◇
日曜日、俺は憂鬱な気持ちのまま街に出ていた。
テスト前だけど、休日出勤したお母さんから化粧水を買ってくるように急遽頼まれたので、おつかいのついでに外の空気を吸うつもりだった。
「はぁ……」
無意識に溢れてしまうため息に、自分でも気分が沈む。
あれから、昨日も一日中、先輩にどうやって謝ろうかずっと考えていた。どうしたら前みたいに戻れるのかな。それとも、もう何食わぬ顔で話しかけた方がいいんだろうか。
金曜はちょっと怒らせただけで、今は大して気にしてないかも。考えすぎて胸の中がぐるぐるする。テスト勉強頑張ってと送られたきり、先輩からの連絡はまだない。
午前中にデパートに着いて、指定された店で頼まれたものを買った後は、早々に帰路につこうと駅に向かった。
気晴らしに本屋に寄って帰ろうかとも思ったけど、何故か足が向かなかった。自分でもどうしたんだろうと思う。本屋に行こうと考えて気分が上がらないなんて、今までなかったのに。
でも、思い出しちゃうから。
本を見たら先輩のことを考えちゃって、多分余計に落ち込むから、今日はやめておこう。
駅前の広場には有名な彫刻家が造ったオブジェの像があって、待ち合わせスポットになっている。クリスマスも近いから、街は華やかだった。
耳が痛くなるような冬の風はきりっと冷たいけど、人出は多い。
サンタの帽子を被せられた像の前を通り過ぎるとき、前に立っていた女の子が一人ふと顔を上げた。
「あ」
俺を見て声を上げた相手に気づいて、俺は立ち止まる。
「庵野さんだ」
「胡桃ちゃん?」
休日スタイルになっていて、垢抜けすぎて一瞬わからなかった。先輩に似て容姿がいいから、髪をふわっと巻いておしゃれしていると、抜群に目を引いて可愛い。
ケーブル編みのもこもこの白い上着と毛織りの黒いロングスカートの組み合わせも、よく似合っている。
「庵野さんも待ち合わせですか?」
「俺はただの買い物。胡桃ちゃんは誰か待ってるの?」
「はい。今日は友達とクリパの買い出しで。ママが買い物するっていうから、一緒に連れてきてもらいました」
にこっと笑う胡桃ちゃんは元気そうだった。
「あれから大丈夫? 先輩が一緒に電車乗るって言ってたけど」
ちゃんと学校に通えてるだろうか、と少し心配で尋ねると、胡桃ちゃんは明るく頷いた。
「お兄ちゃんが一緒だから、電車は平気です。あれから乗る場所にも気をつけてるし」
そう言って、胡桃ちゃんは何か考えるような顔つきになってじっと俺を見つめてきた。
「あの、私、庵野さんに聞きたいことあって」
「え?」
俺が瞬きすると、胡桃ちゃんはスマホに目を落とし、突然すごい勢いで何か操作し始めた。そして俺の腕をぐっと掴み、その場から離れてずんずん歩き始める。
「えっ、く、くるみちゃん?」
「ちょっとだけ付き合ってください。お願い。コーヒーおごるから」
「ええ?」
近くにあったハンバーガーチェーンに向かって、迷いなく歩いていく。
俺が戸惑っている間に胡桃ちゃんは店内に入り、待ち合わせのオブジェが見えるガラス張りのカウンター席に俺を引っ張った。
「モバイルオーダーしたので。頼んじゃいました」
「え? ちょっと、なら俺払うよ」
「いいんです。この前お汁粉もらったし」
「あれ俺のミスだよ……」
「まあまあ美味しかったです」
飲んだんだ。
にこにこしてる胡桃ちゃんは結構強引で流されそうになったが、一個下とはいえ、中学生に奢らせるなんてどうなんだと思う。
俺が財布を出そうとすると、胡桃ちゃんはぷいと顔を横に向けた。
「電子マネーで払えるから、もう払っちゃいました」
「ええ……」
そう言っている間に、店員がドリンクを持ってきて胡桃ちゃんが受け取る。ドリンクだけだからとしても、提供スピードが速すぎる。
そしてモバイルオーダーを使いこなしている胡桃ちゃんは俺よりこなれてるな……
「友達との待ち合わせは?」
「ちょっと遅らせてってお願いしたから大丈夫。それにここから見えるから、友達来たらすぐわかります」
蓋つきの紙コップを俺に差し出して、胡桃ちゃんは椅子に座ると俺を上目遣いで見上げてくる。
「ね? お願い。どうしても聞きたいことがあるんです」
「俺に……?」
うんうんと頷くから、その話の内容というのが気になってきて、俺は胡桃ちゃんの隣に腰を下ろした。コーヒーもありがたく受け取ってお礼を言う。
俺が座ると、胡桃ちゃんは早速身を乗り出してきた。
「庵野さん、お兄ちゃんの彼女がどんな人か知りません?」
「え?」
日曜日、俺は憂鬱な気持ちのまま街に出ていた。
テスト前だけど、休日出勤したお母さんから化粧水を買ってくるように急遽頼まれたので、おつかいのついでに外の空気を吸うつもりだった。
「はぁ……」
無意識に溢れてしまうため息に、自分でも気分が沈む。
あれから、昨日も一日中、先輩にどうやって謝ろうかずっと考えていた。どうしたら前みたいに戻れるのかな。それとも、もう何食わぬ顔で話しかけた方がいいんだろうか。
金曜はちょっと怒らせただけで、今は大して気にしてないかも。考えすぎて胸の中がぐるぐるする。テスト勉強頑張ってと送られたきり、先輩からの連絡はまだない。
午前中にデパートに着いて、指定された店で頼まれたものを買った後は、早々に帰路につこうと駅に向かった。
気晴らしに本屋に寄って帰ろうかとも思ったけど、何故か足が向かなかった。自分でもどうしたんだろうと思う。本屋に行こうと考えて気分が上がらないなんて、今までなかったのに。
でも、思い出しちゃうから。
本を見たら先輩のことを考えちゃって、多分余計に落ち込むから、今日はやめておこう。
駅前の広場には有名な彫刻家が造ったオブジェの像があって、待ち合わせスポットになっている。クリスマスも近いから、街は華やかだった。
耳が痛くなるような冬の風はきりっと冷たいけど、人出は多い。
サンタの帽子を被せられた像の前を通り過ぎるとき、前に立っていた女の子が一人ふと顔を上げた。
「あ」
俺を見て声を上げた相手に気づいて、俺は立ち止まる。
「庵野さんだ」
「胡桃ちゃん?」
休日スタイルになっていて、垢抜けすぎて一瞬わからなかった。先輩に似て容姿がいいから、髪をふわっと巻いておしゃれしていると、抜群に目を引いて可愛い。
ケーブル編みのもこもこの白い上着と毛織りの黒いロングスカートの組み合わせも、よく似合っている。
「庵野さんも待ち合わせですか?」
「俺はただの買い物。胡桃ちゃんは誰か待ってるの?」
「はい。今日は友達とクリパの買い出しで。ママが買い物するっていうから、一緒に連れてきてもらいました」
にこっと笑う胡桃ちゃんは元気そうだった。
「あれから大丈夫? 先輩が一緒に電車乗るって言ってたけど」
ちゃんと学校に通えてるだろうか、と少し心配で尋ねると、胡桃ちゃんは明るく頷いた。
「お兄ちゃんが一緒だから、電車は平気です。あれから乗る場所にも気をつけてるし」
そう言って、胡桃ちゃんは何か考えるような顔つきになってじっと俺を見つめてきた。
「あの、私、庵野さんに聞きたいことあって」
「え?」
俺が瞬きすると、胡桃ちゃんはスマホに目を落とし、突然すごい勢いで何か操作し始めた。そして俺の腕をぐっと掴み、その場から離れてずんずん歩き始める。
「えっ、く、くるみちゃん?」
「ちょっとだけ付き合ってください。お願い。コーヒーおごるから」
「ええ?」
近くにあったハンバーガーチェーンに向かって、迷いなく歩いていく。
俺が戸惑っている間に胡桃ちゃんは店内に入り、待ち合わせのオブジェが見えるガラス張りのカウンター席に俺を引っ張った。
「モバイルオーダーしたので。頼んじゃいました」
「え? ちょっと、なら俺払うよ」
「いいんです。この前お汁粉もらったし」
「あれ俺のミスだよ……」
「まあまあ美味しかったです」
飲んだんだ。
にこにこしてる胡桃ちゃんは結構強引で流されそうになったが、一個下とはいえ、中学生に奢らせるなんてどうなんだと思う。
俺が財布を出そうとすると、胡桃ちゃんはぷいと顔を横に向けた。
「電子マネーで払えるから、もう払っちゃいました」
「ええ……」
そう言っている間に、店員がドリンクを持ってきて胡桃ちゃんが受け取る。ドリンクだけだからとしても、提供スピードが速すぎる。
そしてモバイルオーダーを使いこなしている胡桃ちゃんは俺よりこなれてるな……
「友達との待ち合わせは?」
「ちょっと遅らせてってお願いしたから大丈夫。それにここから見えるから、友達来たらすぐわかります」
蓋つきの紙コップを俺に差し出して、胡桃ちゃんは椅子に座ると俺を上目遣いで見上げてくる。
「ね? お願い。どうしても聞きたいことがあるんです」
「俺に……?」
うんうんと頷くから、その話の内容というのが気になってきて、俺は胡桃ちゃんの隣に腰を下ろした。コーヒーもありがたく受け取ってお礼を言う。
俺が座ると、胡桃ちゃんは早速身を乗り出してきた。
「庵野さん、お兄ちゃんの彼女がどんな人か知りません?」
「え?」
