君の瞳に映る未来   ー姫と忍びの恋絵巻ー

「ん‥」

身じろぎし、天姫が重い瞼を開く。
外の薄暗さから、まだ夜明けくらいだろうか。

隣では鞘丸が静かに寝息を立てている。
寝顔は何だかいつも以上に幼く見えて、まるで少年の様だ。

(可愛い‥)

天姫は思わず微笑む。

しかし、行為の最中の顔付きはしっかり男だったのを思い出してしまう。だんだんと恥ずかしくなって来てしまい天姫は鞘丸から目を逸らした。

暫くしてもう一度鞘丸に視線を戻す。相変わらず鞘丸はよく寝ている。

‥‥‥

寝ている‥?忍びの鞘丸が?こんな無防備に?


天姫はゆっくり体を起こすと、何も纏っていない体を布団で隠しながら鞘丸から少し距離を取る。
そして声を掛けた。

「‥起きていますよね‥鞘丸」

一瞬間があった後、鞘丸の瞳がぱちりと開かれた。

「バレたか」

やっぱり起きていた。

「もう、寝たふりなんて人が悪いですよ」

「悪い悪い。百面相してる天姫が可愛くてさ。一体何で顔を赤らめてたんだ?」

にやにやしながら問い掛けられる。
絶対分かって言ってる‥!!
恥ずかしさで天姫はそっぽを向く。

「し、知りません。忍びの鞘丸が、無防備に人前でぐっすり眠るなんておかしいと思っただけです」

鞘丸はきょとんとした顔をする

「そりゃ、天姫の隣なら寝るさ。夫婦なんだから」

鞘丸は、そんなの当たり前だろうと言う様に答えた。

当たり前。天姫の隣なら信頼して安心して眠れる。
夫婦だから、その言葉に少しの照れと嬉しさを感じ胸が温かくなる。

「それより天姫、体は大丈夫か?」

鞘丸も体を起こし、気遣う様に天姫を見た。

「大丈夫、だと思います‥恐らく」

「なら良かった」

鞘丸は優しく笑うと「体が冷えるぞ」と天姫を布団の中に戻すと優しく抱きしめた。

「天姫は可愛いな。出会った頃からずっと可愛い」

鞘丸が微睡みながら呟く。

「恥ずかしいです‥」

「恥ずかしいもんか。俺の妻はずっと可愛い」

「もう‥私だっていつかはお婆さんになりますよ」

「それでもずっと、ずーっと可愛い。それにその頃には俺だってしわくちゃのじーさんだ」

鞘丸は笑った。
なんて幸せな会話だろう。
鞘丸の優しい声を聞きながら、天姫はまた眠りに落ちていった。


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「女の子なら、やっぱり天姫様似がいいわよね」

宴会で列王にしこたま飲まされた彦次郎は、二日酔いに痛む頭で聞かされる楓のしょうもない話題に朝から顔を顰めていた。
楓も同じくらい飲まされた筈なのにケロッとしている。どんだけタフなんだこいつは。楓の溌剌とした姿と朝日が今の彦次郎には眩しい。

「‥男だって、天姫様似の方が可愛いだろう」

彦次郎の頭も二日酔いで働いていなかった。

「確かに。いやどっちも良いわね。護衛と子守りの任務も捗るわ」

妄想に耽る楓の横をすり抜け、彦次郎は水を通りに厨房へ向かった。

途中、朝餉を食べる列王や陽炎を見かけたが、皆元気だった。
揃いも揃ってザルなのか‥羨ましい。
前方から鞘丸が歩いて来るのが見える。

「おはよう、彦次郎。‥‥酷い顔だな」

二日酔い全開の彦次郎に対し、鞘丸は幸せオーラ全開、心なしか肌艶も良い。なんか腹立たしい。

そんな二人の下に妄想を終わらせた楓もやって来る。

「あ、おはようございます若頭。天姫様は‥?」

確かに天姫の姿が見えない。

「ちょうど良かった楓。お前を探してたんだ。天姫なら起きて部屋にいる。身支度を手伝ってやってくれないか」

楓は目を瞬かせる。

「勿論ですけど、でも珍しいですね。天姫様、いつもならご自分で支度されて私が手伝うまでもないくらいなのに」

「あー、いや。そのなあ」

鞘丸が視線を逸らし、何だか歯切れも悪い。

「天姫が‥その、立てなくなっちまって‥。俺に身支度を手伝われるのは恥ずかしいから、楓を呼んで欲しいって言われて‥」

‥‥‥

「加減、しなかったんですか」

「若頭、いえバカ頭。ご自分と天姫様の体力差って分かります?」

二人からお説教をくらった鞘丸は「ごもっともです」と小さく項垂れた。


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「ありがとう、楓。朝からごめんなさい」

楓に手伝ってもらい着物を着付け終わると、天姫は縁側に腰を下ろした。ここまでも移動も、生まれたての子鹿の様な足取りで楓を少しハラハラさせた。恐るべし、若頭の体力。

「気にしないでください天姫様。お茶もお持ちしましたのでどうぞ」

ありがとう、と楓から湯呑みを受け取りお茶を飲む。


その横顔がなんだか昨日と少し違って見える。

ああ、この方は若頭の妻になったのだ。
幸せそうで、それでいてどこか決意をしたような、良い顔だった。


「天姫、大丈夫か?」

鞘丸が襖を開け、控えめに顔を覗かせる。彦次郎も一緒だ。

「大丈夫ですよ、鞘丸。さっきはすみませんでした。
彦次郎もおはよう」

天姫が少し恥ずかしそうに笑いながら二人に声を掛ける。

「陛下が持って来てくれた果物で食べやすそうな物を幾つか切ってきた。食べられそうか?」

「ありがとうございます。いただきます」

鞘丸がいそいそと用意し、天姫が嬉しそうにしている。

そんな二人を見た彦次郎が楓にぼそりと囁く。

「何だか、すっかり夫婦だな」

「そうね」

彦次郎と楓も嬉しそうに笑い合った。

果物を受け取ろうと、鞘丸の手と天姫の手が軽く触れ合った時だった。

天姫の動きが止まり数秒後、少し頬を染めて嬉しそうに微笑む。

それに三人が気付く。

「え、天姫どうした?」

「何が視えたんです」

「まさか!お子様とか!?」

天姫の反応に一斉に三人が詰め寄る。
今はまだ言う必要はない。これから出会う、あなた達に会えるその日まで。


「皆が、笑っている未来です」

そう言って天姫は微笑んだ。