同じ電車の男子高校生が気になる

 ◇


「先輩」
「ん?」
「先輩は、なんで本読むようになったんですか?」

 隣に座るようになって二週間ほど経ったとき、気になって聞いてしまった。
 先輩の人柄がだんだんわかってきてからも、やっぱり腑に落ちないんだよな、と思う。
 本の話ができるようになって、先輩が本当に本好きだということはわかったけど、それ以外の印象はやっぱり華やかグループに属する一軍男子のままだ。

 俺と話しているときは、先輩はいつも落ち着いてるし、話し方も優しい。笑いのツボは浅めだけど、大声で爆笑したりはしない。
 教室の中で友達とバカ騒ぎしてるイメージは今のところないな。
 まぁ、俺だって先輩の前では猫被って優等生みたいなキャラ演じてるから、先輩もまだ素を出してないだけかもしれないけど。

 時々本のタイトルをスマホで検索したりもするから、ちらっと見える先輩のスマホの画面はいつもSNSの通知がいっぱいきてる。
 持ってるものも、つけてる香水も、なんというか目立つ男子が持つことを許されるアイテムばっかりで、ライトノベルも読むよっていう言葉とのギャップにいまだに戸惑うことがある。

 でも、最近は俺から話しかけることにも慣れてきたので、聞いてみたら先輩はすんなり教えてくれた。

「小学校のとき、本好きの奴が友達にいたから、そいつの影響。そいつは中学受験してすごいとこ行っちゃったけど、色々すすめてくれた」
「なるほど」
「『脳筋になるな、知性あるゴリラたれ』っていうのがそいつの口癖だった」
「すごい小学生ですね」
「面白い奴だったことは間違いないね」

 俺が感心して頷いていると、先輩が俺に顔を向ける。

「それで読み始めたら結構ハマった。みずきは?」
「俺は従兄弟の影響です。小学校の高学年くらいで従兄の家族が地方に引っ越したんですけど、そのとき従兄が読んだ児童書とか全部俺にくれたんです」

 せっかくもらったし、と思って試しに一冊読んでみたらそれが面白かった。カードゲームのレアカードみたいにギラギラした表紙で、構えるほど分厚くもなくて文字も大きかった。初心者にはちょうどよかったんだと思う。謎解きみたいな要素もあったから読み進めやすかったし。
 全巻ちゃんとあったから少しずつ読んで、それから楽しくなって児童書のファンタジーを色々読み漁ったんだった。
 あの偉大なイギリス人作家の魔法学校シリーズの全盛期とは重ならなかったけど、ガッツリハマっていた従兄弟は自分用に文庫版を買うからと単行本は俺に譲ってくれた。

「最近は電子が増えてますけど、俺は紙の本を揃えるのが好きです。本棚に好きな文庫本を並べて背表紙眺めたくて……」
「それはわかる。俺はシリーズ並べたい派」

 先輩がすぐに同意してくれたので、嬉しくなって身を乗り出した。

「出版社ごとに並べますか? それとも作者のあいうえお順?」
「仮名の順番はそこまで気にしないかな。好きな作者のシリーズが目につくところに並んでればいいから、それ以外は結構適当。読み返ししない本は下の方の段にごちゃごちゃに入ってるし」
「なるほど。俺はあいうえお順にこだわっちゃうんですよね」

 本棚に本をどう並べるかという、本好き以外には全く響かないであろう話が楽しい。

 毎日話をして、それでも話題が途切れたり気まずくなったりしないのが不思議で、自分でも自分の積極さに驚いてもいた。
 俺って、こんなに人と仲良くなろうと頑張れるタイプの人間だったんだ、みたいな。
 毎日高校で授業を聞いたり友人と話していても、ふとした拍子に「あ、この話先輩としよう」と思いついて嬉しくなったりする。

 春川先輩と話すようになってから、毎日明日がくるのが楽しみになった。毎晩、明日何を話そうって考えながら寝てる。
 金曜の朝先輩が電車から降りていった後、次は月曜か、と気分が下がるくらいだ。

 でもちょっとだけ困っていることがある。
 先輩と電車で話すのは俺の中で日常になってきてるのに、先輩が乗ってくるまでの数駅の間、俺はいつもドキドキしてしまって読書に集中できないから。