「私、その人に触られた」
小さいけどきっぱりした口調の声が響いた瞬間、形勢がひっくり返ったのがわかった。
車内の視線は、今度は一斉に痴漢の男に向かう。
振り向いて男に対峙した女の子は、きっと唇を引き結んでいた。泣きそうな顔で眉間に皺を寄せているけど、綺麗な顔立ちでかなり可愛い。
それもあってか車内の視線は、非難する色が強くなって痴漢に集まった。
俺と女の子を見比べた男は、顔を引き攣らせて視線を泳がせる。
「お、お前ら、グルになって俺を陥れようとしてるのか! そうなんだろう!」
なおも言い逃れようとするから、俺は苛立ちがつのって拳を握りしめた。なんだこのおっさん。恥知らずなクズだな。
口を開いて言い返そうとしたとき、俺より先に後ろから声がした。
「おっさんいい加減にしろって。いい年して、あんたが恥ずかしくねーのか?」
後ろを振り向くと、スーツを着た若いサラリーマンが立っていて、スマホから顔を上げて俺に加勢してくれる。
痴漢に視線をやって呆れ顔をしている彼にぎょっと目を見開いて、痴漢が顔を真っ赤にして口ごもった。
よし、やり込めた、と思ったが、ちょうどそれを見計らったようなタイミングで電車が駅に着いた。
開閉音と共にドアが開いた瞬間、痴漢は捕まえる間もなくばっと踵を返し、周りにいる人を乱暴に押しのけて走っていく。あっという間にその姿は見えなくなった。
「あ!」
反応が遅れて俺が声を上げたら、後ろにいたサラリーマンがため息を吐いた。
「ありゃ手慣れてんな……君達、ここで降りて駅員に話したら?」
そう言われて、俺は女の子を見る。俺と同じように痴漢が逃げるのを見ていたその子がこっちを向いて、目が合った。
「悪いけど俺は急いでるから行くけど。もう閉まるよ」
彼の声で、俺はその子を手招いた。
このまま乗っていても車内からの視線が痛いし、この子も気まずいだろう。それに後ろのお兄さんが言う通り駅員に知らせた方がいいかもしれない。
女の子の方も青い顔をしているから、一度降りてこの後どうするか確認しよう。
「一緒に降りよう」
と誘うと、その子もこくりと頷いた。
◇
電車を降りて早々に、女の子は深々と頭を下げてきた。
「ありがとうございました」
「大丈夫?」
「はい」
その子は頷いたけど、まだ青い顔をしていたから一度落ち着いた方がいいと思い、ホームにあるベンチに座ってもらった。
すぐ横に自動販売機があったから、俺は温かい飲み物を買って、女の子のところに戻る。
「これよかったら」
「あ、ありがとうございます」
ぺこっとお辞儀したその子は、俺から缶を受け取って、大きな瞳でぱちっと瞬きした。
「お汁粉……?」
「えっ……あっ、ごめん、間違えた!」
よくよく見たら、その子が持っているのは確かにお汁粉の缶だ。
「ココア買ったつもりだったんだけど」
俺もまだ気が動転してて、隣にあったお汁粉を間違えて押していたらしい。
「でも、あ、甘くて美味いかも……」
と、よくわかないフォローを自分でしたら、お汁粉を持つ女の子は俺をまじまじと見つめた後、小さく噴き出した。
その顔を見て、あれ? と思う。
なんか、表情に既視感があるような。気のせいか。
小さいけどきっぱりした口調の声が響いた瞬間、形勢がひっくり返ったのがわかった。
車内の視線は、今度は一斉に痴漢の男に向かう。
振り向いて男に対峙した女の子は、きっと唇を引き結んでいた。泣きそうな顔で眉間に皺を寄せているけど、綺麗な顔立ちでかなり可愛い。
それもあってか車内の視線は、非難する色が強くなって痴漢に集まった。
俺と女の子を見比べた男は、顔を引き攣らせて視線を泳がせる。
「お、お前ら、グルになって俺を陥れようとしてるのか! そうなんだろう!」
なおも言い逃れようとするから、俺は苛立ちがつのって拳を握りしめた。なんだこのおっさん。恥知らずなクズだな。
口を開いて言い返そうとしたとき、俺より先に後ろから声がした。
「おっさんいい加減にしろって。いい年して、あんたが恥ずかしくねーのか?」
後ろを振り向くと、スーツを着た若いサラリーマンが立っていて、スマホから顔を上げて俺に加勢してくれる。
痴漢に視線をやって呆れ顔をしている彼にぎょっと目を見開いて、痴漢が顔を真っ赤にして口ごもった。
よし、やり込めた、と思ったが、ちょうどそれを見計らったようなタイミングで電車が駅に着いた。
開閉音と共にドアが開いた瞬間、痴漢は捕まえる間もなくばっと踵を返し、周りにいる人を乱暴に押しのけて走っていく。あっという間にその姿は見えなくなった。
「あ!」
反応が遅れて俺が声を上げたら、後ろにいたサラリーマンがため息を吐いた。
「ありゃ手慣れてんな……君達、ここで降りて駅員に話したら?」
そう言われて、俺は女の子を見る。俺と同じように痴漢が逃げるのを見ていたその子がこっちを向いて、目が合った。
「悪いけど俺は急いでるから行くけど。もう閉まるよ」
彼の声で、俺はその子を手招いた。
このまま乗っていても車内からの視線が痛いし、この子も気まずいだろう。それに後ろのお兄さんが言う通り駅員に知らせた方がいいかもしれない。
女の子の方も青い顔をしているから、一度降りてこの後どうするか確認しよう。
「一緒に降りよう」
と誘うと、その子もこくりと頷いた。
◇
電車を降りて早々に、女の子は深々と頭を下げてきた。
「ありがとうございました」
「大丈夫?」
「はい」
その子は頷いたけど、まだ青い顔をしていたから一度落ち着いた方がいいと思い、ホームにあるベンチに座ってもらった。
すぐ横に自動販売機があったから、俺は温かい飲み物を買って、女の子のところに戻る。
「これよかったら」
「あ、ありがとうございます」
ぺこっとお辞儀したその子は、俺から缶を受け取って、大きな瞳でぱちっと瞬きした。
「お汁粉……?」
「えっ……あっ、ごめん、間違えた!」
よくよく見たら、その子が持っているのは確かにお汁粉の缶だ。
「ココア買ったつもりだったんだけど」
俺もまだ気が動転してて、隣にあったお汁粉を間違えて押していたらしい。
「でも、あ、甘くて美味いかも……」
と、よくわかないフォローを自分でしたら、お汁粉を持つ女の子は俺をまじまじと見つめた後、小さく噴き出した。
その顔を見て、あれ? と思う。
なんか、表情に既視感があるような。気のせいか。
