君の瞳に映る未来   ー姫と忍びの恋絵巻ー

「おはようございます!天姫様!昨日も良く眠られましたか?」

朝から元気いっぱいの楓が、天姫の下へ今日の予定を伝えに彦次郎とやって来る。

祭りは二日間。二日目の今日は列王が民の前に姿を見せ、式典がある為天姫達は王都に宿を取り一泊していた。
列王には「なんだ、城に泊まれば良いものを」を言われたが、仕事の邪魔はしたくないので天姫は断った。鞘丸は本来の護衛の任務がある為に朝早くから出てしまい、今日も天姫と楓と彦次郎の三人となった。

「式典は昼から。それが終わったら我々は若頭よりひと足先に里に戻る予定になります」

「分かりました。ありがとう彦次郎」

ふと、楓が天姫の見慣れない髪飾りに気が付く。

「あれ、天姫様そのような髪飾り持ってましたっけ?」

「あ、これは昨日、鞘丸に‥‥」

昨夜の口付けの事を思い出してしまい、カァーッと顔を赤らめ黙ってしまった天姫に、彦次郎と楓は察した。
若頭も報われた様でなによりだ。


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人の出が更に増えて、街はどこもかしこも混み合っていた。

「昨日よりだいぶ人が多いですね」

「陛下の挨拶がありますから」

「陛下は民からも慕われてますからね!天姫様、危ないので逸れないよう気を付けてくださいね」

式典の会場を目指してながら、天姫を庇う様に彦次郎と楓が前と横に付いて歩く。二人は流石忍び、人の間を上手く擦り抜ける様に歩いている。

(凄い人の量‥本当に迷子にならぬ様気を付けなきゃ)

天姫が気を引き締めてなければと顔を上げた時、前から歩いて来た男の人に軽く肩が当たってしまった。

「あ‥」

すみません、と謝ろうとしたその時に天姫の頭の中に銃で撃たれ倒れる列王の姿が視えた。

ーーーー!!??

今のは‥、まさかさっきの人が列王様を‥?
ぶつかった男はあっという間に人混みに消えていってしまう。あまりの人の多さに楓と彦次郎も天姫の様子に気付いていなかった。ダメだ、このままじゃ見失ってしまう‥!

二人に声を掛ける間もなく、天姫は男の後を追った。



「待ってください‥‥!」

いつの間にか路地裏に進み、祭りの喧騒からも遠ざっていた。辺りに人気も無くなり、天姫の声に男がやっと足を止めた。

「貴方‥列王様に何をなさるつもりですか‥」

息を切らしながら慎重に問い掛ける。


「流石ですね。天姫殿。もうそこまで視えたのですか」

後ろに束ねた黒髪を揺らし振り返った男は、天姫に答える。

年は自分よりも少し上だろうか。真っ直ぐな翡翠色の瞳で天姫を見ている。

翡翠の瞳ーー?

「貴方は私の事を知っているのですか‥?」

「ええ、よく知っていますよ」

笑った顔が鞘丸に似ている。天姫の背中に嫌な汗が流れた。


「だって、貴女は私の妻になるのですから」


男の笑顔に寒気がして後ずさる。
そこに

「天姫様!!!」

彦次郎が飛び込んで来た。

「彦次郎‥!」

「申し訳ありません。お一人にしてしまって‥怪我はありませんね」

天姫を見て、異常が無いかを彦次郎が確認する。
彦次郎の登場に安堵するも、目の前の男から嫌な気配が消えない。彦次郎は険しい顔で、男に向き合った。

「‥‥やはり貴方でしたか。鈨丸様」

「久しいな彦次郎。随分大きくなって。そこを退いてくれないか。我が妻とようやく二人きりになれたのに、邪魔しないでくれ」

我が妻だってー?

「何を寝ぼけた事を」

彦次郎が天姫を背に庇い、短刀を構える。

一体この男は何者なのか、彦次郎の言い方では知り合いなのだろう。しかし、いつも淡々とした彦次郎からも余裕の無さが伺える。彦次郎から目の前の男に、天姫が視線を移した時だった。


「‥‥‥っ!」

一瞬だった。
目の前に鎧武者のような者が現れたかと思うと、彦次郎の腹に刀を突き刺し消えた。

彦次郎が膝をつき、傷口からみるみる血溜まりが広がる。

「彦次郎‥!!」

青ざめ、彦次郎に手を伸ばすも鈨丸にそれを阻まれ天姫は抱き抱えられてしまう。

「さあ、行きましょうか天姫殿」

「離して!!離しなさい!!直ぐに手当てしなければ‥‥彦次郎!!」

腕の中で涙を流し暴れる天姫に、鈨丸は眉を顰めると首の後ろに手刀を落とす。ガクリと天姫は気を失った。

「待て‥‥」

血溜まりの中で彦次郎が声を絞り出す。

「まだ喋れたか」

「天姫様を‥どうする‥気だ‥」

「鞘丸のものは全て私のものになる。あいつにはもう何一つやらない」

そう答えると、鈨丸と天姫は彦次郎の前から姿を消した。
彦次郎の意識もそこで途絶えた。


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「彦次郎‥!彦次郎‥!!」

誰かが呼ぶ声がする。
あの方は、自分なんかの為に涙を流していた。

「起きろ!!彦次郎!!」

ああ、違う。この喧しい声は

「うるさいぞ、楓‥」

「‥!良かった、生きてた」

「止血終わりました」

楓が連れて来たのだろうか、いつの間にか芳乃とその配下のくのいち達もいた。

「急所は外れてる‥」

「馬鹿!急所外れててもこの血の量じゃ失血死するわよ!」

「お前ほどの腕の者がここ迄の傷を負うとは。
相手は誰です」

険しい顔をした芳乃に問われる。

「‥‥ 鈨丸様です」

その名前に芳乃の顔は更に険しくなり、楓や周りのくのいち達も言葉に詰まる。

「彦次郎は私達が医者の下に連れて行きます。楓、お前はこの事を鞘丸と陽炎様に。もう式典は始まっています。列王の所に彼らもいる筈です」

「承知しました」

楓がいなくなると芳乃が深い溜息を吐いた。

「いつかこの様な日が訪れるのではと思ってましたが‥‥」

芳乃の言葉を聞きながら、彦次郎はもう一度意識を手放した。

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広場の高台に列王が姿を見せると、国民達の歓声が上がる。平和で豊かな国、民に幾度となく心を砕き寄り添ってきた列王。歓声は民からの信頼の証だった。

この人混みの中に天姫もいるのか、楓と彦次郎と一緒だが大丈夫だっただろうか‥。昨日のうちに里へ帰らせた方が良かったかもしれない。鞘丸は少し心配になった。直ぐ近くには陽炎も控えてはいるが、なんだか妙な胸騒ぎがする。

目線を列王に戻した時だった。遠くに、黒く光る銃口が見える。

‥‥‥!!

不味い‥!駆け出そうとする鞘丸よりも一歩早く、陽炎が飛び出した。しかし数秒間に合わず、列王の肩を銃弾が射抜く。倒れ込む列王にニ発目、三発目と続く銃弾を陽炎は刀で全て弾き返す。

鞘丸はその隙に、犯人の元へ走るが距離があったせいであっという間に人混みに逃げられ見失ってしまった。

「くそっ‥‥!!」

「若頭‥!!」

銃弾の音に悲鳴を上げ逃げ惑う民達をすり抜け、楓がやって来る。そして直ぐ様、膝を着いて鞘丸に頭を下げた。

「若頭‥‥申し訳ありません!天姫様が‥ 鈨丸様に連れ去られました‥!」

ああ、思っていた最悪の事態となった。