同じ電車の男子高校生が気になる

 小声で聞かれて、思わず息を止めた。動揺して、スマホを握る手に力が入る。
 昨日の話って、俺が告るかどうか聞いたやつだよな。仲良い人って言っただけだったけど……まさか、バレた?

「そんなことない」

 と、咄嗟に声が出ていた。
 前田が誰かにバラすとは思えないし、茶化されるとも思わないけど、まだ自分でも自覚したばかりなのに誰かに自分の気持ちを打ち明けるなんて、とてもそんな風に思い切れない。
 誤魔化すしかない、と頭の中の俺が焦って言葉を並べる。

「春川先輩は、普通に……普通の、ただ仲いい先輩ってだけだから……」

 そう答えると、前田はあっさり納得した。

「あ、そなの? ごめん、なんか。みずきならそういうのありかなって一瞬思って」
「え?」
「なんか可愛いから」
 
 何がありかなしなのかはわからないけど、前田に可愛いと言われても全然嬉しくなかった。
 普通にムッとして眉を寄せると、慌てた顔になった前田が口を開く。

「あのさ、俺」
「春川!」

 そのとき、突然声がした。
 ぎょっとして、前田と二人で振り返る。
 前田の身体が壁になっていて見えなかったけど、同じ車内に春川先輩がいた。
 しかも、前田のすぐ後ろに。
 固まっていると、ドア付近に先輩の友達の山﨑さんがいて、こっちに向かって手を振っている。

「春川ー。なんでスマホ鳴らしても返事しないん? こっちだって。必死でアピールしてんのに」
「ああ、行く」

 春川先輩が山﨑さんに顔を向け、淡々とした声で答えた。その後俺と前田に視線を戻す。
 先輩は真顔で、俺を見ても笑わなかった。

「ごめん、声かけようと思ったけど、話し込んでたから」
「すんません! 俺が壁になってたんで」

 前田が我に返ったように声を出して、頭を下げる。
 俺はまだ驚きが抜けなくて、表情の薄い先輩の顔を見て動揺していた。

 さっきの話、聞かれてた……よな?

 前田のすぐ後ろにいたんだから、絶対耳に入っていた。

 俺、さっきなんて言った?

 固まっている俺を見て、先輩は少し困ったような顔をした。それを見て俺は弾かれたように口を開く。

「先輩、胡桃ちゃんの迎えは……」
「今日あいつ帰り遅いから、一旦家帰ることにした」

 そう言った先輩は、俺に向かって微笑する。

「みずき、俺に気遣わないでいいから。付き合わせちゃっててごめんね」
「え」
「じゃ、来週もテスト頑張ってね」

 先輩は俺から目を逸らし、背を向けて山﨑さんの方に歩いていく。

「あ……」

 どうしよう。引き止めたいけど、さっきの会話を聞かれたという混乱が頭の中をぐるぐる回っていて、足が動かない。

「びびった。まさか春川先輩本人が現れるとは思わなかった」

 前田が先輩の後ろ姿を見て呟く。

「俺無視ってるみたいに見えたかな? なんか、若干睨まれた気するんだけど」

 俺に耳打ちしてくる前田の声が右から左に抜けていく。

「ううん、どっちかっていうと、やらかしてるの俺かも……」

 小さく呟いて、俺はやっと足を前に踏み出した。

「俺、ちょっと行ってくる」