◯天空の城(犬神一族本家)・夜・王牙side
山と雲海に囲まれている和屋敷。
王牙が長い階段を上っていると、茂みの中から犬神の使用人が出てきて、王牙に深々と頭を下げる。
本家の使用人「お待ちしておりました若旦那様。中で旦那様がお待ちです」
広々とした和室に、王牙の父、奏牙が正座をして座っている。
【奏牙】王牙の父、物腰の柔らかい、穏やかな性格。
奏牙「よく来たね、王牙」
王牙は奏牙の前に座る。
奏牙「四百年ぶりに会えて嬉しいよ」
にっこりと笑ってそう言う奏牙に、王牙は鼻で笑う。
王牙「フンッ……皮肉を。私を封印したのは父上でしょうに」
奏牙「そうだけど、まさかこんなに早く封印が解けるとは思わなかったよ」「……それで、今日、ここに呼ばれた意味は分かるね?」
王牙「まあ……」
奏牙「知っての通り、この国は随分と変わった。戦争で多くの人間が亡くなり、土地は荒れ果て、食べるものにも困っている。人間達はかつての輝きを失い、あやかしに支配されている」「今や、あやかしはこの国の支配者だ。そして、その頂点に君臨するのが、大あやかしである、私たち犬神一族。そして……お前のこの誇り高き一族の当主だ」
【ナレーション】『犬神のあやかしは、山を守る役目を神から仰せつかって生まれたあやかし。土地を守る土地神のような存在。そんな高貴な存在であるからこそ、他のあやかしから一目置かれている』『特に、王牙は犬神一族の歴代当主の中で、群を抜く強さを誇る。そのカリスマ性に、誰もが惹かれてしまう』
奏牙「人間嫌いのお前が、人間の娘を伴侶にするとは面白いね?」
王牙「私も、想定外です」
奏牙「一族の当主はお前だ。やり方に口を出すつもりはない。だが……彼女を守れるかな?」
王牙「心配はご無用です。この王牙の命に変えても、守ってみせます」
王牙のその言葉に奏牙は驚く。
奏牙「お前の口からそんな言葉を聞けるなんてね。これは封印した甲斐があったかな」
嬉しそうな笑みを浮かべる奏牙。
王牙は異界への侵入者を察知し、立ち上がる。
奏牙「何かあったのかな?」
王牙「異界に侵入者です」
立ち去ろうとする王牙。
奏牙「紫姫のことだけど」
奏牙に言葉に足を止める王牙。
【紫姫】(しき)王牙のいとこで許嫁、犬神のあやかし。
王牙モノ『犬神一族はその高貴な血を絶やさぬよう、血縁関係の近しい者同士となることも少なくもない。事実、父上と母上は、腹違いの兄弟で伴侶となった』『人間でいう政略結婚というやつだ』『紫姫は犬神一族の当主として、一族を繁栄させるための存在。それ以上でも以下でもない』
王牙「自分の役目を投げ出すことになるのでしょうが、私はゆずる以外を伴侶として迎える気はありません」
立ち去る王牙。
奏牙はその背中を真剣な眼差しで見つめる。
奏牙「これは、これから大変だな」

