イラストを見た胡桃ちゃんは、むむ、という顔をしている。
「えっと、ひじき」
「ひじき!? これひじきなんだ!」
ぷはっと笑った胡桃ちゃんは、面白そうな顔で画面に顔を近づける。正面より横顔の方が先輩に似ているな、と気づいた。いつも隣から見ていた先輩の横顔を思い出して、胸がぎゅっとなる。
「箸休め一族っていう、ゆるキャラだよ」
これだけど、と公式サイトを検索して見せると、胡桃ちゃんは他のキャラもじいっと眺めて納得したように頷いた。
「ウケるけど可愛いかも。私もお兄ちゃんから一個もらおうかな」
「先輩から?」
「この前お兄ちゃんの部屋見たら、本棚にいっぱい並んでたから。多分、このへんのやつ。きんぴら? とか」
んん?
「先輩の本棚にキーホルダーがいっぱい?」
「そう。でも黒いのはなかったから、それがほしかったのかな」
待って。それって。
俺はひじきをくれた日の先輩を思い出す。
先輩、ガチャガチャ回したらなんか出たって、さらっと言ってたよな。一回で出たよ、みたいな感じだったけど。
家にいっぱいあるって、本当はひじきを出すために何度も回してたってこと……?
ぶわっと胸に込み上げた感情が、そのまま喉から出てきてしまいそうで、俺はカップを握りしめて呷り、コーヒーで奥まで流し込んだ。
なんだよ、そんなの反則だ。
ガチャガチャの前でひじきを出そうと頑張ってる先輩を想像してしまって、嬉しいのと、おかしいのと、愛しいのが、全部混ざる。
コートのポケットに手を入れてひじきのキーホルダーを触ったら、じわっと何かが眦に溜まりそうになって何度も瞬きした。
「あ、友達来た。私行きますね。付き合ってもらっちゃってありがとうございました」
「こちらこそコーヒーごちそうさま。胡桃ちゃん元気そうで、安心した」
「庵野さん、やっぱいい人~。あの、連絡先交換してもいいですか? 私もしかしたら公立東も受けるかもしれなくて」
「うん、もちろん」
胡桃ちゃんと連絡先を交換して、俺達は店の前で別れた。
◇
帰りの電車の中で、俺は胡桃ちゃんから聞いた話を頭の中で反芻していた。
先輩の、彼女。
本当にいるのかどうかまだ確定じゃないけど、絶対に周りに知られないようにしてるなら、きっと俺にも教えてはくれないだろう。
でも、一方で俺はもしかしたら胡桃ちゃんの勘違いなんじゃないか、とも思っている。
だって、先輩と毎日いっぱいやり取りしてたの、俺だよ。寝る前とか、休みの日とか、先輩とトーク画面で頻繁にやり取りしてたもん。胡桃ちゃんが彼女って勘違いしてるだけかも。
それなら先輩に彼女がいるっていう話は本当じゃないから、俺は先輩の顔を思い出して切なくならなくていい。
先輩だって前に彼女はいないって言ってた。
でも、徹底して隠してるんなら俺が知らないだけでやっぱり彼女はいるのかも……
「春川の彼女って誰なん?」
という声が突然すぐ横から聞こえて、俺はびくっと飛び上がりそうになった。
視線だけ向けると、気づかないうちに女子高生らしき私服姿の女の子が四人乗ってきていて、近くに立っていた。
「え? 春川って、春川夜鷹? 本気でいるん? 勘違いじゃなくて?」
「彼女らしき影ないけど」
「でも、春川最近付き合い悪いよね。夜DMしても全然返事くれないし」
「でしょ」
空耳かと思ったけど、どうやら本当に春川先輩の話をしている。
先輩と同じ高校なんだろうか。ちょうどいま頭に思い浮かべていた内容だったから、そんなわけないのに俺の口から出てしまっていたのかと一瞬焦った。
運命の女神様が同じ電車に乗ってんのかな、と思うようなタイミングだけど、話が話だからつい耳を澄ませてしまう。
「えっと、ひじき」
「ひじき!? これひじきなんだ!」
ぷはっと笑った胡桃ちゃんは、面白そうな顔で画面に顔を近づける。正面より横顔の方が先輩に似ているな、と気づいた。いつも隣から見ていた先輩の横顔を思い出して、胸がぎゅっとなる。
「箸休め一族っていう、ゆるキャラだよ」
これだけど、と公式サイトを検索して見せると、胡桃ちゃんは他のキャラもじいっと眺めて納得したように頷いた。
「ウケるけど可愛いかも。私もお兄ちゃんから一個もらおうかな」
「先輩から?」
「この前お兄ちゃんの部屋見たら、本棚にいっぱい並んでたから。多分、このへんのやつ。きんぴら? とか」
んん?
「先輩の本棚にキーホルダーがいっぱい?」
「そう。でも黒いのはなかったから、それがほしかったのかな」
待って。それって。
俺はひじきをくれた日の先輩を思い出す。
先輩、ガチャガチャ回したらなんか出たって、さらっと言ってたよな。一回で出たよ、みたいな感じだったけど。
家にいっぱいあるって、本当はひじきを出すために何度も回してたってこと……?
ぶわっと胸に込み上げた感情が、そのまま喉から出てきてしまいそうで、俺はカップを握りしめて呷り、コーヒーで奥まで流し込んだ。
なんだよ、そんなの反則だ。
ガチャガチャの前でひじきを出そうと頑張ってる先輩を想像してしまって、嬉しいのと、おかしいのと、愛しいのが、全部混ざる。
コートのポケットに手を入れてひじきのキーホルダーを触ったら、じわっと何かが眦に溜まりそうになって何度も瞬きした。
「あ、友達来た。私行きますね。付き合ってもらっちゃってありがとうございました」
「こちらこそコーヒーごちそうさま。胡桃ちゃん元気そうで、安心した」
「庵野さん、やっぱいい人~。あの、連絡先交換してもいいですか? 私もしかしたら公立東も受けるかもしれなくて」
「うん、もちろん」
胡桃ちゃんと連絡先を交換して、俺達は店の前で別れた。
◇
帰りの電車の中で、俺は胡桃ちゃんから聞いた話を頭の中で反芻していた。
先輩の、彼女。
本当にいるのかどうかまだ確定じゃないけど、絶対に周りに知られないようにしてるなら、きっと俺にも教えてはくれないだろう。
でも、一方で俺はもしかしたら胡桃ちゃんの勘違いなんじゃないか、とも思っている。
だって、先輩と毎日いっぱいやり取りしてたの、俺だよ。寝る前とか、休みの日とか、先輩とトーク画面で頻繁にやり取りしてたもん。胡桃ちゃんが彼女って勘違いしてるだけかも。
それなら先輩に彼女がいるっていう話は本当じゃないから、俺は先輩の顔を思い出して切なくならなくていい。
先輩だって前に彼女はいないって言ってた。
でも、徹底して隠してるんなら俺が知らないだけでやっぱり彼女はいるのかも……
「春川の彼女って誰なん?」
という声が突然すぐ横から聞こえて、俺はびくっと飛び上がりそうになった。
視線だけ向けると、気づかないうちに女子高生らしき私服姿の女の子が四人乗ってきていて、近くに立っていた。
「え? 春川って、春川夜鷹? 本気でいるん? 勘違いじゃなくて?」
「彼女らしき影ないけど」
「でも、春川最近付き合い悪いよね。夜DMしても全然返事くれないし」
「でしょ」
空耳かと思ったけど、どうやら本当に春川先輩の話をしている。
先輩と同じ高校なんだろうか。ちょうどいま頭に思い浮かべていた内容だったから、そんなわけないのに俺の口から出てしまっていたのかと一瞬焦った。
運命の女神様が同じ電車に乗ってんのかな、と思うようなタイミングだけど、話が話だからつい耳を澄ませてしまう。
