儚き少女は気高きあやかし王に愛されます


◯東地区・酒屋・厨房・夜・ゆずるside

麻美「いい?今日も源河様がお越しになるけど、あんたは絶対にこの厨房から出ないで」

きつい顔をして言ってくる麻美にゆずるは頷く。
食事の支度を始めるゆずる。
この時、翠は厨房にはいない。

ゆずるは棚を開けると、お醤油がないことに気づく。

ゆずる(お醤油は廊下の段ボールの中にある。どうしよう……麻美さんにここを出るなって言われたし……。でも、早く料理を作らないとあやかし達の機嫌を損ねる)(翠ちゃんもいつ戻ってくるか分からないし。すぐに戻れば大丈夫だよね)

出入り口に立ったゆずるは、辺りを見回すと廊下に出る。

◯東地区・酒屋・廊下・夜・ゆずるside

廊下に出たところで、あやかし達が立ち話をしていてゆずるは足を止める。

あやかし1「最近は源河の羽振りがいいらしいな。ここんところ、毎日のように酒屋で顔を合わせる」
あやかし2「これも王牙様がいないからだろうな」

ゆずる(王牙……?誰のことを言っているんだろう)

あやかし1「王牙様もいつお戻りになられるのか。お姿が見えなくなって、もう四百年も経つ。もしかすると、一生このままだったり……」
あやかし2「それならそれで、我らには都合がいいではないか。大あやかしであるあの方は恐ろしいったらありゃしない」※震え上がりながら言う。
あやかし1「くくっ……それはそうだな。あの方がいなければ、我らは好き放題だ」※企みのあるニヤリとした笑みを浮かべる。

あやかし達が立ち去ると、ゆずるは歩き出す。

ゆずる(廊下を曲がってすぐのところ……)

角を曲がろうとしたところで誰かにぶつかる。
尻餅をついたゆずるが顔を上げると、そこには源河の手下である蛙のあやかし達がいる。

源河の手下1「ん?お前は……昨日の小娘じゃないか」
源河の手下2「本当だな。こんなところで何をしているんだ?」

しゃがみ込み、ゆずるの顔を覗き込む手下達。

源河の手下1「この娘、言葉が話せないらしいぞ」
源河の手下2「そうなのか?もったいないな、こんなに可愛い顔をしているというのに……」

そう言い、手下2はゆずるの顎をクイっとさせまじまじと見てくる。

源河の手下2「なあ、今宵はこの小娘で遊ばないか?」
源河の手下1「え?でも、この娘のことは源河様も気に入っていたようだし、下手に手を出さない方がいいんじゃ……」
源河の手下2「秘密にしていれば大丈夫だろう」
源河の手下1「それもそうだな」

ゆずる(何……怖い)

源河の手下2「あっ、おい待って……!!」

手下達の不気味な笑みに、ゆずるは恐怖を抱き酒屋を逃げ出す。