君の瞳に映る未来   ー姫と忍びの恋絵巻ー

一体、私達はどこで間違ったのか。


忍びでなかったら?

違う

男でなければ?

違う

同じ母から生まれていたら?

違う

違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う


ー初めから芳乃様だけ娶っていれば。そうすれば、鈨丸も生まれることは無かったというのにー


そう、私が生まれた事自体が間違いだったんだ


⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎


「おら‥っ!!」

鞘丸が、もう何体目かも分からない鎧武者を斬り倒した。

やっぱり、鞘丸は強い。

鈨丸は血の気の引いた青白い顔で鞘丸を見る。

「‥何だ兄上、もうおしまいか。お得意の呪術を使い過ぎて、貧血でも起こしたんじゃないか?」

肩で息をしながらも、鞘丸は鈨丸を挑発する言葉を投げる。
鎖鎌を握る腕が重い。
鞘丸の体も、疲労と傷は着実に増えていた。

「大したものだな。流石は若頭殿」

皮肉を込めて、鈨丸は吐き捨てる様に言った。

「別に成りたかった訳じゃない。そうなるしかなかった」

自分が陽炎と芳乃の子供だから。そうなる様に頑張っただけ。
立場が違えば、鈨丸だってそうだった。

「詭弁だな」

鈨丸は興味無さそうに首を振った。


鞘丸は、兄に対し正直一番怒りを覚えていたことを問い掛ける。

「何で天姫を攫った。どうして彼女を巻き込んだ」

「‥別に、お前を苦しめられる方法なら何でも良かったよ。兵王の指示で列ノ国を探っていたら、臨ノ国との戦後にお前が婚約者を里に連れ帰ったと知ってね。列王の血縁者でもない、ただお前が惚れ込み選んだ相手なら利用出来ると思っただけだ」

だから天姫が忍びの里に来てから直ぐ、土砂崩れや不審な動きがあったのか。

「初めは天姫殿をただ殺すつもりだったさ。だが、それだけじゃつまらないと思ってね」

「天姫を兄上の妻に迎えるなんていう、ふざけた話も聞いたが?」

彦次郎の言葉を思い出す。思い出しても腹が立つ。

「ああ、今でもそのつもりだよ。お前を殺して兵ノ国に戻ったら、彼女を私の妻にする。彼女の力は、これから何かと役に立つだろうからね。兵王も大層興味深そうにしていたよ。天姫殿なら、自分の側室にしても構わないとまで言っていた」

何だそれ‥どいつもこいつも好き勝手言いやがって‥!
天姫は俺の妻になるんだよ!!

鞘丸の手に握られていた鎖鎌が、怒りでミシミシ‥と嫌な音を立てる。

「お前の一番大切なものをこの手で奪える。列王の倒れた今、この戦に兵ノ国が勝利すれば列ノ国も臨ノ国と同じ様になる。そうしたら真っ先に、母上を虐げたあの里を滅ぼそう。母上を守らなかった父上も、もう直ぐ死ぬからな」

指折り数えながら、鈨丸は顔を歪め笑う。

「そして鞘丸。お前を殺せば私の望みも叶うんだ。全部無くなれば、やっと‥やっとこの苦しみからも解放される」

鈨丸の笑顔は、全てが痛々しかった。
これが兄の苦しみか。兄の選択か。
俺には止められないのか。

鞘丸は深く息を吐く。

「そうかよ‥。でも俺は死なないし、天姫は返してもらう。戦にも負けないし、里は滅ばない。それにあの父上が、毒若きで死ぬもんか」

鞘丸が全てを言い返す。

「兄上の望みは叶えさせない」



ビキリと鈨丸の額に青筋が浮かぶ。

「何も‥何も知らないくせに。全て持っているお前には、何も分からないくせに‥」

鈨丸が自分の腕を小太刀で一際深く切り付けた。
ボタボタと大量の血が流れる。

「もういい。もういいっ!!死ね鞘丸‥っ!!!」


今までの鎧武者の三倍の背丈はある、大鎧武者が現れた。

「マジかよ‥!!」

大きさまで変えられるのは聞いてないぞ‥!

振り下ろされた大鎧武者の太刀が、地面を抉り破る。
おいおい、こんなの一撃でも喰らったら終わりだ。

生身の人間じゃないからか、デカい癖に動きも早い‥。
逃げるばかりで反撃する隙がない。

鈨丸は目を血走らせ、血を流しながらこちらを睨み付けている。

あっちだって限界だろうが‥ー!

この大鎧武者を倒さなきゃ、鈨丸だって出血死する。

兄上を討つ覚悟はあった筈なのに、でもこんな形では‥。

兎に角目の前のこいつだ、と大鎧武者の背後に周り込む。
取り敢えず動きを止めなければ。
大鎧武者の足下を鎖で狙う。
鎖に足を取られ、大鎧武者が体制を崩した。動きが鈍ったところに、大鎧武者の片目目掛けて、鞘丸は鎖の先の分銅を投げ付けた。

オオオオオー!!

片目を潰され、鎧武者が大きく唸り声を上げる。

(よし、生身じゃなくても効いたか‥!)

片目を押さえながらよろめく大鎧武者。目を押さえる手と反対の腕にはまだ太刀を握っている。
太刀の刀身に鎖を巻き付かせ、全力で引っ張った。

「くそっ‥!流石に重い‥!」

普通の人間相手とは訳が違う。
鞘丸は腕の血管が浮き出るくらい、全力で力を込める。

鎖に絡め取られ、引っ張られた勢いで大鎧武者の手から太刀が離れ宙を舞った。
相手が丸腰になった瞬間を鞘丸は見逃さなかった。一瞬で鎧武者の懐に飛び込むと、首元目掛けて鎌を振りかぶった。



あまりの動きの速さに鈨丸は息を呑んだ。

これが、鞘丸‥
父の‥忍びの才を受け継いだ男‥



首を落とされ、大鎧武者が消えていく。
しかしまだ動けた片腕が、鞘丸の右足を掴んだ。


「しまった‥!」

デカい分、他の鎧武者よりも消えるのに時間が掛かった。
完全に油断した。

振り解く間も無く、鞘丸はそのまま地面に叩き付けられた。