同じ電車の男子高校生が気になる

 ◇


「おーい。みずき」

 呼ばれて我に返った。顔を上げるとクラスメイトの前田がいる。
 昼休みが終わる間際、教室の自分の席でぼんやりしていた。先輩と朝送り合ったスタンプを見ていたからハッとして画面を伏せる。

「あ、ごめん。なに?」
「来週の数Ⅰの小テスト、範囲どこだっけ? メモし忘れたから教えてくんない?」
「いいよ、ちょっと待って」

 机からノートを出してめくっていると、隣の席の友人が会話に混ざってきた。

「庵野って前田と同中出身だっけ?」
「そうだよ」
「ああ、だから名前で呼んでんだ」
「そうそう。同中の奴ら大体みんなみずきって呼んでるよな。ある特殊な事情により」
「特殊?」

 ノートのページを開いて見せる。前田が覗き込んできて自分のスマホにメモし始めたので、俺が会話を引き継いだ。

「ちょっと珍しいんだけど、中学に同じ読み方で安野って名前の先生がいたから。しかも二年の時担任で。だからみんな名字じゃなくてみずきって呼ぶようになったんだよね」
「へえ、担任は確かに気まずい」
「メモれた。さんきゅー」
「俺の字読めた?」
「うん。まじ助かった。今度お礼する。ありがとな、みずき」
「これくらい気にしないでいいよ」

 前田が自分の席に戻っていく。途中、同じグループの男子達に「ほら聞いてきたぞ」と声をかけていた。
 陽気で人当たりがいい前田は、見た目も爽やか系のイケメンなので同じクラスでも陽キャグループに属する。普段俺とはつるんでいないが、同じ中学から来たから普通に話すし、同じ沿線に住んでいるから時々行き帰りが一緒になったりもする。
 俺は自分のクラスの派手な男子達とは、あまり話が合わなそうで交流することはほぼないけど、前田は顔見知りだし、誰に対しても気さくに話しかけてくれるから頼りになる。いい奴だと思う。

「前田がいるから俺達助かるよな~。変にギスギスしなくていいわ~」

 そうコメントした隣の友人こそが、俺の牧草仲間である友人Aこと黒木だ。眼鏡をかけた秀才顔で、いつも悠々と草食んでるみたいに何事に対してもゆったり構えている。
 クラスではいつもあと二人混えて四人で移動することが多いけど、俺が一番話すのは隣の席の黒木だ。

「前田話しかけやすくていいよね」
「な。西野達って、中学で結構派手だったから同じクラスってどうかと思ってたけど、前田のおかげで平和でいいわ」
「ふーん。西野ってそんなかんじだったんだ?」

 名前が上がったのは、陽キャグループの一人だ。そういえば黒木と同じ中学の出身だと聞いたことがある。確かに声は大きいし、騒いでいるときは大体西野が真ん中にいる。
 時々やむを得ずちょっとした交流が必要なときもあって、そのときは前田に話しに行けばいいから助かっている。前田はいつも陽気だけどうるさいって感じでもなく、明るいテンションが安定してるから絡みやすい。当然女子ウケもいい。

 春川先輩も、クラスの中だったらそんな感じなのかな。
 なんて、不意に思ったりした。
 いつも落ち着いてるし、周りの空気を読むのが上手そうだからみんなに慕われてそう。そんで女子にモテるんだろうな。あの顔と性格でモテない方がおかしい。現にこの前、友達にモテるって言われてたし。

 そうしたら、急に胸が詰まった感じがして、あれ?と思った。
 おかしいな。先輩が人気者だろうってことくらい、とっくに想像ついてたはずなんだけど。