行くと、1人だけ中学の青ジャージで目立つ子がいた。
何となく気にしながら、射を披露する。振り返ったあと、目が合った、と思った。顔まで見ていなかったけど、子鹿みたいな可愛らしい顔をした大きな目を持った子。
体験入部から、入部してきた彼は、最初から才能を持っていたと思う。人よりも早く素引きを卒業して巻藁に行くようになったし、いちばん早くにコーチから的前に立つことを許された。
うっとりするくらいの、ぴしゃんとした背筋と残心の美しさ。俺は気付かれないかもしれないけど、何度も彼を見ていたと思う。
何回か「部活はどう?」とか「困ってることない」とか話しかけたけど、正直俺はあまり話すのが得意ではなかった。芳しい反応は得られず、出された答えは多分俺のことを苦手そうだった。自分自身変わっていると言われることは多いから、それ自体は慣れていた。それからは、俺は遠目から彼を見ることを習慣にした。
転機が訪れたのは、去年の冬のインターハイだ。大前に吉田、中に三浦くん、落に俺が選ばれた。落は自然と前二人に目線がいく。的中しようとしまいと、全く持って揺るがないその背中に惹かれた。入部してきたときから、美しい残心だと思っていた。俺が食いるように見ていると、たまに三浦くんが首を傾げてこちらを見る。その仕草も可愛らしかった。
8位入賞争いの行射、そこで大前の吉田がかなり調子を崩したことがあった。立ち込める不穏な空気の中、それを吹き飛ばしたのは三浦くんの音だった。
確かな、重い的に的中する音。
俺は、はっとして三浦くんを見る。美しい丸い額となだらかな曲線を描く鼻、薄い唇。その大きな目はしっかりと的を見据えていて、ぞわりと鳥肌がたった。
──ああ。きみは揺るがないのか。
先輩が崩れて、射場の雰囲気も相手選手に傾く中、きみは一矢乱れない。三浦くんの強さだと思った。そして、多分俺はこの子のことを気になっている。
気付いた瞬間、なぜあんなにも彼を目で追っていたのかわかって全てが繋がった。
我ながら、恋愛はどうも上手くいかない。
自虐も込めて、うっすら笑ってしまう。横目でこちらを見た三浦くんと目が合ったような気がした。
団体戦は8位入賞にて幕を閉じた。バスが学校につき、各々が帰ろうとする中、三浦くんに声をかける。三浦くんは困ったように眉を下げている。それでも良かった。どうしても、伝えたかったから。
『ありがとう』
俺の射を、みんなの気持ちを救ってくれて。
三浦くんは困り顔で「いえ、」と謙遜をする。何に感謝されたかもわかってないような顔。
『きみの音、俺は好きだな』
自分の中では告白めいたことを言った。三浦くんはなんて言っていいのやら分からない顔をしている。数回しか絡んだことのない先輩からそのような事を言われても意味不明だろう。今はそれでいいのだと素直に思い、帰路に着いた。
三浦くんはぴんとしていて、揺るがなくて、美しくて、カラーみたいな人だと思った。
だからカラーを送ったあと、枯れたと報告をうけたときはやはり妙に素直な子だなと思った。
『2週間くらいしか切り花って持たないんですね。せっかくもらったのに』
『別に、そんなのいつだって、』
買ってあげるのに、そう言いたくなった。たかが1本の花を大事にして、枯らさないように奮闘している三浦くんを想像したら、どうにも。
『大事にしたかったんです、白石先輩』
愛おしくて、触れたい。
俺が三浦くんに手を伸ばしかけて、その手を下ろした。今触るのは適切ではない気がした。
『……また買ってあげる』
そういうのがやっとだった。
この子のことをもっと知りたいと切実に思った。
──それは今も変わらない。
進藤から体験入部の応援を頼まれて、弓道場へ行くと、1人だけ中学の青ジャージで目立つ子がいた。
何となく気にしながら、射を披露する。振り返ったあと、目が合った、と思った。顔まで見ていなかったけど、子鹿みたいな可愛らしい顔をした大きな目を持った子。
体験入部から、入部してきた彼は、最初から才能を持っていたと思う。人よりも早く素引きを卒業して巻藁に行くようになったし、いちばん早くにコーチから的前に立つことを許された。
うっとりするくらいの、ぴしゃんとした背筋と残心の美しさ。俺は気付かれないかもしれないけど、何度も彼を見ていたと思う。
何回か「部活はどう?」とか「困ってることない」とか話しかけたけど、正直俺はあまり話すのが得意ではなかった。芳しい反応は得られず、出された答えは多分俺のことを苦手そうだった。自分自身変わっていると言われることは多いから、それ自体は慣れていた。それからは、俺は遠目から彼を見ることを習慣にした。
転機が訪れたのは、去年の冬のインターハイだ。大前に吉田、中に三浦くん、落に俺が選ばれた。落は自然と前二人に目線がいく。的中しようとしまいと、全く持って揺るがないその背中に惹かれた。入部してきたときから、美しい残心だと思っていた。俺が食いるように見ていると、たまに三浦くんが首を傾げてこちらを見る。その仕草も可愛らしかった。
8位入賞争いの行射、そこで大前の吉田がかなり調子を崩したことがあった。立ち込める不穏な空気の中、それを吹き飛ばしたのは三浦くんの音だった。
確かな、重い的に的中する音。
俺は、はっとして三浦くんを見る。美しい丸い額となだらかな曲線を描く鼻、薄い唇。その大きな目はしっかりと的を見据えていて、ぞわりと鳥肌がたった。
──ああ。きみは揺るがないのか。
先輩が崩れて、射場の雰囲気も相手選手に傾く中、きみは一矢乱れない。三浦くんの強さだと思った。そして、多分俺はこの子のことを気になっている。
気付いた瞬間、なぜあんなにも彼を目で追っていたのかわかって全てが繋がった。
我ながら、恋愛はどうも上手くいかない。
自虐も込めて、うっすら笑ってしまう。横目でこちらを見た三浦くんと目が合ったような気がした。
団体戦は8位入賞にて幕を閉じた。バスが学校につき、各々が帰ろうとする中、三浦くんに声をかける。三浦くんは困ったように眉を下げている。それでも良かった。どうしても、伝えたかったから。
『ありがとう』
俺の射を、みんなの気持ちを救ってくれて。
三浦くんは困り顔で「いえ、」と謙遜をする。何に感謝されたかもわかってないような顔。
『きみの音、俺は好きだな』
自分の中では告白めいたことを言った。三浦くんはなんて言っていいのやら分からない顔をしている。数回しか絡んだことのない先輩からそのような事を言われても意味不明だろう。今はそれでいいのだと素直に思い、帰路に着いた。
三浦くんはぴんとしていて、揺るがなくて、美しくて、カラーみたいな人だと思った。
だからカラーを送ったあと、枯れたと報告をうけたときはやはり妙に素直な子だなと思った。
『2週間くらいしか切り花って持たないんですね。せっかくもらったのに』
『別に、そんなのいつだって、』
買ってあげるのに、そう言いたくなった。たかが1本の花を大事にして、枯らさないように奮闘している三浦くんを想像したら、どうにも。
『大事にしたかったんです、白石先輩』
愛おしくて、触れたい。
俺が三浦くんに手を伸ばしかけて、その手を下ろした。今触るのは適切ではない気がした。
『……また買ってあげる』
そういうのがやっとだった。
この子のことをもっと知りたいと切実に思った。
──それは今も変わらない。
