同じ電車の男子高校生が気になる




 月曜の朝、電車の中で一人、俺はスマホを握りしめていた。
 先輩とのトーク画面を開き、決意を持ってメッセージを打ち込む。

『今日の帰り、会えますか? テストで早めに終わるから、駅で待っててもいいですか』

 何度も見返してから、思い切って送信した。

 昨日のあの後、一旦落ち着つこうと家に帰って、俺はまっさらな気持ちでもう一度考えてみた。
 先輩に初めて話しかけてもらった日の夜みたいに、ベッドに寝そべって目を閉じて。

 電車で聞いた話はあれからずっと、半信半疑だ。
 先輩が俺を好き? そんなバカな。
 やっぱり自分の都合がいいように聞き間違えただけじゃない?

 と、思う一方で、でも、ほんとだったらどうする……? 先輩と俺が両思いだったら? という想像で、ドキドキして狼狽えている俺もいる。

 いやいや落ち着け。ひじき持ってた子も言ってたじゃないか。先輩が単に冗談を言っただけって可能性もあるし、真に受けてぬか喜びするのはよくない。

 悩んだ末、俺は先輩に会おうと決めた。

 会って話そう。先輩に会わなくちゃ。

 最後に会ったとき、俺が失礼なことを言ったのは事実だしちゃんと謝りたい。
 ごろっと寝返りを打って、本棚の見やすい位置に並ぶお気に入りの文庫本の背表紙とキーホルダーを眺めた。
 
 今先輩と話さなきゃ、気まずいまま会わなくなってだんだん疎遠になってしまうかもしれない。
 そしたらきっと、俺は心から後悔する。 

 先輩のことが知りたい。
 朝の電車でこっそり見ていた頃から、俺の根本の気持ちはずっと変わってない。
 俺は先輩のことを知りたかった。どういう声で話すのか、どんな人なのか、知りたいって思っていた。
 多分、自分でも気づかないうちに惹かれてたんだ。だから一緒に話すようになったら、先輩のことをもっと好きになった。
 いまの関係を壊したくないけど、本当はもっと近づきたい。

 そう思うなら、一人で悩んでるだけじゃダメだと思う。
 自分から会いに行こう。
 今までは先輩がきっかけをくれたけど、多分このままじゃ、俺は何も変わらない。
 先輩と一緒にいたいなら、俺から行動しなきゃ。


 冬の朝のしんとした空を映す窓を黙って眺めていたら、スマホが震えた。
 先輩からだ。
 トーク画面を開く指が、俺の意思と反して躊躇うように数度動いた。
 それから思い切って、先輩のアイコンをタップする。

『いいよ。寒いからあったかいとこで待ってて』

 それを見た瞬間、自然に止めていた息が緩んだ。
 続けて送られてきたスタンプのブサ猫がOKと手を振っている。深呼吸して、俺はその短いメッセージを何度も読み返した。


 ◇


 その日、二時半には最後のテストが終わり、教室の中は一気に賑やかになった。
 終礼が終わった途端にわいわい騒ぎ始めるクラスメイトを横目に、俺はすぐにリュックを背負う。

「庵野、もう帰る?」
「うん」

 黒木が立ち上がってついてくる。

「俺ももう帰る。眠すぎて死にそう」
「詰め込みよくないって言ってたの黒木じゃなかった?」
「最後に一花咲かせよと思ってな……」
「その言い方だと不安を覚えるんだけど……」

 話しながら廊下に出たら、前田が教室から顔を出して呼び止めてきた。

「みずき、帰んの? みんなでサイゼ行くって言ってるけど、二人どうする?」
「俺いいわー眠いし」
「俺も今日は急いでるから」
「わかった。また明日な」
「前田ーはやくこいよー」

 教室の中から西野のでかい声がする。なんだかんだ言っても西野は前田のことを気に入ってるんだろう。構ってほしそうな声を聞いて苦笑した前田に手を振って別れ、俺は黒木と一足先に校門から出た。
 いつも通り駅の傍で別れ、足早に改札を抜け、ホームに向かう。
 電車に乗る前に、先輩にメッセージを送った。

『俺のほう、終わりました コンビニの横のマックで待ってるので、先輩終わったら連絡ください』

 いつか話題になったパンのコンビニの横に、確かマックがあった。先輩が終わる時間はまだ先だから、そこで本を読みながら待っていよう。胡桃ちゃんの学校に向かう電車に同行させてもらえば、その間にきっと話ができる。
 先週も顔を合わせているけど、先輩に会えると思ったら、さっき教室でテストが終わったときよりも胸が弾んだ。