「いつも朝も引くくらい早いじゃん? あれこっそり彼女と乗って来てんじゃないのって、結構噂」
「でも誰か見かけた子言ってたけど、女子じゃなかったらしいよ」
「そうなの? じゃあ彼女じゃないじゃん、やっぱガセだよ」
「絶対いるって。私聞いたもん」
最初に先輩の名前を出した女子が食い下がって、鞄の中から何かを取りだした。
「これ、見て」
「なにそれ」
「黒」
「なんか、へんなキャラクター。ひじきの」
「ひじき」
「ウケる、急にどうした」
一人が突然ひじきのキーホルダーを出したから俺もえっと思って、思わず二度見しそうになって堪えた。
なんだ? なんでひじき持ってるの?
「これ、春川が持ってた」
「へー」
「なにそれって聞いたら、『好きな子にもらった』って、口滑らしたの」
「えー! まじ!」
どっと盛り上がる声に紛れて、俺の口から「えっ」という小さな声が零れ出た。
……え????
「本人すぐに『だったらいいなって話』とか誤魔化してたけど、あれ絶対本気のやつ! 女の勘」
「うそー! 確かに明らか春川の趣味じゃない」
俺は今度こそ二度見したくなって、スマホを見ているふりをしながらその子が持っているキーホルダーをちらっと確認する。
やっぱり、ひじきだ。
え? でもそんなわけない。聞き間違い? 自分の都合いいように頭の中で解釈した?
俺が硬直している横で、会話が続く。
「でもさ、好きな子って言い方なら、付き合ってないんじゃない?」
「確かに」
「というか、それでなんで春川と同じキーホルダー持ってんの?」
「……だって、これ持ってたら春川の好きな子になれるじゃん……」
「は、ヤバ」
「ちょっと結構な勢いで引いてしまった」
「なんで! 脳内で妄想するくらいいいじゃん! どうせ圏外だってわかってるし」
「可哀想」
「私がひじき作ってやろうか?」
わいわいと盛り上がっている女の子達の中で、ひじきを持つ子が拗ねたように頬を膨らませた。
「いいもん、いらない。私がこの話広めたら、このキーホルダー持つ女子絶対増殖するから。見てな」
「それは否定できない」
「なんならちょっと流行るの見たい」
「女子みんなそれ持ってるとこ見た春川の顔を想像すると、ウケてしまう……」
二、三人が肩を震わせて下を向いている。
ひとしきり笑ったところで、先に笑いを収めた一人がちょっと声のトーンを落とした。
「でも真面目な話、春川に嫌われたくなかったら、彼女が誰とかあんま詮索しない方がいいよ」
「そうなの?」
「中学のとき、付き合ってた彼女虐められて、だいぶ女子と揉めたらしいよ。最終的に春川も悪いみたいな空気になっちゃって、男達からもハブられたりしたらしいから。そっから春川に彼女らしき影消えたって」
「私もそれ聞いたことある。そっとしておいてあげなよ。春川はみんなの春川だけど、本人が彼女見せないなら平和でいいじゃん。私揉めんの嫌だよ」
「うん……わかった。そうする」
「とりあえずひじきは流行らそ」
また笑い出した女の子達の話が落ち着いた頃に、到着した駅で彼女達は降りていった。
俺は一人電車に残り、ぼんやりしている。
頬が熱い。電車の暖房が効きすぎているせいでは、多分ない。
心臓が、うるさい。
今まで生きてきた中で、一番ドキドキしてる。
好きな子からもらった。って。
それって、それって……
俺……?
「でも誰か見かけた子言ってたけど、女子じゃなかったらしいよ」
「そうなの? じゃあ彼女じゃないじゃん、やっぱガセだよ」
「絶対いるって。私聞いたもん」
最初に先輩の名前を出した女子が食い下がって、鞄の中から何かを取りだした。
「これ、見て」
「なにそれ」
「黒」
「なんか、へんなキャラクター。ひじきの」
「ひじき」
「ウケる、急にどうした」
一人が突然ひじきのキーホルダーを出したから俺もえっと思って、思わず二度見しそうになって堪えた。
なんだ? なんでひじき持ってるの?
「これ、春川が持ってた」
「へー」
「なにそれって聞いたら、『好きな子にもらった』って、口滑らしたの」
「えー! まじ!」
どっと盛り上がる声に紛れて、俺の口から「えっ」という小さな声が零れ出た。
……え????
「本人すぐに『だったらいいなって話』とか誤魔化してたけど、あれ絶対本気のやつ! 女の勘」
「うそー! 確かに明らか春川の趣味じゃない」
俺は今度こそ二度見したくなって、スマホを見ているふりをしながらその子が持っているキーホルダーをちらっと確認する。
やっぱり、ひじきだ。
え? でもそんなわけない。聞き間違い? 自分の都合いいように頭の中で解釈した?
俺が硬直している横で、会話が続く。
「でもさ、好きな子って言い方なら、付き合ってないんじゃない?」
「確かに」
「というか、それでなんで春川と同じキーホルダー持ってんの?」
「……だって、これ持ってたら春川の好きな子になれるじゃん……」
「は、ヤバ」
「ちょっと結構な勢いで引いてしまった」
「なんで! 脳内で妄想するくらいいいじゃん! どうせ圏外だってわかってるし」
「可哀想」
「私がひじき作ってやろうか?」
わいわいと盛り上がっている女の子達の中で、ひじきを持つ子が拗ねたように頬を膨らませた。
「いいもん、いらない。私がこの話広めたら、このキーホルダー持つ女子絶対増殖するから。見てな」
「それは否定できない」
「なんならちょっと流行るの見たい」
「女子みんなそれ持ってるとこ見た春川の顔を想像すると、ウケてしまう……」
二、三人が肩を震わせて下を向いている。
ひとしきり笑ったところで、先に笑いを収めた一人がちょっと声のトーンを落とした。
「でも真面目な話、春川に嫌われたくなかったら、彼女が誰とかあんま詮索しない方がいいよ」
「そうなの?」
「中学のとき、付き合ってた彼女虐められて、だいぶ女子と揉めたらしいよ。最終的に春川も悪いみたいな空気になっちゃって、男達からもハブられたりしたらしいから。そっから春川に彼女らしき影消えたって」
「私もそれ聞いたことある。そっとしておいてあげなよ。春川はみんなの春川だけど、本人が彼女見せないなら平和でいいじゃん。私揉めんの嫌だよ」
「うん……わかった。そうする」
「とりあえずひじきは流行らそ」
また笑い出した女の子達の話が落ち着いた頃に、到着した駅で彼女達は降りていった。
俺は一人電車に残り、ぼんやりしている。
頬が熱い。電車の暖房が効きすぎているせいでは、多分ない。
心臓が、うるさい。
今まで生きてきた中で、一番ドキドキしてる。
好きな子からもらった。って。
それって、それって……
俺……?
