痛みさえ愛しい恋だった


『天国に一番近い部屋』
 緩和ケア病棟にある祈りの間は、患者たちからそう呼ばれている。
 僕は祈りの間でひとり、部屋の中央に置かれたベンチに座り、天井付近の窓から差しこむ光を浴びていた。そのまばゆさに目を細め、息をつく。
 温かい。まるで天国から彼女に微笑まれているようだ。

 無音の穏やかな時間だが、その間も僕の体はあちこち焼けるような激しい痛みを訴えていた。
 もう痛くない場所がないというくらい、全身ズタボロだった。指ひとつ動かすだけで、息を吸うだけで、ベッドに横になっているだけで、体のどこかしらが悲鳴をあげる。
 痛みに眠れない日は数えきれないほどあった。痛みにのたうち回っているうちに、意識を失うように眠る日も同じだけあった。
 だが疲弊していく体とは裏腹に、僕の心は容赦のない痛みたちを喜んだ。痛みを感じれば感じるほど、いまはもういない彼女に近づけるような気がしていた。

 しかし何事にも限界はある。終わりが近づいていることは僕自身感じていた。
 人の体はとても脆く、崩れ始めればあっという間だ。指先からさらさらと砂になっていき、最後のひとつぶが落ちたとき、やっと彼女のもとへといける。
 もうずっと、僕はその瞬間を待ちわびていた。

「はやく会いたい……」

 僕はここで待っている。この部屋で、君に会えるときを待っている。